福島県いわき市の永崎海岸。写真を撮るために車を降りる。
海岸では、バーベキューをしている若者もいれば、浜辺でくつろいでいる人もいる。
写真を数枚撮り、車に戻ろうとした時だった。
若い男女5人グループがスーパーの袋に、散らかっている花火の燃えカスや割れた瓶の破片を拾って入れ始めたのに気づいた。堤防の上につい先ほどまで腰をかけて、
楽しそうに話をしていたグループだった。
煙たがれそうな感じもしたのだが、声をかけてみる。
「こんにちは。このゴミ、自分たちが捨てたんですか?」
「いえ、違います。」
とても礼儀正しそうな青年だった。
「ビーチクリーン?」
「はい、そうです。」
なぜ、ゴミを拾っているのだろう。気になる。彼らに対して興味が湧き、
「一緒にゴミを拾ってもいい?」と聞いてみると、彼は笑顔で、
「もちろんです。」と歓迎してくれた。
まずは、お互いの自己紹介をする。
彼の名前はカンノさん。21歳。
そして、一緒にゴミを拾っているのは、トダさん、ハシモトさん、タカハシさんに、そして紅一点のカナザワさん。
みんな同級生で、小学校から高校まで同じ学校だった幼馴染らしい。現在はそれぞれ働いており、休日を利用して一緒にゴミ拾いをしているとのことだった。
自己紹介が終わるとビーチクリーン再開。
ゴミは、少し距離をあけて各自で拾っていたが、僕はカンノさんと話しながら拾うことにした。
カンノさんは子供のころからこの永崎海岸で遊び、育ってきたらしい。ライフセイバーとして働いていたこともあったという。彼にとって、この海は様々な思い出が詰まった場所のようだった。
堤防は緩やかな階段状になっていて、そこに花火の燃えカス、たばこの吸い殻、割れたガラスなどがあちこちに落ちている。彼らはそれらをひとつひとつ丁寧にトングで拾い、燃えるごみとガラスを分別してスーパーの袋に入れていく。
時折、休憩もしながらこの作業を昼の2時から始めているとのことだった。夏の暑い日差しの中、決して楽な作業には思えなかった。
カンノさんは、この浜について話をしてくれた。
「津波が来る前、砂浜の奥行は今の倍くらいあったんですよ。夏になるととても賑やかな場所で、僕も昔は、よく泳いでいました。今も泳ぎたいんですけど、放射能の恐れなどもあって・・・」
ゴミが入ったビニール袋を片手に持ち、彼はビーチを見ながら言った。
かつては多くの人が訪れていた永崎海岸も、震災以降はずっと遊泳禁止の状態だという。
彼に素朴な質問をしてみた。
「なぜ、他人が捨てたゴミを拾っているの?」
「ここは子供のころから遊んできた大切なビーチなんです。先日、偶然、一つ下の後輩のツィッターを見たんですよ。そしたら、彼らは永崎海岸に落ちているゴミを拾って、その写真をアップしてました。それを見て、後輩がやっているのに、自分たちがやらないわけにはいかないと思って。」と彼は教えてくれた。
近くにトダさんもいたので聞いてみた。
「ゴミ拾いの声かけられたときどう思った? すぐにやろうと思ったの?」
「いや、思わなかったです。」
「じゃあ、なぜやることにしたの?」
「前から自分たちも花火をやっていて汚いなとは思っていたのですが、ちっちゃいころからずっと遊んでた海が、閉鎖されるかもしれないという話を聞いて、それは嫌だと思って。」
この海岸で、バーベキューや花火をやり、ゴミをそのまま捨てていく人も結構いるらしく問題になっていることを教えてくれた。
その後も、震災前の海のこと、津波に襲われた当時の永崎海岸の状況、原発と震災に関することなど、浜ついての話を聞きながら、一緒にゴミを拾った。
付近一帯のゴミをだいたい拾ったころ、カンノさんは時刻を確認し、
「たばこの捨てがらの塊があっちにあったから、最後にそれを拾って終わりにしよう。」とみんなを駐車場の方へと誘う。
行ってみると、そこには、灰皿をぶちまけたかのように、大量のたばこの吸い殻がまき散らされていた。彼らはそれらをすべて拾ってゴミ袋に詰めると、ビーチクリーンを終了した。
終わった後、話をしていた彼らに聞いてみた。
「今後もビーチクリーン続けるの?」すると、
「続けます。」という答えが返ってきた。
海をバックに夕日に照らし出される5人がとても大きく見えた。
また、永崎海岸に来よう。そして、次は途中からではなく、最初から手伝おう。彼らの一生懸命な姿を見ていると、自然とそう思ってしまう。
僕は彼らに御礼を言って、永崎海岸を後にした。
夕日に照らされたビーチと海が美しい。
ゴミを全く気にせず、捨てていく人間もいれば、休日を利用して、他人の捨てたゴミを拾っている人もいる。
カンノさんたちの思いが多くの人に伝わり、活動が広がって、この海岸が閉鎖されないでほしい。そして、再び賑やかさを取り戻してほしいと願わずにはいられなかった。
本当に爽やかな人達で、まさに心洗われるひとときだった。
素敵な5人の若者は、海岸のゴミだけでなく、僕の心も清掃してくれたようだった。
<終わり>
永崎海岸
Text & Photo:sKenji