がれきの処理はマイナスをゼロに近づけていく行為だ。たとえ将来に苦難が待っているにしても、少なくとも前に向かう仕事ではある。しかし、がれき処理が他地域にくらべて進んでいる場所でさえ、ようやく復興のスタートラインに立ったという状況なのだということを、津波から3年近くが経過した大槌の町を見て思い知らされた。
女川の人たちはまだまだだこれからだという。陸前高田の人たちはまだ緒にも就いていないという。閖上の人たちは将来が描けないという。南三陸の人たちは見捨てられたくないという。福島の人たちは……。
そして大槌の赤浜の町の景色が物語るのは、この場所ではプラマイゼロのスタートラインすらほど遠いということだ。
少なからずショックだった。何も変わっていないことが。しかしショックはそれだけではなかった。「変わっていない」と驚いたのは「少しくらいは当然変化があるはずだ」と自分が思い込んでいたからだ。
「まさかここまで変わっていないとは!」という自分自身のつぶやきが、二重の意味で自分を苛める。零下の風の冷たさよりも鋭く。
2014年の元旦、ぼくはもう一度大槌を訪ねて同じ防波堤の上に立った。そのタイミングで正午のチャイムが防災無線から聞こえてきた。期せずして流れてきたそのメロディは「ひょっこりひょうたん島」の歌だった。
苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけどボクらはくじけない
泣くのはいやだ 笑っちゃおう
進め!
ひょっこりひょうたん島
ひょっこりひょうたん島
ひょっこりひょうたん島
引用元:「ひょっこりひょうたん島」 作詞:井上ひさし
大槌は人形劇ひょっこりひょうたん島のふる里。海の上には、ひょっこりひょうたん島のモデルとされる蓬莱島が浮かんでいた。
写真と文●井上良太