大槌町の澄み切った湧水の未来

カモの仲間やチドリやセキレイなどなど、野鳥が飛び交い、にぎやかな鳴き声をあげているのは有名な飛来地の池ではありません。ここは、岩手県の大槌町。

池のように見えるのは、かつては町だった場所。どうして野鳥の楽園になっているのかというと、大槌町は震災のずっと以前から「湧水」で有名な土地だったから。大槌の湧水は、昔からの町中の、それこそ民家の敷地の中にでもたくさん湧いていた自噴井。とっても美味しい水でした。町の人々は、湧き出る水を汲んできて、大きな瓶に入れて飲み水や料理に使っていたそうです。それが大槌町の昔からの生活だったのだそうです。

地盤沈下の影響もあるのでしょう。水を汲みに来る人がいなくなったせいもあるのでしょう。大槌町の少し海側には、住宅の区画がまるごと池になったような場所がたくさん見られました。写真は今年(2015年)の元日に撮影したものです。

それにしても鳥達の鳴き声のにぎやかなこと。動画にとっておけばよかったと、今になってちょっと後悔しているほど。

湧水の側に立てられたリボン付きの棒は、ここに湧水がありますよ、との目印です。

絶滅が危惧されているトゲウオの仲間のイトヨも、大槌の湧水にはたくさん生息していたそうです。大津波の後にも生息が確認されたといいます。

こんな写真を見ると、この場所が町だったのがわかるでしょう。悲しい、辛い出来事があった場所、震災で何もかも変わってしまった場所ではありますが、こんこんと湧き出す泉が、たとえどんなことがあっても、ここは大槌なのだと語りかけてきます。

震災遺構として一部が保存されることになった旧・町役場の前にも湧水がが数か所。震災後に調査が行われ、1つひとつの湧き水に番号札が付けられています。

しかし、大槌町では土地のかさ上げ工事が急ピッチで進められているのです。豊かな湧水を土で埋め立ててしまって大丈夫なのだろうか。土地の安全という点でも、湧水が育んできた町のくらしの文化という面からも心配になります。

かさ上げ造成が行われて、元の地面より何メートル高い土地が新しく造られる町の中心部では、造成工事を始める前に湧水を止水する工事が行われたと聞きました。水を止めるにあたっては、神事もとり行われ、丁重に水が止められたのだとか。

大槌町では駅があったあたりから山側が、かさ上げ造成された後に新しい大槌の町になる計画が立てられています。それより海側は園地として、湧き水を生かした憩いの場所になる予定。造成が進む町の何カ所かに掲げられた計画図には、そんな未来の姿が描かれています。飲んでもおいしい湧水や、天然記念物のイトヨも共存できる新しい大槌の未来図です。

しかし、それから9ヶ月ほどたった後、同じ場所に行ってみると、不思議な事に湧水の噴き出しが目に見えて減っていたのです。将来は公園になる場所なので、たぶん止水はしていないはずなのに、かつての自噴泉からの水はほとんどなくなり、それとは別の場所から水が湧いているところもありました。

山側で進められているかさ上げ造成の影響も、もしかしたらあるのかもしれません。何か大きな問題がなければいいのですが。

大槌の町はいま、その姿をどんどん変えています。昨日と同じ今日はないといった感じで、将来に向けての変化が続いているのです。変わっていく大槌に、機会があれば何度でも訪ねてみたいと思います。

湧水とともにあった大槌が、ふたたび賑わいをとりもどすその姿を、そんなに遠くない将来に目にしたいものと願っています。