県が実施した復興工事の見学会に参加して、地元の人たちの声に真情を感じさせていただく機会があったのでご報告します。
約半日かけて大船渡市内各所の復興工事の現場を見て回った見学会、この日最後のプログラムは、JR大船渡駅があった周辺で工事が進めらている市街地の見学だった。防潮堤やトンネルなどの見学では、「工事に携わっている皆さん、ありがとう」「行政の皆さん、ご苦労様」といった雰囲気があふれていたが、町の中心部の市街地の見学ではたくさんの質問が飛んだ。たとえば、
「標高5メートル未満の土地は商業地、ただし人が住まない店舗のみの地域ということだが、すでにその地域で営業を再開しているホテルはどのような扱いなのか?」
「標高を示す数字に付けられている『T.P.』とはどういう意味なのか」
いずれもずっと以前から繰り返し説明されたきたことだ。「宿泊施設は管理された施設である、つまり管理者が常在するので万が一の時の避難が可能である」「T.P.とは東京湾における平均海面高さをしめすもので、全国の土木工事でも標高の基準とされている」
被災地では常識といってもいいような内容だ。質問した人も、たぶんこれまでに何度も説明を聞いてよく知っていることだったに違いない。
それでも震災から5年以上、そろそろ6年という時間を経る中で、地元の人たちは、何度も説明されてきたことながらも、さらに重ねて問わずにいられないのではないか。やり取りを聞いていてそんな気がしてきた。
背景には、『かつてと同じような生活を再建したい』という思いがある。商店街でも水産漁業関連でも、かつては職場と住居は一体だったりすぐ隣だったりした。浸水地域でかつては魚屋さんやお肉屋さんや八百屋さんや喫茶店やレストランや居酒屋や雑貨屋さんや文房具店や理美容室やお茶屋さんやお菓子屋さんやパン屋さんなどを営んできた人の多くは、店舗兼住居で暮らしてきた。それがかつての当たり前の町の姿だった。
それが行政の方針というかたちで浸水地域は居住不可、事業にのみ利用可とされた。方針を文字通りに読み込むと、津波による浸水の危険性のある地域(要するに新しくつくられる中心的な市街地)でも、換地などの制度を利用して新たに店舗を出すことはできるものの、その場所に店舗兼住宅の形で生活することはできない。
つまり、お店とは別に住居となる場所を確保しなければならなくなるということだ。
「ホテルだって人が寝泊まりする施設なのに、それは過去の浸水域でも建てることができる。それなのにどうして店舗兼住宅が許されないのか」
再開発、そして復興のために市が進めてきた施策に対して疑問の声が伝えずにはいられない気持ち。その場で直接耳にしてストレートに共感することができた。
この日の見学会で説明に当たり、参加者の質問に丁寧に応じていた行政の担当者は、「震災後も大船渡の町で事業を再建したいという意欲をお持ちの方がたいへん多いことを実感している。とてもありがたいことだと思うし、その声に応えていきたい」といった意味のことを二度三度と繰り返した。
大船渡に造られていく新しい中心市街地は、高さ5メートル未満の市街地を市が買い取って整備した上で、事業を行いたい人に貸し出されることになる。職住一体だったかつての生活環境とは異なるものだ。それでもずっと暮らしてきた地域で商売を再開したいという人がたくさんいるということだ。
他方、かつて生活の場所であった町が、賃貸による商業地域になることも不安材料のひとつかもしれない。自分の土地で職住一体で生活していれば、少々商売が傾いてもそこで生きていけが、賃貸となると賃料が払えなくなれば退場を余儀なくされるかもしれない。新しい商店街をシャッター通り化させない上では有効な施策かもしれないが、商店主全員が勝ち組であり続ける保証はない。
現地見学会で聞かれた質問の言葉。それは鋭い質問とか怒りの声といったものからはほど遠い。行政の担当者に感謝の気持ちを伝えながらも、それでもどうしても聞かずにいられないという静かな声だ。それだけに町の将来への関心の深さや生活の不安、やるせなさを示しているように感じた。
すでに個人店舗の再建も一部ではスタートした大船渡市。いよいよ街区も整備され、これから復興はさらに加速していくだろう。少なくとも見た目の上は。
これから新しく造られていく町は、新品だから美しい。デザインも凝ったものになるだろう。しかし注目すべきは外見だけではないはずだ。
親水公園も兼ねた橋の上で、参加者の1人が質問した。真新しい橋は中心市街地の動線の中心近くに位置し、川沿いの土手には桜並木が整備される計画という説明を受けての質問だった。
「桜並木ってことですが、大船渡市の市の花は椿です。桜ではなく椿並木にしてもらうわけにはいかないのですか?」
日本中どこに行っても同じような表情の町にするのではなく、地元ならではの特徴ある町にならないのだろうかというわけだ。これに対して担当者の返答は次のようなものだった。
「ご意見は承っておきます。…ただ、この川の土手は桜並木にする方向で工事が進められていますから」