東京電力がパブリック・リレーションにかける労力たるや大変なものだと思う。とくに事故原発に関しては汚染水や海洋、土壌、空気などのサンプリング結果を日常的に公開し続けている。また、ここ1、2年の間に、理系ではない人にも分かりやすい解説コンテンツも数多く作ってきた。
しかし、それでも原発の中で起きていることをリアルに想像するのは難しい。東京電力の発表でも、マスコミの報道でも、どうしても情報にフィルタが掛かってしまうので、事故原発のことを知れば知るほど現実がどんどん遠ざかっていくような変な気持ちにもなってしまう。
そこで、改めて推薦したいのがグーグルアースで事故原発を見ることだ。
東京電力福島第一原子力発電所
グーグルアースの地図は非常に解像度も高く、事故原発の現実がインパクトをもってリアルに伝わってくる。建屋カバーが外されて、崩壊した屋上部分も顕な1号機、オペレーションフロアから上が撤去されて無惨な姿を晒す3号機、爆発で大穴が開いた屋上を仮復旧しただけのタービン建屋、そしてそれらの周辺に立つ巨大なクレーンの群れ。ニュースで伝えられるほど楽な状況ではないことは一目瞭然だ。
しかし、困ったことにグーグルアースの地図情報は突然切り替えられることがある。過去には事故3年後くらいの地図が、ある日突然事故直後のものに差し替えられて、事故原発の復旧状況が分からなくなったこともあった。しかし、現在公開されているグーグルアースは比較的最近のものだと考えられる。
とくに何かを調べようなどという気がなくても、地図の上で歩きまわるように移動したり、拡大したり縮小したりしているうちに、事故原発が少しだけ身近なものに思えてくる。爆発の現実を突きつけてくる原子炉建屋周辺だけではない。ゲートの近くには昨年オープンした大型休憩施設のビルも見える。事故の深刻化を喰い止める上で大きな働きをした免震重要棟の周りにはプレハブのような建物も見える。おそらく事故原発で働く作業員の増加に対応するために増設されたものなのだろう。線量の低い廃棄物を焼却するために建設され、先月稼働したばかりの雑廃棄物焼却施設の真新しい白い建屋も見てとれる。
ニュースで耳にしたことがあるだけのものを、衛星からの視線で目のあたりにできるのは、不謹慎ながらエキサイティングだ。海側遮水壁は1本1本の鋼管杭も分かる。よ~く探せば地下水バイパスの黒い太いパイプラインや、凍土遮水壁の凍結材を送る銀色のパイプラインも見つかるかもしれない。事故後5年で、事故原発が変わりつつあるのも確かにわかる、敷地の4分の1くらいの面積を占めているのではないかと思えるほどのタンク群の数には驚かされるばかりだが、よく見ればリプレースされたものや、タンク周りに仮設の屋根が設置されていたりもする。
事故前には緑でいっぱいだった敷地にほとんど樹木らしきものが見当たらないのは、タンクなどの施設を建設する用地確保のためだけではない。猛烈に汚染した樹木からの放射線や放射能を軽減するため、つまり除染のためだ。
衛星からの目で敷地内を見て回っていると、フレコンバック(大型土嚢)やガレキのような固体の廃棄物が積み上げられている場所が点在してるのが分かる。大規模に土地を掘削して廃棄物置き場が造られているように見える場所も数カ所ある。伐採した汚染樹木を貯蔵する場所も、探せば見つかるだろう。
宇宙からの目で眺めれば、福島第一原子力発電所が近くに感じられる。遠い宇宙から見ているのに近づくなんておかしな話だが、たしかにそうなのだ。ぜひお試しを!
東京電力さんにはお願いがある。ぜひ事故原発敷地内をバーチャルに案内してくれるアプリを作ってほしい。グーグルアースで平面的に見ているだけでも興味津々なのだから、バーチャルツアーが実現したらたくさんの人が原発の廃炉作業に関心を持ってくれるのは間違いない。ぜひともよろしく!