津波の前兆について
津波の前兆はあるのでしょうか。
調べてみると、真偽は別として次のような現象がありました。
・異常な引き潮が発生する。
・井戸の水が濁ったり、減水、枯渇した。
・鰯、カツオ、イカなどのが大量に獲れた。
・アワビが海から逃げるように岸に向かって移動した。
・空、水平線が光った。
などです。地震の前兆と言われている現象とかぶるものもあります。
繰り返しになりますが、上記の前触れのほぼ全ては、科学的根拠のない言い伝えです。最初の「異常な引き潮・・・」については、場合によっては実際に起こるようです。
前兆として、引き潮の現象が現れた場合の逃げる猶予としては、一部の専門家の話では、引き潮が始まってから5~10分間程度だそうです。しかし、引き潮の前兆で注意してほしいのが、必ず起こる現象ではないということです。この津波の前兆の言い伝えを信じたばかりに、東日本大震災でも潮が引いてから逃げようとしていた人が、津波に飲み込まれて犠牲になっています。
結論としては、津波の前兆として必ず発生する現象というのはなさそうです。津波の前触れの言い伝えは、あくまでも参考とすべきものであり、大きな揺れを感じた時や津波警報が出た際には、すみやかに避難することが重要です。
どこへ避難するのか?
それでは、どこへ避難するのか。
絶対条件としては高いところですが、避難場所として注意すべき場所もあるようです。
それは、狭くなっている湾の奥や、岬の先端に位置するところです。このような場所では、波と波が重なりあい、想定以上の高い波に襲われる可能性があります。状況として、そのような場所に避難せざるを得ない場合は、ここまでは津波が来ないだろうなどと考えずに可能な限り高い場所へ避難すべきです
付近に、もし高台が見つからない場合は、鉄筋ビルの3階以上へ避難することが
推奨されています。自治体から指定された津波避難協力ビルには次のようなマークがついています。
しかし、想定以上の津波となることもありますので、3階以上や、津波避難ビル
だからといって、安全だとは言いきれません。実際に、東日本大震災でも、3階以上の高さの津波に襲われた場所もあります。
また、海から離れているから安心というわけではありません。
津波は、海岸沿いだけではなく、河川や水路も遡るので注意が必要です。川を遡る津波は、陸上よりも早く遠くまで到達します。土木学会のWEBサイトを見ると、東日本大震災の際には、津波が北上川を49㎞も遡上したことが報告されていました。
陸上では、できる限り海から離れた高台に逃げるべきですが、海上では必ずしもそうとは言えません。外洋は、海岸付近より津波の影響は小さいです。そのため、津波警報がでた場合、船舶は沖に出た方がいい場合もあります。港内は水位が急激に変化して、予測できない潮流が発生するために危険と言われています。
ちなみに「津波」という語源は、津(港)で大きな被害をもたらす波ということに由来するという説もあります。
避難時の注意点
避難するときに、家族のことがどうしても気になるかもしれません。東日本大震災でも、多くの方が家族を助けに戻ったと聞きます。
状況にもよりますが、家族を助けに行くべきかどうかについての答えはないと個人的には思います。ただ、三陸地方には「津波てんでんこ」という言葉が言い伝えられているそうです。
この言葉の意味は、「家族のことは気にせず、てんでばらばらになって逃げて、自分の命を守りなさい」ということだそうです。自分だけで逃げることについては、その時にならないとわかりませんが、「津波てんでんこ」という先人からの言い伝えがあることも、頭の片隅に置いていた方がいいのかもしれません。
避難の手段ですが、車を使用する方もいるかもしれません。これも、一概に言えることではないと思いますが、渋滞の発生が予想されるために、原則としては、徒歩による避難が推奨されています。実際に、車で避難をしようとして、渋滞中に津波に襲われて亡くなった方も多くいます。しかし、その一方、車で逃げて助かったという話もあります。
参考情報ですが、徒歩での避難の速さについて、茨城県神栖市のWEBサイトに次のように書いてあります。
■徒歩での歩行速度について(5分間で移動可能な距離)
・標準的な歩行速度: 約400m
・お年寄り・乳幼児: 約240m
(自力のみで行動できにくい人)
・水中(膝下)で歩行: 約210m
・水中(腰下)で歩行: 約90m
上記はあくまでも参考で、人によって異なります。また、膝下の水位でも、高速で押し寄せる「射流」と呼ばれる特殊な津波の場合は、深さ30㎝でも人は立っていられないとのことです。東日本大震災では、この射流が発生していた場所もあるのではないかと言われています。
安全な場所に避難をした後、戻るタイミングにも注意が必要です。津波が収まったと思い、すぐに戻ることは危険です。
津波は1度では終わらない上、第1波が最も危険とは限りません。第2波、第3波が一番大きいこともあります。津波は5分~1時間の間隔で、数時間にわたり襲ってくる可能性があります。
また、押し寄せた波が引くときの波の速さと力強さは、押し波以上となることもあります。
少なくとも津波警報が解除されるまでは、高台にいるべきです。
津波に襲われてしまったら
安全な場所に避難することが絶対ですが、それでも逃げ遅れた場合はどうするのか。
いろいろ調べてみると、東日本大震災で津波に襲われて助かった方については、流された家の屋根や車、漂流物などの上に乗っていた方がほとんどのようです。
しかし、津波に襲われた時に助かった方でも、体が濡れた状態でいたことにより、低体温症で亡くなった方が多かったそうです。
低体温症とは、体外放出熱量が体内生産熱量を上回り、直腸温などの中心体温が35度以下になった状態のことを言います。中心体温が20度以下になると、心停止します。
IMO(国際海事機関)の船舶捜索救助便覧によると、海水温と生存可能時間の関係は下記の通りです。
■海水温と生存時間
海水温度 生存可能時間
2℃未満 45分以内
2~10℃ 1.5 ~3時間以内
10~20℃ 6~12時間以内
逃げ遅れた時は、とにかく浮かぶものにつかまり、助けを待つのが一番のようです。
参考データとして、車で避難をしていた際に、津波に襲われた方への聞き取り調査結果に関する記事を紹介します。記事を読むと、車内にガラスを割る道具を積んでおいた方がよさそうです。
ほとんどの車は数分から10分ほど浮き、中には救助まで約4時間浮き続けた例があった。浸水しながらも浮いて流され、木や建物に引っ掛かり、窓や後部ガラスから外に逃げ出せたケースもあった。
車が水に漬かると、水圧でドアが開かなくなり、電気系統がショートして電動の窓も動かなくなると考えられる。車が海や川に落ちた際は、すぐに窓を開けて外に出るのが基本だ。
山本教授は「車が浮くことを前提にすれば、まずは落ち着いてシートベルトを外し、脱出の機会を探るべきだ」と強調。「タイミングを見て窓を開けるか、窓を割って外に出ることで、助かる可能性が高まる。窓が開かない場合に備え、ガラスを割るための道具を車内に置いてほしい」と訴える。
一方で、津波の場合は「周囲に物が流れていて危険かもしれない。開いた窓に押し寄せる波で浸水が進み、早く車が沈む可能性もある」と判断の難しさも指摘する。
引用元:車ごと津波に流されたら・・・ どうなるか? どうするか?(河北新報) - WEB新書 - 朝日新聞社(Astand)
津波について調べてみて
津波について、調べれば調べるほど、安全な場所への避難の大切さを感じました。東日本大震災では、「過去の津波警報でも津波が来なかった」、「防潮堤があるから大丈夫」、「過去の大津波でも、ここまで津波が来なかった」などの理由により、避難が遅れて、亡くなった方も多かったようです。
実際に巨大地震が発生した際に、冷静に行動できるとは限りません。日ごろから、可能な限り様々な状況を想定して、シミュレーションを行い、災害に備えることが大切なのかもしれません。
<終わり>
Text:sKenji