これまでの話
8月の夏休み、山梨、長野へバイクで行くことにする。初めてのロングツーリング。期待を胸に静岡を出発する。
1日目、山梨県北杜市の瑞牆山荘にある登山口近くまで移動する。
2日目、瑞牆山荘の登山口から瑞牆山、金峰山を日帰り登山。登山口近くの美しい渓流でキャンプをする。
3日目、霧ヶ峰にあるキャンプ場を目指したのだが、日没前に到着できそうにもなく、女神湖近くで偶然見つけたキャンプ場でキャンプをする。
4日目
4日目、白樺湖を経由して霧ヶ峰の八島ヶ原湿原を目指す。
八島ヶ原湿原に初めて行ったのは10年以上前のことだった。その時に、色とりどりの花が咲き乱れる湿原のすぐ近くにキャンプ場があることを知った。
簡素な設備のキャンプ場だったが、ロケーションは最高でいつか、ここでキャンプをしたいと想い続けてきた憧れのキャンプ場だった。
今回、八島ヶ原湿原で絶対にキャンプをしようと決めていた。信州ツーリングのハイライトになると確信をしていた。
その八島ヶ原湿原に到着すると、まず、八島ビジターセンターを訪れた。そして、受付にいた女性に尋ねてみる。
「すいません、八島ヶ原のキャンプ場でキャンプをしたいのですが・・・。」
一瞬、受付の女性は「えっ?」という表情を見せた後、
「キャンプ場は閉鎖になりました。」と言った。
今度は僕が「えっ?」という顔をして、
「なくなっちゃったんですか?」と驚いて聞くと、
「はい。2007年に閉鎖されました。」
2007年・・・。結構前の話だった。
まさか、長年憧れていたキャンプ場が閉鎖されたとは・・・。
想定外のことだったが、なくなってしまったものは仕方がないと思い、
「この近くで他にキャンプをできる場所はありますか」
と聞いてみると、八島ビジターセンターから5㎞ほどの場所にある「霧ヶ峰キャンプ場」を教えてくれた。
教えてもらったキャンプ場に向かう。
霧ヶ峰キャンプ場は広々としたキャンプ場だった。テントを張るのに少しでもいい場所はないかと、場内を歩いて見て回る。
すると、敷地のはずれに少し高くなっている場所があった。小さな木が一本立っていて、木陰を作っていた。素敵なロケーションだ。
テント設営場所は決まった。
設営が終わると、パスタの袋を開けて、半分だけゆでて食べる。
木をはさんだ反対側にはソロ用テントが一張りはってあり、1人の男性がいた。長身のすらっとした方で、歳は40代くらいに見えた。
僕はあいさつをすると、長身の男性と話をした。
どうやら一人旅で、兵庫からバイクで来たらしい。毎年、お盆休みになるとこのキャンプ場に涼みに来ているとのことだった。
長身の男性と話をした後、美ヶ原高原に向かった。美ヶ原までは、およそ30㎞。1時間ほどの距離だった。
到着すると、山本小屋にバイクを停めて、牛伏山、美ヶ原牧場を散策する。
美ヶ原は、とてもなだらかで広大だ。標高2000mの高所にこのような場所があることが驚きだった。
美ヶ原からの帰り際、八島ヶ原湿原に寄ってみる。
湿原は、傾いた陽によってオレンジ色に染められ、まるで輝きを放っているかのようだった。その輝く湿原を、数人のハイカーが歩いている姿を遠くに見ることができた。
キャンプ場に戻ると、隣にテントを張っている長身の男性がちょうど晩御飯を食べ終わったところだった。
僕も晩飯を作って食べる。食後、長身の男性とビールを飲みながら話をする。
辺りはすでに暗くなっていた。太陽が沈むと、気温もどんどんと下がり、ぐっと冷えこんできていた。日没後の霧ヶ峰は平地の秋口のような寒さだった。
僕がフリースを取り出して着ると、長身の男性はテントの脇に置いてあった直径20、30センチほどの銀色の缶を持ってきて、
「たき火をしましょう」
と言うと、木を拾いに行った。
僕も辺りに落ちている小さな枝をかき集めた。
5分ほど薪拾いをすると、彼はかき集めた枝を缶に突っ込み、バイクのエンジンオイルを少しかけると火をつけた。枝が「パチパチ」と音を立てて燃え始める。真夏だというのに、たき火の炎が有難かった。
たき火を囲みながら、ビール片手にバイクの話をする。
「どこかいい場所はありますか?」
僕がおすすめのツーリングコースを聞くと、長身の男性は
「やっぱり、北海道でしょう。ライダー天国ですよ」
と嬉しそうに言って、北海道の話をしてくれた。
その後も、バイクの話を酒の肴にビールを飲んでいたのだが、かき集めた木が全て燃えきると、残り火に水をかけてテントに戻った。
<夏休み信州ツーリング ~その3~ へ続く>
霧ヶ峰キャンプ場
Text & Photo:sKenji