2015年10月26日、東京電力は海側遮水壁の設置が完了したと発表した。
ずらりと並んだ円筒状が「鋼管矢板」と呼ばれる建設資材。長さ約30メートルの鋼管を594本も一列に打設。約780メートルにわたって築かれた遮水壁が、港湾内と原子炉敷地の水の出入りを遮断した。
1~4号機側の敷地から港湾内に流れている地下水をせき止めることができ、海洋汚染をより一層防止できると考えています。また、万一、汚染水漏れ等があっても、海洋に流出するリスクが大幅に低減できると考えています。
海側遮水壁閉合作業完了にともない、汚染水対策の3つの基本方針である「汚染水を漏らさない」対策が進み、「汚染源を取り除く」「汚染源に水を近づけない」対策も合わせ汚染水対策が大きく前進ました。
発表されたリリースによると、「汚染水を漏らさない」ことがこの遮水壁の目的だったことがよくわかる。しかし、2012年4月から作業を進め約10メートルを残して今年8月まで工事を中断していたのは、海側遮水壁が地下水ドレンの運用とワンセットだったからに他ならない。
ジョイント部の遮水によって工事完了
東京電力は約1カ月前、9月24日に「福島第一原子力発電所 海側遮水壁打設工事完了について」というリリースを発表していたが、この時は鋼管矢板の打設が完了したということで、最終的な遮水作業の完了は、今回10月26日とのこと。
【お詫びと訂正】9月の発表を受けて「海側遮水壁の工事が完了。海岸が鋼管矢板で閉ざされる」というタイトル記事を書きましたが、正確には「海側遮水壁の打設工事が完了」ということでした。訂正させていただきます。
つまり円筒状の鋼管矢板の継手(ジョイント)部分の水止めを行ってはじめて、全体としての遮水壁が完成したということ。水の出入りを堰き止めるため、小さな円筒形のジョイントに無収縮モルタルを注入して、遮水ゴムで水の流入を防止するという構造だ。(右図は東京電力の資料「海側遮水壁閉合作業について」2015年9月9日から抜粋・引用)
海側遮水壁の完成で地下水ドレンはフル稼働か
今回発表されたリリースには、遮水壁工事を行う中で遮水壁の内側の地下水位の動きのデータも付けられている。
9月19日に鋼管矢板の一次打設が完了するまでは、潮の満ち干きが地下水位に影響している様子が見えるが、打設完了後は順調に地下水位が上昇している。地下水を堰き止める「ダム」としての機能を果たしているものと考えられる。
10月8日に水位がいったん低下した時期については、ジョイント部分の洗浄作業の影響と東京電力は説明している。モルタルの注入が進むにつれて再び水位が上昇しているので、この説明は妥当と見ていいだろう。
つまり、この先「タービン建屋東側」や「4m盤」と呼ばれる港湾に面したエリアの地下水位はどんどん上昇すると考えられる。このエリアの水位が高くなると、タービン建屋内やサブドレンに地下水が流れ込むおそれもある。
遮水壁の完成は、それ即ち、堰き止められた水の汲み上げが重要になるということだ。今後のサブドレン・地下水ドレンからの汲み上げで、地下水ドレンからの汲み上げの割合が高まる可能性もある。高い濃度の汚染が確認されているエリアだけに、今後の地下水ドレンの運用から目が離せない。