土地所有権の境界を示す「境界標」を探しながら歩く習慣がある筆者は、ことし7月に熱海市伊豆山地区を襲った土砂災害に関連して疑問に思ったことがあります。それは
「所有している土地が土砂災害などで原形をとどめていない場合、土地の境界はどうなってしまうのか」
ということです。
「どこからどこまでが自分の土地だ」という「境界」は「測量」によって確定されていると思うのですが、災害が原因で境界がわからなくなった場合はどうするのかを調べたところ
境界線には公法上の「筆界」と個人間で決めている「所有権界」があります。(中略)話し合いで決めることができない場合は、まずは公法上の境界である筆界を特定し、それを基準に話し合って決めるとよいでしょう。
筆界は、法務局に筆界を定めた公図や地籍測量図などがあれば、測量によって位置を特定することは可能ですが、そうでない場合は、筆界特定制度を利用する等して位置を特定するとよいでしょう。
筆界特定制度とは
土地の所有者として登記されている人などの申請に基づいて、筆界特定登記官が、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上、もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。
となっていました。
原形をとどめていない土地ではどうするの?
ただし今回の場合、被害に遭われた方々が住んでいた土地は土石流となって流れてしまいましたから、もともとあった土地の標高とか起伏とかなどをどうやって把握するんだろうという疑問が残ります。
そういった技術的なものはこのあたり
5.復元測量
既存の資料に基づき、亡失した筆界点等を復旧する測量です。地図、地積測量図など復元の基礎となる数値資料がある場合は、測量した成果と既存の資料を照合し復元点を割り出すことになりますが、地図や古い土地区画整理図面しかないなど数値資料が無い場合には、より広範囲を測量する、関係者の立会による確認作業を行なうなど、境界確定作業が必要になります。
6.地形測量
単に筆界点等だけではなく、境界線付近の建物、擁壁、側溝などの構造物やマンホール、電柱、法面など対象となる土地の現況を示す地物などを測量し、境界点等と一緒に示す測量です。境界点付近の構造物を利用して、境界点の様子が図面的に把握できるようにする詳細図を作成したり、境界線を越えて存在する越境の状況を示す図面を作成したり、現状の土地利用を示す目的で行なわれます。
7.高低測量
建物建築の際に要求されるもので、本件地、周辺土地の地盤高、構造物、道路などの高さを測量するものです。どこか基準になる点を定め、その高さを仮に10.000メートルとした場合の比較高として表示されます。
が関係するのでしょうか。所詮シロウト調べですが…。
今回のように「人災」とも言われる土石流に襲われた土地を復元して、過去と同じように境界を定めてまた住む…なんてことは現実的には考えにくいと思います。
ただし被害に遭われた方々に適正な賠償や支援が届くためにはまず「元々どのような土地だったか」がわかり、そのうえで「どのような被害があったか、土地のようすはどう変わってしまったのか」を知ることは、やはりとても大事だと思います。
それについては国土地理院がこのようなデータを公開しています。
このように様々な角度からの写真や「航空レーザ測量」によって、今回の土砂災害で地形がどのように変わったかを分析しているのですね。
そういえば筆者が先日クルマで伊豆山地区を通った時も、上空をヘリコプターがずっとぐるぐる飛んでいました。これも何かの調査だったのかも知れません。
官民の専門家有志が活躍
今回の災害では、当日から翌日に早くも「盛り土」の存在や、その土の量が「約54,000立方メートル」あったと指摘されていたことがとても印象的でした。
その理由は、官民各分野の専門家有志によって素早くチームが構成され、静岡県が公開しているオープンデータを活用して被害についての細かい分析を行っていたからだそうです。
静岡県はこういったデータのオープン化について先駆け的な役割を果たしているとのこと。海も山も川も美しい日本だからこそ、地形と密接な関係がある災害に対して官民一体の備えが必要です。
観光スポットにはすっかり賑わいが戻っている感のある熱海市ですが、7月にはこの災害で26人の方が亡くなり、1人の方が行方不明になっていること(※)を忘れてはいけませんね。
※2021年12月8日現在