【シリーズ・この人に聞く!第164回】新聞記者 望月衣塑子さん

徴用工問題もそうです。私自身、「国際間の約束を守るべきだ」という政府のスタンスも一定の理解はしていますが、同時に韓国の方々となぜこんな軋轢ができてしまうかというと、1965年の日韓請求権協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定のこと)の中で決められた、その当時の枠組みはわかりますが、枠組みを決める前提として植民地支配は違法だったのか?合法だったのか?という議論は、棚上げにされました。日本は当時の状況下では合法。韓国は違法と主張しました。
結局、折り合いがつかないから、その点ははっきりさせず8億ドルの有償、無償の資金援助という約束を交わした。植民地時代の人権侵害、慰謝料を支払えということは、政府としてできないと言うのも無理はないのですが、なぜ韓国がそのような話を今してくるのか?なのです。安倍さんになってから、加害の歴史の謝罪はしない、慰安婦は教科書の記述から削除される、国内での慰安婦像の展示はできない…と日本のニュースを見る限り、植民地支配時代の歴史が伝えられなくなっている。そもそも日韓請求権協定の枠組みを作ったのは安倍さんの祖父である岸信介です。韓国からすると、A級戦犯だった岸首相が作った枠組みが請求権協定であり、孫の安倍首相がその認識を引き継いでいるのではないか、安部首相は、加害の歴史まで変えようとしているのではないかと。韓国の市民が疑問を抱いているのは、日本というより安倍さんなのです。

――世界の中で、日本が反省を忘れていると見られるのは居たたまれないです。歴史を知らないと政治は語れませんね。安倍さんは勉強していないのでしょうか?

日本はアメリカのトランプ流の「禁じ手」を輸出管理強化で始めたと思いますし、それによって韓国の人々の感情が刺激され、安倍首相の負の側面が強調されている。企業が賠償金が払えないとしても、日本の歴代の首相談話などが述べてきた反省や慰安婦への謝罪について言及することがあれば、ここまで大きな問題に発展しなかったのではないかとも思います。加害の歴史を私たちがもっと学んでいたらこうした問題にはならないはずです。政治家二代目、三代目でも勉強している人はいます。でも安倍さんが歴史や憲法をしっかり勉強してきたとは到底思えません。こんな時こそジャーナリズムがより重要になっていくのではと思っています。

――たくさん勉強しながら新聞記者としてお仕事されて、お二人まだ小さなお子さんも育ててらして毎日どうされているのか心配です(笑)。子どもたちにはこの先どんなふうに育ってほしいと?

会見行って取材して原稿書いて家に戻って…と生活のリズムができればそんなに大変ではないですよ。紹介された本を読んで新しい発見も沢山あります。取材を通して情報や経験を学ぶことも多いです。夫も新聞社勤務ですが、時間を作って子どもの世話をしっかりみてくれます。同業者なので仕事への理解があるのも助けられています。子どもたちは「抱っこ抱っこ」を卒業しても、成長の中でいろんなものにぶつかっていく。だから3歳を過ぎたからもう安心ということではないです。私自身は割と早い時期、小学5,6年生で反抗期がきて、先生にも親にも歯向かってました。中学生になると逆に「所詮大人も一人の人間、失敗をするもの」と理解できるようになりました。伊藤詩織さんをはじめ、モノが言えない日本社会の中で、それでも声をあげて変えていこうという動きがあります。そうした状況をみていると希望があるし、私も社会に火を灯せる一人でありたいと思います。子どもに求めたいのは、先生の話を決して鵜呑みにしないこと。自分自身の考えや思いや疑問を素直にぶつけ、伝えられる人間であってほしい。流されないように自分の意見をもってほしいですね。

編集後記

――ありがとうございました!取材でありながら、歴史の授業を聞いているような感覚になり、大変学びの深い時間となりました。映画はフィクションとはいえ、真実を物語るシーンが数々あります。事実は小説より奇なり、ですが日々のさまざまな情報に疑問を持つことの大切さを改めて感じました。お忙しい中ありがとうございました。

2019年8月取材・文/マザール あべみちこ

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