訪日外国人客1,300万人という人数に惑わされるな
観光業や商業施設、サービス産業にとっては、2月という商売が落ち込む時期に、こうした特需が起こるのは、日本にとって本当にありがたい事だと思っています。昨年一気に更新した、訪日外国人客1,300万人ですが、このまま順調に2,000万人超えるところまで、何の障害もなく、右肩上がりで伸びて欲しいことを祈るばかりです。
さて、肝心な売れ筋商品は何だったのが必ず話題に上がります。これは、買い手(中国人客)の気持ちになればすぐに理解できます。中国では、かなり前から食品に関する安全や製品に対する品質の問題が持ち上がっています。
農産物や海産物に限らず、玩具にいたるまで、大量の成長ホルモン剤や漂白剤、抗菌剤が輸入品の検査で検出されたりするため、輸入禁止措置が取られるわけです。人体に悪影響を及ぼす使用が禁止さているものが使われているからです。
これには、中国国内でも気づいているわけです。だから国産ではなく、世界でもっとも品質が安定しているメイドインジャパンを欲しているのです。
要約すれば、以下のとおりです。
(1)日本と中国であまりにも品質の差、安全の差、信頼の差が大きくて、普段から使いたい物。
(2)日本にしか売っていない、または中国で買ったらとても高いので買って帰りたい物。
この二つの要素で、ほとんど表すことができるのではないでしょうか。
こうしたものが円安で、さらにお得感があっての「爆買い」に見えるのです。お金が有り余って、何でもガンガン買っているわけではないのです。必要で必死に買ってるのです。
新聞の折込チラシをチェックし、買い物する主婦の感覚に非常に近いとい思います。
昔はともかく秋葉原の電化製品。今は、高級カメラ、時計、粉ミルク、電子炊飯器、紙おむつ、ウォッシュレットの便座等々、驚く人も多かったと思いますが、どれも前述の(1)、(2)に当てはまります。
驚くのは、こうした分析がきちんとできていないからで、的はずれな商品構成やコンセプトで空振りする企業やお店が出てくるのです。
意外だとよく思われるものに、「お菓子類」「薬品・サプリメント」の類があります。
「中国だってお菓子あるでしょ?」は愚問です。日本のお菓子が、美味しくて、安全で、日本が作っているという信頼があるから売れるのです。その上、抹茶入のお菓子は、中国にはないから(あっても不味いか怪しいか)だから、日本で買っていくのです。「抹茶」は「富士山」同様、日本の象徴ですから、お土産としても最適です。「月餅」こそ買って帰らないです。ただし、中国で売っている品物に不信があり、日本で買って帰るのなら話は別ですが。
日本人が当たり前のように食べているお菓子類は、世界から見たら結構な「絶品」なんです。世界中で日本料理がブームになっています。なぜなら、その「味」が良いからです。世界が認める「味」に普段から触れて、鍛えられているのが日本人の味覚なのです。不味いお菓子は日本では生き残れません。だから中国人に限らず、外国人がこぞって買って帰るのです。
粉ミルクを安心して子供に与えられないから日本で日本の粉ミルクを。日本製と書いてあるけど信じられないから日本で日本の化粧品を。漢方薬に何が混ざっているか不安だから日本の薬やサプリメントを日本で。日本の雑貨は安くてもしっかりしていて、その上機能も良いので100均で買い物を。
ものすごくわかりやすい消費行動です。
こうした購買理由は、なにも中国人旅行者だけではありません。訪日外国人客1,300万人の共通感覚だと思うべきです。
重要なのは、急激に増えた訪日外国人客の渡航目的です。「何しに日本へ来ましたか」を浮き彫りにしないと、いけません
実態は買い物ツアーとグルメツアー、そりゃ観光だってしてますけど
ニュースでも伝えられているように、たくさんの買い物をして頂いています。たくさんの日本の食を味わって頂いています。観光地にも訪れてもらっています。本当に感謝です。ビジット・ジャパンを推進してきた政府に、何の間違いもありません。
現状把握をしっかりしないと良くないと言っているのです。訪日外国人の内訳は、圧倒的にアジア諸国であり、全体の3/4を占めています。彼らからみれば日本は間違いなく先進国です。しかも治安は安全、親切、街も綺麗ということが、知られるようになりました。
そして、前述したように、世界に誇るあらゆる品質の良さがあります。製品・商品の質、料理の質、サービスの質です。
これらを買い物や食事で体験することが、圧倒的な人気なのです。折角の海外旅行ですから、日本の風光明媚も楽しみます。ただし、優先順位がはっきりしています。
そうです、買い物と食べ物の方が優先です。観光はついでといえます。今のところは。
「そんなことないよ、中国人いっぱい来ているよ」と仰せの観光地の方がいらっしゃると思いますが、中国からの旅行者は、基本的に団体旅行客ですから、ツアーの中に「観光」が混ざっているのです。買い物の時間は少なし、食事は横浜の中華街、でもたっぷり日本の景色や歴史的建造物が楽しめるツアーの企画では、誰も来ないでしょう。ツアーの目玉は、「買い物」「グルメ」です。
ここのところが、日本人には比較的理解し難いのです。というのも、日本人が海外旅行する場合の目的の第1位は、観光なんです。マチュピチュ見たいです。ナイアガラの滝見たいです。エアーズロック見たいです。アンコールワットも、サグラダファミリアも、ダイヤモンドヘッドも、モンサンミッシェルも・・・というのが我々日本人が海外で体験したいことなんですね。
バブルの頃には、ブランド品も買いあさりましたよ。でもついでなのです。アラモワナショッピングセンターに入り浸りはしないです。円高でお得なブランド品を買うだけですから。
今訪日外国人客が買っているのは、ブランド品ではないのです。ダイソーにも押し寄せていますから。私はダイソーでブランド品を見たことがありませんから。
何が言いたいかというと、旅行の根底にあるのは、無い物ねだりだと思うのです。そこに行かなければ得られないものを求めています。海外旅行だけではありません。国内旅行においても同じです。そしてそれは、商品や食事だけではなく、癒やしも含めた無い物ねだりです。ですから、我々日本人は、買い物ではなく、観光が海外旅行の目的の第1位になるのです。普段から、いろいろな物を国内で買えて満足してますから。
TPPでインバウンドが危ないと思う訳
自由貿易で、関税障壁が取っ払われたら、日本の良い物を、アジア圏の人たちは自国で安く手に入れることが出来るようになります。今まで日本に来て購入して持ち帰られたモノは、輸出が相当伸びるでしょう。そうしたモノは、もともと国際競争力が実証されていますから。わざわざ日本への渡航費、宿泊費をかけてまで購入しても元が取れるものですから。それらが、近所で買えるようになったら、バカ売れまちがいなしです。
今訪日外国人に売れているモノを作っているところは、安泰です。日本に来れなかった人までもが買ってくれます。痛いのは、それらを売っていた日本の店舗の小売業です。わざわざ渡航費使って日本に来て、持ち帰る必要がなくなりますから。TPPによって、日本への旅行の「目玉」が消えてしまいます。食の業界は、各国へ進出すれば良いでしょう。食べに来なくなったら、食べさせに行けば良いのです。最近TVでも、いろいろな国で日本食を提供するお店を紹介する番組が増えていますが、結構流行ってますよね。苦労している食材も、日本のものが現地で安く仕入れられるように変わるでしょう。
小売業とともに、観光業は痛手を被るでしょう。目玉がTPPで消えちゃいますから。悲観的なことを言ってるのではなく、観光業界は主役である「目玉の座」を今の内に観光にしていかなければ危ないということを言いたいのです。買い物とグルメで訪日客が増えているのも広い意味では、観光でしょう。問題は、そこに変化が生じた時に、外国人を呼び続けるだけの魅力を備えているか(あるいはPRできているか)が非常に重要な事だと思うのです。
そもそも国内旅行が頭打ちになっているではありませんか。人口が減っているとはいえ、景気が低迷しているとはいえ(残念ながら安倍さんたちはそうは思っていないようですけど)、旅行しやすいシニア層の比率は世界一高い国なのに。
海、山、温泉のクリーンアップみたいなプロモーションから一気に変わっていかないとマズイです。日本では海、山、温泉の3つが全部揃わない地域の方がごく僅かで、差別化にもなりません。日本食で言えば、うちの店では「ご飯と味噌汁とお新香あります」って言われているようなものです。
神社、仏閣なども、よその国との比較において観光の目玉に成り得るかの差別化はどうでしょうか?訪日外国人の3/4がアジア圏からですから、日本が仏教の発祥の地で無い以上弱い気もしますね。場合によっては、返せとか言われてますし。欧米の人には良いでしょうが、マーケットとして捉えると、今の日本のインバウンドを支えているのはアジア圏ですから。
2020年の東京オリンピックの年までに、インバウンドが冷え込んでしまっては、オリンピックも盛り上がりにかけてしまいます。早く次の「目玉」を!