保管容量には余裕があるようだ。廃スラッジや「追加発生する予定なし」とされているのは、セシウム吸着装置やモバイル型ストロンチウム除去装置で放射能を低減した後、多核種除去設備等で処理するという方向に処理方法が変わったためだと菅がえられる。また濃縮廃液も多核種除去設備等で処理するため追加発生なしとされたのだろう。
ラックによる保管とは、鋼製の囲みに立てて入れておくということらしい。SARRYや高性能ALPSで放射能を凝縮した吸着塔を野ざらしで保管して大丈夫なのかと不安になる。
ボックスカルバートとは暗渠などに使われるコンクリート製の箱で、コンクリートの遮蔽効果を利用する保管方法。当然、野積みに比べて線量の高い吸着塔等が保管される。
廃スラッジは汚染水中のセシウムを薬剤で沈殿させたもので、現在はコンクリート製タンクで保管されている。図にあるように、冷却したり、撹拌したり、喚起をしたりと、扱いは難しいようだ。10m盤よりも津波に対するリスクが軽減できる34m盤の鋼製タンクへの移送を実現してほしいものだ。その他、濃縮廃液は新たに設置された円筒縦型溶接タンク(漏洩が頻発したボルト止めのフランジタンクではない)に移送中とある。
ここで分析状況の資料にあった「検出できない核種の評価が課題」について紹介する。
評価対象としてピックアップされた38核種のうち、上の資料で緑色表示された6核種は分析法すら確立していないとの記述だ。今後の対応が記されているわけではないので、分析法が確立するのを待つということなのだろうか。
ちなみに、分析法未確立はいずれもベータ核種で、
Zr:ジルコニウム-93(153万年)
Mo:モリブデン-93(4,000年)
Pd:パラジウム-107(650万年)
Sn:スズ-126(23万年)
Cs:セシウム-135(230万年)
Sm:サマリウム-151(90年)
一時保管エリアの逼迫度は?
分別作業時の被曝の問題と並んで重要度が高いのが、一時保管エリアを将来にわたって確保できるのか、その充足度だ。今回の資料によると、0.1ミリシーベルトから1ミリシーベルトまでのがれきの保管容量が来年度以降逼迫しそうだ。ただでさえ発生量が多い上に、容器に入れた上での屋外保管なので、容器の調達と用地確保に困難があるのだろうか。
2014年度に使用済みの保護衣が一時的に逼迫したがその後、保管容量が増設されている。今年度末からは雑固体廃棄物焼却設備の運用が始まるので、使用済み保護衣等の保管量は減少していく見込みとなっている。
今後、長期的にがれき等の保管ヴォリュームがどのように推移するかを示す予想図も発表された。
建屋内保管の増強が説明されているが、ペーパー全体で強調されているのは、廃棄物の容積をいかに減らすかであるように見受けられる。
上が現状のままでの累積予測、下が減容などの処理を行った際の保管容積予測。2027年度には70万立方メートルになりそうなものが、20万立方メートルに抑えられる見込みだ。東京ドームの56%、戦艦大和10隻分になりそうながれきが、大和3隻分に減らせる算段だ。
しかし、最も厳重な管理が求められ、また高濃度のため減容も困難な30ミリシーベルト超の建屋内保管が2027年で約20万立方メートルまで増加する。合計すると40万立方メートル。現在の保管量とほぼ同じ規模だ。
さらに、事故原発の廃炉までに30~40年を要するという計画を東京電力は堅持しているので、廃炉措置の完了は2040年~2050年頃ということになる。予想図に示されているのは2027年度までだから、その後、建屋解体による大量のがれきが発生するものと考えて間違いないだろう。
なにしろ1号機でさえ原子炉建屋の総重量が6万6千トン、タービン建屋は7万トン、2~4号機は原子炉建屋・タービン建屋がそれぞれ約10万トンもあるのだ。そこから出てくるがれきの中には、30ミリシーベルト超の保管基準よりもはるかに厳重かつ慎重な扱いが求められる、限りなく危ないがれきも相当量含まれるはずだ。
建屋や原子炉の解体は、燃料デブリの取り出しと同様に、廃炉への道に立ちふさがる大きな課題だ。安全を再優先にした慎重な対応がとられることを期待したい。
あとがき:ほんとうに40年で廃炉できるのか?
排出した量が多く、かつ半減期が比較的長いセシウム-137やストロンチウム-90は、放射能が半減するのにおよそ30年かかる。60年で4分の1、100年経ってようやく約1割に減少する。1割になるとは、測定される数値の「0」が1つだけ減るということだ。たとえば現在1億ベクレルの汚染物がやっと1000万ベクレル、1000ベクレルがようやく100ベクレルになる。
放射能は自ら崩壊していかない限り減らせない。放射能汚染が減っていくことを本当の意味での「除染」と呼ぶとしたら、その方法は時間の手に委ねる他なく、人間に出来ることはない。(通常除染と呼ばれている行為は、汚染物質の場所を移動するだけの移染でしかない)
廃炉と、本当の意味での除染に要する時間を考えると気が遠くなってしまう。そしてまた、ひと度シビアな事故を起こしてしまうと、想像をはるかに超える被害をもたらすばかりでなく、復旧のためにも人智が及ばぬほどの時間と金銭と技術開発が必要になる原子力発電所という存在の底知れぬ恐ろしさを思わずにはいられない。