原発20km圏の海の魚介類は大丈夫か?

12月17日、東京電力は11月に採取された魚類について「魚介類の核種分析結果」を発表した。「福島第一原子力発電所20km圏内海域(港湾内を除く)」84検体、「福島第一原子力発電所港湾内」12検体のサンプル合計96の放射性核種データだ。

表題が「核種分析結果」なのだから、海洋に流出した可能性のある核種について、ある程度は網羅的に分析が行われているのかもしれない。しかし残念なことに、発表されたデータは「セシウム-134」「セシウム-137」「セシウム合計」の3項目のみだ。

水産物の放射性セシウムの基準値は1kgあたり100ベクレル(100Bq/kg)とされている(2012年4月1日以降。それ以前は500ベクレル)。また福島県の漁業者は独自に50ベクレルという基準値を定めている。このことを念頭に、今回の発表を見てみよう。

港湾外の魚のセシウム濃度

港湾内を除く20km圏内海域で採取された魚のデータには、ND(検出限界未満)の表記が並ぶ。84のサンプルの半数以上、43検体がNDだった。測定での検出限界値は、最も高いものでも1kgあたり4.8ベクレルまで計っている。この資料を見る限り、汚染が5ベクレル未満の魚介が増えている印象を受ける。

以下に1kgあたり10ベクレルを超えたサンプルをピックアップする。

【35.2】カスザメ(太田川沖合1km付近)
【11】コモンカスベ(小高区沖合3km付近)
【11】スズキ(小高区沖合3km付近)
【83】カスザメ(請戸川沖合3km付近)
【12】コモンカスベ(請戸川沖合3km付近)
【24】コモンカスベ(1F敷地沖合3km付近)
【34.8】コモンカスベ(木戸川沖合2km付近)
【19】ドチザメ(木戸川沖合2km付近)
【23.6】ババガレイ(木戸川沖合2km付近)
【10】ドチザメ(2F敷地沖合2km付近)
【17.8】ババガレイ(2F敷地沖合2km付近)
【28.4】コモンカスベ(2F敷地沖合2km付近)
【21】ババガレイ(熊川沖合4km付近)
【11】コモンカスベ(小高区沖合15km付近)
【11】コモンカスベ(請戸川沖合18km付近)
【21.8】コモンカスベ(1F敷地沖合10km付近)
【11】ホシザメ(2F敷地沖合10km付近)

漁業者による自主基準50ベクレルを超えたのはカスザメ1検体のみだった。国の基準を超えるものはない。またスズキが1検体、ババガレイが3検体あったほかはすべて、軟骨魚類(エイやサメの仲間)だったのも特徴的だ。

8検体で10ベクレルを超えたコモンカスベは美味なエイだが、まとめては獲れないため市場に出回ることはほとんどない。水深30メートル以下のそれほど深くない砂泥の海底に生息し、小さな魚や甲殻類などを食べているという。

カスザメはエイのように平らな体をしたサメで、非常に美味なサメとして有名だ。砂地の海底に生息。練物の材料に利用されることはあるが、市場に出回ることはまれ。小型の魚類、甲殻類、頭足類などを食べる肉食魚。

ホシザメとドチザメは近縁種で、いずれも浅い海に広く分布する小型のサメ。地域によって食用にされることもあるが、東日本で市場に出回ることはまれ。もちろん肉食魚。

ババガレイやスズキも含めて、10ベクレルを超える検体が見られたのはいずれも肉食魚だった。エイやカスザメ、ババガレイが海底の砂の中に潜って待ち伏せ漁する共通の生態を持っている点も興味深い。

港湾内の魚のセシウム濃度

港湾内で採取された12検体の検査結果は以下のようになっている。国の基準100ベクレルを超えたものは赤枠囲みで、自主基準の50ベクレル超えはオレンジ色の楕円囲みで示した。

これまでにも高い濃度で汚染された個体が見つかっているアイナメやニベは、100ベクレルを超えたものがあった。

しかし特筆すべきはシロメバルの2検体が「12,400ベクレル」「4,570ベクレル」という高い濃度の汚染度を示したことだろう。シロメバルはごく一般的なメバルの一種で、港湾内でも沖合でも獲れる。春告魚とも呼ばれる美味な魚で、市場にも出回るが、福島県沖で行われている試験操業の対象種には含まれていない。

シロメバルは底生魚ではなく、中層に上を向いてホバリングするように泳ぎながら、落ちてくる餌を食べる習性がある。餌は小型の甲殻類や魚類などで肉食だ。流れの速くない内湾を好み、30cmほどに成長する。

シロメバルはなぜ、他の魚種のサンプルと比べてずば抜けた測定値を記録したのだろうか。港湾外のサンプルに見られた傾向とあわせて考えると、似たような生態でも魚種により放射能に汚染されやすいものと、汚染されにくいものがあるようにも思えてくる。生息場所よりも肉食魚であることの方が影響が大きいのかもしれない。これは食物連鎖による濃縮(生物濃縮)の影響と考えることができるかもしれない。

しかし、肉食魚が必ずしも高濃度になる傾向があるかといえば、そうは言い切れない。3検体が調べられたアイナメも肉食魚だが、100ベクレル超が2検体あった一方、残りのサンプルは14ベクレルと低めだった。アイナメは岩礁混じりの砂地の海底に縄張りを持つ性質を持ち、限られたエリアに居着く魚だと考えられる。居着いた場所の汚染度によって、餌からアイナメに生物濃縮される放射性物質の量や種類に違いが生じる可能性がある。

興味深いのはシロザケ(日本近海に生息する一般的なサケ)で、セシウム合計で6.8ベクレルという個体が記載されている(もう1検体のシロザケはNDだが、検出限界は6.5ベクレル)。サケは外洋を回遊した後、生まれ故郷の川に戻って遡上する。サケが体内にセシウムを取り込んでしまうのは、母川への遡上を始めるにあたって河口近くで待機している期間がほとんどだろうと考えられる。

港湾内に定着して生活するメバルやアイナメではセシウムの数値が高く、回遊魚のシロザケは比較的低い。となると、このことをもって海の汚染度は港湾内と港湾外では異なっていると考えることもできそうだ。

しかし、これまで発表されてきたデータも含め、魚介類に含まれる放射性物質の濃度は種や個体による差異が非常に大きい。原発事故直後から行われてきた測定で、驚くほど高い汚染度の魚が散見される状況は、全体として汚染度のレベルが下がってきた現在も変わっていない(半減期が約2年のセシウム-134の分は事故直後の20%ほどに減ったはずだが、半減期が約30年のセシウム-137やストロンチウムはまだほとんど減っていないから)。主な汚染源である核種の自然減衰がゆるやかにしか進まない以上、現状と同様な傾向は長く続くと覚悟しておいた方がいい。

限られたサンプルを材料に結論を急ぐのは早計だろう。