10年前、ある女性から「意味不明」な「メール」が届いた話(中編)

彩さんとメールをした翌日、それだけでフワフワしている自分がいました。女性とメールをした程度でこれですから、なんともまぁ幸せなもんです。ただ、友人の中には架空の女の子の名前をアドレス帳に登録し、「女友達が2~3人いる体を装っている」悪質なヤツもいました。それに比べれば、僕なんてかわいいもんです。きっと。

しかし、「また、なんかあったらメールするね!」と言っていた彩さんですが、正直、向こうから間違いメールが勝手に送信されただけの関係です。「なんかあったら」なんて言いますが、そんなものあるわけないのです。

浮かれながらも、その辺は冷静に考えていた僕。そもそもメールが可愛らしいだけで、彼女の顔もわかりません。好みとはかけ離れた容姿をしているかもしれませんし、最悪、ネカマの可能性も捨てきれないでしょう。いくらバカな男子高生だって、そんな得体のしれない人に想いを馳せるほど暇ではありません。

僕は自分にそう言い聞かせつつ授業をこなし、部活で汗を流しました。

1週間ほど経ったある日のこと、部活を終えて携帯を見てみると、あの番号からメールが来ていました。そう、彩さんです。

「また、なんかあったらメールするね!」から約1週間、自分からメールすることはありませんでしたが、彩さんに「なんかあった」ようです。

彩「ひさしぶり~、元気?(笑顔)」

それほどひさしぶりでもないですし、なんだか昔からの友達みたいなノリです。そもそも、メールを誤送信した男相手によくまたメールを送れたもんです。15歳の僕の拙い人生経験ではちょっと理解できません。

……と、いろいろツッコミどころを感じたのですが、なんやかんやでちょっと嬉しい自分がいました。男子高校生なんてチョロいモンですね。今の僕がネカマをやっても釣れそうな気がします。

僕「元気ですよ~。どうしたんですか?」

彩「仕事終わって暇だからさ、ちょっと連絡してみた(目がハートのやつ)」

何ということでしょう。「用事もないのに連絡する」なんて、“お互い多少の気があるけど、まだ付き合ってはいない男女の関係”になって初めて許される所業です(……と、恋愛テク指南の雑誌に書いてありました)。

それこそ、一歩間違えれば“ウザいのに絡んでくる空気の読めないヤツ”になる可能性もあります。「用事もないのに連絡する」なんて、それくらい難しいのです。

ただ、悪い気はしなかったですけどね!

さて、僕は数日にわたりそんな彩さんとメールを重ねました。

中学の時、1年にも満たない短い恋愛を1度経験しただけの僕。そんな僕にとって、年上女性とのメールなんて、未知の世界です。しかし、彩さんは年上らしく、色々と話題を振りながら僕をリードしてくれました。僕も最初は緊張していましたが、徐々に心を許せるようになり、気が付けば年上女性の魅力を感じられるようになっていました。あくまでメールの話です。

彩さんは新卒OLの22歳。なんと7歳も年上でした。慣れない仕事、慣れない一人暮らし、なにかと大変なようですが、高校生当時の僕には気の利いたことも言えません。ただ、「そうなんですね~(汗)」と相槌を打ちながら、時々自分の話をするだけで精いっぱいです。

とは言え、こうしてメールを交わしていると、世間話だけで終始するやりとりが、なんだかもどかしくなってくるもの。彩さんもそれを感じていたのか、急に改まったノリのメールを送ってきました。

彩「ところでさ、“僕くん”は彼女いるの?(笑顔)」

……日常会話の中でこんな質問をされれば、「いや、いないっすね~」と即答できるものです。しかし、メールでこんな風に聞かれると、なんだか色々勘ぐってしまいます。「これはどう答えるべきなんだ……」と。しかし、そんな不意打ちに対応できる能力もない僕は、あれこれ考えた挙句、

僕「いやー、いないっすよ」

と、普通に答えつつ、

僕「彩さんはいるんですか~?」

と、逆質問を添えました。彩さんに彼氏の有無を聞いたところで、何がしたいわけでもなかったのですが、とりあえずノリに合わせます。すると、彩さんは

彩「あたしも、大学卒業してからいないんだぁー(涙)だから寂しくって……」

寂しいからって、メールを誤送信(?)した相手の男子高校生とメールをするのか……と、今なら思います。しかし、当時の僕には年上女性が垣間見せた“甘え”が可愛く見えてしまいました。もうなんていうか、色々とアレですね!

僕「あちゃ~、そうなんですね。でもすぐにできますよ!」

という、何の根拠もない無責任な返信をする僕。「すぐにできますよ!」と言いながら、「その相手が自分だったりして」とか、正直思いました。そんな過去の自分を殺したいです。そもそも、顔も知らない相手を可愛いと思ってしまう時点でヤバいですね。男子高校生だからと言い訳していますが、根本的に自分に問題がある気がしてきました。

こんな感じのケータイでした

(後編へ続く)