線路は雑草に覆われて、続く先を見通すことができない。
ここは津波の被害を受けた場所ではない。気仙沼から陸前高田方面に山越えするJR大船渡線の途中駅「上鹿折駅」。気仙沼と陸前高田、そして大船渡の低地での津波被害が大きかったため、鉄路としての復旧を断念してBRTのバスによる輸送に切り替えられたのだ。その上、この駅から先、陸前矢作駅までの山越え区間は、BRTの路線からも外されてしまった。鉄道路線に大きな被害がないにも関わらずだ。
この駅にディーゼル車のホーンが響くことはない。駅のホームに乗客の姿が見られることもない。
傾いた駅名表示も、入口を閉ざされたホームの待合室も、信号灯や安全確認用のミラーも、ただ通り過ぎて行く時間に身を委ねているようだ。
上鹿折駅の構内に花が咲いていた。梅、オオイヌノフグリ。水仙と桜の莟も膨らんでいた。いまはもう咲いたかもしれない。
桜の木の下にある看板には、老木なので危険ですとの注意書き。上鹿折駅は6年前まで立派に現役だったはずなのに。
震災から6年。さまざまなことが変化してきた。閉店するお店の中には、別の場所で新しいスタートを切るところも少なくない。その一方、廃業を決めたところもある。高齢化、後継者がいない、人口減少で商売が成り立たないなど、さまざまな理由から歴史に幕を下ろすところがある。
ただ悲しい、残念だと言うだけでない、もっと前向きな見送り方を考えることも大切なのではないだろうか。上鹿折駅の味わい深い風景の中にいて、そういうことをふと考えた。