東京電力は「魚介類の核種分析結果<福島第一原子力発電所20km圏内海域>」という資料を発表している。測定に1カ月近い時間を要するストロンチウム-90の値も含む詳細なデータだ。発表されたデータではストロンチウム-90の値は意外なほど低いのだが、逆にセシウム-134と137の合計値は高い。
いったい何が言いたいのか、素朴に疑問に思ってしまった。
最初のページに掲載されているのは、アカエイ、マコガレイ、ババガレイの3種類5サンプル。採取されたのは南相馬市小高区沖、楢葉町の木戸川沖、原発敷地沖、大熊町の熊川沖でいずれも事故原発から20km圏。
測定結果を見るとストロンチウム-90では、最も低かったアカエイが1kgあたり0.036ベクレル、最高値のババガレイでも0.64ベクレルとかなり低い。それに対して参考値として示されたセシウム合計値は、最大256ベクレルから最低でも77ベクレル。1kgあたり100ベクレルという基準値を超えるものまである。
高い数値を出したがらない東京電力が(と考えるのは偏見かもしれないが)、わざわざセシウムの高い数値を「参考」としてまで掲載している理由は何か。
こう考えてみたらどうだろう。
これまで魚介類ではストロンチウム-90が高い濃度で蓄積されているのではないかと心配されてきた。ストロンチウムはカルシウムと似た性質なので、骨や筋肉に取り込まれやすい。しかし、ストロンチウム-90の分析には1ヶ月近い時間がかかるため、セシウムのように手軽に測定することは難しい。
また、ここがキモなのだが、セシウムとストロンチウムはほぼ同量が原発事故で排出したという見立てが広く知られてきた。
そこで、セシウムは高くても、ストロンチウム-90はすごく低いというサンプルを提示することで、今後セシウムだけを測定した場合にも、ストロンチウム-90の値は低いという印象を与えることができる。
たまたま測定結果を発表しただけなのだとしたら、とんだ勘ぐりでお詫びするほかないのだが、この資料発表は、少なくとも結果的にはそのような効果を生み得るものにはなっている。
ちなみに発表資料の2ページ目はトリチウム(H3)濃度に関するもので、ヒラメの肉に水分として含まれる「組織自由水型」のトリチウムでも、肉の組織に取り込まれている「有機結合型」トリチウムのいずれもかなり低い数値だったという結果が示された。