かさ上げ工事が進む陸前高田の町なかの、まさに工事現場のすぐ近く、そして本丸公園に向かう神社への入口近くで、こんなメッセージを見つけた。
今年もあとわずか
健康で笑って
新年を迎えられますように
引用元:小谷園茶舗からのメッセージ
メッセージが貼り出されているのは、創業80年以上、高田の町で唯一のお茶専門店だったという小谷園茶舗の仮設店舗前。
あれは師走も半ばの今日から数えて、もう4カ月も前のこと。炎天下、仮設住宅周りの草取りを手伝っていた時に、自治会長の奥さんから差し入れしてもらったお茶が美味しくておいしくて、どこのお茶なのか聞いたところ、「そんな褒めてもらうような高級なのじゃない、ふつうのお茶よ。小谷園で買ったお茶」と教えてもらった。それからずっと気になっていた小谷園さん。ちょうどお茶っ葉が切れそうだったので立ち寄ってみたら、上記のようなメッセージ。
お店に入る前からあたたかい気持ちになった。
小谷園さんの仮設店舗がある場所は、震災で流された店舗兼住居の近くなのだという。店内にはテーブルセットもあって、かつてのご近所さんたちが集まって、お茶を飲んだり、おしゃべりしたりできるようになっている。お店を訪ねた日にも、常連のお客さんらしき人たちが数人で、お店の人とお茶っこしているところだった。
仮設住宅や災害公営住宅でもお茶っこの機会はあるが、全員が参加するわけではない。いつも決まった顔ぶれになりがちなのは、どこも共通している。参加したいけれど参加しづらいという人も少なくないだろう。その点、町に一軒の茶舗だった小谷園さんに行けば、誰もが買い物ついでに、気兼ねなくお茶っこやおしゃべりを楽しめる。それに、元の住まいから遠く離れた場所に暮らす人たちにとっては、ここに来なければ会えない人もいるだろう。
何しろこの場所は、新しい市街地を造るための工事現場のすぐ目の前。見渡す限り赤土や黒土がむき出しの造成地。この場所にぽつんと立つ小谷園さんに、現在のところご近所さんはほとんどない。しかし、小谷園さんの仮設店舗が立つ場所は、この町で暮らしてきた人たちにとって懐かしい故郷のすぐ近く。この場所にあるからこその意味はとても大きい。
小谷園さんの仮設店舗の壁面、「小谷園」の看板の下の青いラインは、津波浸水域を示している。周辺の歩道や敷地の塀、石積みには津波の爪痕も色濃く残されている。
さらに仮設店舗の脇にはこんな看板がある。
山へ 高台へ
急いで 急いで!
引用元:小谷園茶舗脇の避難表示
よく見ると壁にはこんなメッセージも。
復興は長い長い道のり!
事故は一瞬!
あわてない 急がない ゆっくり!
引用元:小谷園茶舗からのメッセージ
復興は日常の延長線上にある。毎日毎日を過ごしていった先にある。津波の浸水域に立ち、新たな町の建設現場を見渡せるこの場所からは、肉眼では見ることの難しい、本当の復興の姿が見えてくるような、そんな気がする。
小谷園茶舗
陸前高田市高田町字下和野38-1
※ 小谷園さんの現在の仮設店舗は、来年2月にいったん高台に移転。この地域のかさ上げ工事が完了した後に、震災前に店があった場所付近に本設店舗を建設する予定だという。震災後、移転4回目にしてようやく本設店舗で商売を再開することになるが、その時期は「3年後になるか、2年半くらいでできるか」。震災から来年で6年になるが、再建にはほぼ10年という長い期間を要することになる。それでも、「店を再建すればそれで完了ということではない。そこからスタートなんだからね」と主である小谷さんは語った。