毎日サファリパーク!戦慄の西表島【旅レポ】

 「南国の島で非日常を体感したい。まぁいい経験になるでしょ。」 そんな気持ちで、気軽に考えて始めたのが西表島の宿での住み込みスタッフ。21歳の時のことである。社会人経験もないような青二才だったが、飲食店をはじめとしたサービス業のアルバイトはそこそこにこなしていたので、宿のスタッフなら務まると考えていた。

 事前に本を読んで下調べをしていたので、ある程度は覚悟ができていた。なんだかんだで住めば都だろう。内地では見られないサイズのゴキブリだって、蚊だって、みんなみんな生きているんだ友達なんだ。童謡さながらのテンションで乗り切れると思っていた。 しかし、そんな若輩者の想定の範囲など、西表島の自然たちは軽く凌駕する。

いい景色!でも、どこから何が飛び出してくるかわかったもんじゃない!  

髪の毛・・・?

 共存共栄はそれほど甘くはなかった。お互いに仲良くやろうなんて考えはまるでないらしい。何せ彼らは日常の至る所から不意に現れる。

  まず驚かされたのは、散々予習をしてきたはずのゴキブリである。道を歩いていると、急に肩に飛び乗ってきたのは序の口だ。それどころか、奴らは洗濯かごにあるシャツに侵入したり、夜の寝静まろうとしているスタッフルームで飛び回ったりするのだ。家庭では、その生命力の高さをたとえて「1匹見たら100匹いると思え!」なんて言われるが、この島で1匹見たら、実際のところ何匹いるのだろうか。それいでいて、この島のゴキはプリっとふくよかに育っている。やはり居心地が良いのだろうか。 圧巻だったのは風呂掃除のとき。小窓のサンに髪の毛が挟まっているように見え、つまみ上げるとそこから釣れたのは・・・。

 「うわああああああああっ!」 髪の毛と思っていたのは触覚。釣り上げられたのは、子供のこぶしくらいの大きさの・・・。僕は男ながらに高い声で悲鳴を上げ、滑ってしりもちをついた。

いのちがけのかくれんぼ。

 時として人に迷惑をかける厄介者もいる。いや、厄介者なんて言ってはいけないか。「家を守る」と書いて「家守」、ヤモリである。彼らは部屋のあちこちでキュンキュン鳴きながら動き回る。大体壁沿いを走り回っている。天井に居ることもある。  「どれだけ綺麗なホテルでも、ヤモリだけはどうしようもないさ~」

 とは近所のおばあから聞いた。たしかに彼らはすばしっこく、捕まえようと思って捕まえられるほどの存在ではない。それに普段は結構可愛くて、よくよく観察していると蛾やゴキブリを食べる瞬間を見ることもある。うん、きっと悪い奴らではない。  だが、時に彼らはとんでもない事故を引き起こす。ある日は袋に詰めたたまねぎの横でゴキと一緒に死んでいた。また、ある日は詰まった水道管の犯人として 4~5匹出てきたこともあった。一番困ったのは液晶テレビの何らかの線をかじって(?)感電死していたとき。焦げ臭いにおいと、ガガガガガ!という、謎の精密機械にあるまじき破壊音とともに発見されたときは笑うしかなかった。どうやって侵入したんだか・・・。

「今すぐ電気を消して!!」 夜20時の戦慄

 それでもゴキブリやヤモリなんかはしょせん単体である。飛んだり跳ねたりはお手の物だが、強敵というほどではない。もっと面倒くさい、島民泣かせの強敵がいる。気を付けなければならないのは夜の20時頃だ。 とある日の19時45分ころ、用事を済ませて戻ってきたオーナーが強い声で言う。

 「今すぐ電気を消して!!」 お客さんもいるのに何事かと思いつつ、すぐに電気を消したが遅かった。そこには無数の虫が飛び交っていた。羽アリである。ちょっと尋常じゃない、おびただしい量の羽アリ。

 「遅かった・・・、明日早く起きてね。」 と、オーナー。 羽アリはひと晩飛び回ると大半が力尽きて死に、さらにその羽がちぎれ、部屋中にぶちまけられるのだ。とんだ二次災害である。余談だが、ヤツらが現れるのは決まって蒸し暑い日の20時前後だった。何か理由があるのだろうか。

突然飛び出す方が悪いのか、それとも・・・ 

 他にも、宿で発生する生ごみを捨てるドラム缶にて大量の蛆虫が見れたり、トイレのサンダルの横にハブの抜け殻があったり、散歩で歩く遊歩道をサソリが横切ったり・・・。とにかく突然現れては人間をびっくりさせてくれる。もう少し穏やかに登場できないものかといつも思う。ほら、そうやってすぐ飛び出すか ら、島のあちこちで車に轢かれて煎餅に・・・。  そんなサファリパーク同然の西表島。しかし、島の代名詞的存在とも言えるイリオモテヤマネコ(天然記念物)は、島民でもほとんど見かけないという。宿のオーナーいわく、

 「30年宿をやってるけど、車に轢かれているのを一度見たことがあるだけ。」 大自然の中で車を走らせてる人間が悪いのか。飛び出す動物が悪いのか・・・。うーん、やはり共存共栄を目指すには、まず人間側から歩み寄ることだな。

 ただ、わかっていても、彼らが突然飛び出すとやはり悲鳴をあげてしまう。

                 西表島名物「イリオモテヤマネコ飛出し注意!」  

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