凍土遮水壁の山側で冷媒の充填が完了

外野での賛否が見事に分かれている凍土遮水壁。地面の中に縦に設置したパイプに冷媒を流して、地面そのものを凍らせることで地下水が建屋に入るのを止めようという極めて野心的な設備建設だが、いよいよ第三コーナーに入ったようだ。

ブライン充填作業の様子(1) | 東京電力 撮影日:2015年9月3日

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遮水壁と呼ばれる構造物には2種類ある。ひとつは1~4号機タービン建屋東側の護岸を鋼管の矢板を使って遮水する海側遮水壁。こちらは巨大な鉄管でダムをつくって汚染された地下水が海に流出するのを抑えることが期待されており、こちらも工事の最終段階だ。すでにすべての鋼管矢板が打ち込まれ、10月には完成の予定という。

もう一種類が凍土遮水壁とも呼ばれる陸側遮水壁だ。こちらは原子炉建屋とタービン建屋を取り囲むように凍土の壁を地中につくる、汚染水対策の切り札のひとつと目されてきたもの。完成すれば深さ30m総延長1,500mの氷の壁となる。運用上、山側と海側に分けて、冷媒の封入、試験凍結が行われている。

その山側(上流側)で冷媒の封入が完了した。いよいよ本格的な運用に向けての準備が進むことになる。

しかし試験凍結の状況はあまり芳しくない。地中の温度がマイナス20℃まで低下した「優等生」的な計測箇所もあったが、夏の終わり8月頃から0℃に迫る勢いで上昇している。0℃より下がっていない場所も少なくない。さらに、7月末に停電で冷媒供給が6時間停止した際には、冷媒温度の送りと戻りの温度差のグラフに著しいピークが見られた。これは凍結が十分に進んでいなかったことを意味している。

凍土遮水壁はある程度まとまった体積の凍土が出来なければ機能しにくいのは言うまでもない。9月に発表された試験凍結が示しているのは、地中の凍土壁が十分な塊になっていないということなのかもしれない。しかし他方、凍土壁の凍結が進み、数カ所だけ凍っていない場所ができるような状況になれば、上流側の地下水位が高まり、数少ない隙間から建屋側に流れ込もうとする地下水の流速が上がる可能性がある。流速が上がると凍土遮水壁のシステムで凍らせることが難しくなる。

とはいえ凍土遮水壁と同じ考えで実施され、凍結に非常な困難を伴ったトレンチの凍結封止でさまざまなノウハウが蓄積されている。経験と技術を活用することでなんとか地下水を凍らせて止めてほしい。

なにしろ建屋への地下水流入が続く限り、新たな汚染水が増え続けるのだ。建屋に流入する地下水を減らすことなしの汚染水対策はありえない。これから先、凍土遮水壁がうまく機能しているといういいニュースが伝えられていくことを祈りたい。