ペットボトル水道水に「ND」マーク。さすがにこれは…

【福島市水道局のペットボトル水「ふくしまの水」がモンドセレクションで金賞】

自分で言うのもなんですが、福島が好きです。とくに震災の後、福島を訪れるたびに地元の人たちにはとてもよくしていただいていています。お話をさせていただくたびにパワーをもらってきました。福島の人たちが大好きです。しかし、これを見た時には、何と言えばいいのか非常に複雑な思いが湧いてきました。

モンドセレクションで金賞を受賞した「ふくしまの水」 福島市水道局のページより

www.city.fukushima.fukushima.jp

中に入っているのは安全な水道水です

水道局のホームページの説明を引用させていただきます。水道水のおいしさを広く知ってもらうためのペットボトル販売とのことです。

ペットボトル水「ふくしまの水」を販売しています

 福島市水道局では、皆様に水道水のおいしさを知っていただくため、ペットボトル水「ふくしまの水」を販売しています。皆様に自慢できる水、「ふくしまの水」を是非、お試しください。

中身は何?
 深い山々が育む清流「摺上川」の水を原水として、「すりかみ浄水場」で浄水処理をした水道水を詰めています。

ラベルデザイン
 ラベルデザインは、色とりどりの花々と山々の緑の鮮やかさやが魅力であり福島の桃源郷と呼ばれる「花見山」と、福島市の観光PRキャラクターである、「ももりん」を背景に用いています。

ご購入のご案内
 ご購入を希望の方は、水道局企画課で受け付けています。
 ご注文は1本単位で受け付けますので、下記注文書に必要事項を記入のうえ、ファクスでご注文下さい。
 商品の受け渡しについては、事前に相談いただいた場合以外、水道局での受け渡しをお願いします。

容器(容量)
 ペットボトル(500ミリリットル)
価格
 100円/本(税込)

引用元:ペットボトル水「ふくしまの水」を販売しています | 福島市水道局

購入は水道局の企画で受け付けていて、基本的に水道局での受け渡しということなので、とてもローカルな商品なのだということがわかります。

水道局には、福島の水道水がいかにおいしいかをPRしているページもありました。国が設置した「おいしい水研究会」が示した「おいしい水の要件」をすべてクリアしているということです。

モンドセレクションということよりも気になること

ローカルな水道水を、どうしてモンドセレクションに出品しなければならなかったのかという点も、たしかに少し気になります。しかし、おいしい水だから認めてほしい。モンドセレクションが認証する水だということを、広くアピールしたいというのは、地域愛という視点からすればある意味自然な思いかもしれません。

そのことよりも何よりも、どうしても引っかかってしまうのは500ミリリットルペットボトルのラベルデザインです。

福島市民が誇る花見山の花。きれいでいいですよね。商品名からちょっこり顔を出している観光キャラクター「ももりん」もいいんです。問題はその下に記された「ND」です。

ちょっと読みにくですが、NDの文字を取り巻いているのは、「放射性物質はND(検出限界未満)です。福島市水道局」という文字。

そうです。NDとは「not detected(検出されず)」という意味。ゼロではありません。検査をしたけれども検出されなかった、つまり、限界まで計ってみたが検出されなかったということです。正確にいえば検出精度の限界以下である可能性は否定していないということ。「ゼロではない(かもしれない)」ということです。

検出限界未満とはどういう意味?

食品などの放射能を測る際の精度は、測定時間に大きく依存します。精度を高めようとすると、より長い時間測定しなければなりません。検出限界値を半分にするには4倍の時間を掛ける必要があるそうです。それも数分とか数秒といった時間ではありません。ある食品の実際の検査データから抜粋すると、「1.07kgの資料を120分測定した際の検出限界値が6.52Bq/kgだった」というものがあります(あくまで参考の数字です)。

食品などの放射能を精密に測るためには、想像できないほど長い時間がかかるということなのです。

検出限界に関しては、実際に放射能の測定を行っている suyasuyaさんが書かれたとてもわかりやすい記事がありますので、参考にしていただきたいと思います。

あなたは検査結果が不検出(ND)で検出限界が30Bq/Kgの山菜Aと、検査結果が5Bq/Kgの山菜Bのどちらを選びますか?
 
検出限界がよくわかると山菜Bを選ぶと思いますが、それでも不検出(ND)の甘い誘惑に引き込まれそうになるのは、検出限界のわかりにくさによるものです。

引用元:【ぽたるページ】放射能検査のウラ話 2

この記事で suyasuyaさんが強調しているのも、NDであるかどうかより検出限界値が重要だということです。

ラベルにどーんと印刷された、罪つくりな「ND」

実際に suyasuyaさんにお会いした時に伺ったのですが、たとえば山から流れてくる沢の水でも、水そのものから放射能が検出されるのは稀なのだそうです。懸濁物(にごり)が混じらない限り水そのものの放射能が低いのであれば、水道水である「ふくしまの水」もおそらく放射能に関しては心配ないでしょう。モンドセレクションで金賞を受賞したほどですから、安全性についてもお墨付きを得たと考えていいかもしれません。

しかし、水が安全でおいしいということと、まるで黄門様の印籠のように「ND」の文字をラベルで強調するのはまったく別の問題です。

極論を言うならば、ND=安全ではありません。もちろん飽くまでも極論です。ごくわずかの資料を使ってごく短時間測定しただけなら検出限界値が10万ベクレルなんていうこともあり得る、という意味の極論。常識的にはないことです。しかし、ND=ゼロではないことは、ここまで縷縷書いてきたとおりです。

NDが意味するところを具体的に示すことなく、まるで印籠、あるいはアイキャッチのようにNDを振りかざすことで、「NDって表示されているから安全だ」「NDって放射能ゼロってことだよね」という誤った理解が広まることを懸念します。

水道水として供給されている水なのですから、安全であることは当たり前でしょう。わざわざ「ND」と表示して混乱を招くことはないのではないかというのが、私の意見です。

せっかくモンドセレクションで金賞を受賞したのですから、NDの代わりに受賞のマークをラベルに使われたらどうでしょう。