高性能多核種除去設稼働に向け、検証試験装置が稼働

東電発表の写真によると試験が開始された模様

高性能多核種除去設備検証試験装置による試験開始の様子

photo.tepco.co.jp

高濃度汚染水から除去すべきストロンチウム90の濃度を1億分の1に低減させるだけでなく、トリチウム(三重水素)を除く62種類の放射性核種を分離・除去するとされる多核種除去設備(ALPS)。昨年9月から本格運転が始まる予定が大幅に遅れ、いまも先が読みにくい状況が続いるが、この間、処理できない高濃度汚染水(RO濃縮塩水と呼ばれる)の量が増え続け、タンク設備もぎりぎりの状況が強いられてきた。

建屋内に溜まった高濃度滞留水を処理し、水を減らしていかなければ廃炉に向けた次のステップに進めないのに、現状は増え続ける汚染水への対応に追われている格好だ。汚染水の処理を進めるため、現在試験運転中の多核種除去設備と同様なものを「増設多核種除去設備」(最大処理量:1日あたり250m3以上を3系統)、また経済産業省の補助事業として「高性能多核種除去設備」(最大処理量: 1日あたり500m3以上)の設置が進められている。

このうち、高性能多核種除去設備は従来の多核種除去設備ALPSとは異なるシステムであるため、実験室での試験、実機に成果を反映させるための検証試験装置、さらに実機がほとんど並行する形で進められてきた。

東京電力の「写真・動画集」に、「撮影日:平成26年8月20日」として「高性能多核種除去設備検証試験装置による試験開始の様子」の写真が掲載された。下の2枚の継手の中を流れるのが検証試験用の汚染水と思われる。

ところで、高性能多核種除去設備は、どれくらい高性能なのだろう

今年の3月に発表された資料によると、ALPSと高性能多核種除去設備では、前処理の方法が別物になり、後段階の吸着塔に高性能吸着材を使用することで廃棄物発生量を削減する、と図示されている。

現行のALPSで故障が続出しているのが前処理の沈殿処理パートだから、まったく別方式が採用されることで信頼性向上につながるかもしれない。しかし、処理能力はALPSが3系統で最大1日750トンなのに対して、高性能多核種除去設備の方は500トンにとどまる。

さらに、東京電力が今年の6月4日に「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請の一部補正」として原子力規制委員会に提出した書類には次の記述があった。

2.16.3 高性能多核種除去設備

2.16.3.1 基本設計

2.16.3.1.1 設置の目的
高性能多核種除去設備は,『2.5 汚染水処理設備等』で処理した液体状の放射性物質の処理を早期に完了させる目的から設置するものとし,汚染水処理設備の処理済水に含まれる放射性物質(トリチウムを除く)を十分低い濃度になるまで除去する。

2.16.3.1.2 要求される機能
『2.16.1 多核種除去設備』に同じ。

引用元:福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請の一部補正|東京電力 平成26年3月31日

「要求される機能は多核種除去設備に同じ」。どこか優れて高性能な部分があるわけではなく、ALPSとは別方式による処理ラインを確保しておくところに、この新設備の意義は見出されるべきなのかもしれない。

現行の多核種除去設備ALPSは東芝製だったが、「高性能―」の方は日立GEニュークリア・エナジー(日立GENE)と東芝の2社で開発が進められているらしい。目下のところは日立GENEの方式を先行させて、検証試験は進められる。

ALPSの失敗から十二分に学び、放射性核種の除去分離技術の実用化と熟成を、両社が競い合って進めてくれることを期待する。

高性能多核種除去設備検証試験装置による試験開始の様子

photo.tepco.co.jp

今回の検証試験装置は実機の10分の1規模で、設備は大型トラック5台に分けて搭載されている。この装置で得られたデータはフィルターや吸着剤の構成など実機の構成にフィードバックされるという。

文●井上良太