んんん?「原発は経済的」じゃなかったはず

東京電力が原発の安全審査申請って?

東京電力が柏崎刈羽原発を再稼働するため、安全審査申請すると発表した。

NHKのニュースWEB(7月2日)によると、

東京電力は経営再建のために今年度の黒字化達成を目指していますが、そのためには現在、運転を停止している新潟県の柏崎刈羽原発の早期の運転再開が不可欠だとしています。

引用元:NHKニュースWEB「柏崎刈羽原発 安全審査申請決定へ」7月2日 6時25分

同日17時52分付けのニュースWEBでも、東京電力の廣瀬直己社長のコメントとして、

今の電気料金は、柏崎刈羽原発がことし4月から動くという前提になっているが、できるかぎりのやりくりをして、再値上げは避けたいというのが私の強い思いだ。ただ、原発が全く動かないとなると、今の料金体系では無理だ。

引用元:NHKニュースWEB 東電社長「最大限対策した」7月2日 17時52分

という話を紹介。

国内の原発54基のうち52基が停止しているため、火力発電に頼らざるを得ない。そのため燃料代の負担が大きくなって、経営を圧迫。このままでは電気料金を上げる可能性もある、というストーリーだ。

火力も原子力もほぼ10円!

たしか、1kWh発電するのに8.9円って数字がスタンダードになっていたはず。
かつては半値くらいの安さとされていたのが、一昨年からいろいろ精査されて、
この数字に落ち着いていたと思っていた。

石炭火力や天然ガス火力で発電する時のコストより、ちょっと安いけれど、べらぼうに安い!というわけではない。
どっちの火力発電も、原子力発電も、発電コストは約10円で大差なし、ってことだと思っていた。

原子力発電のコスト「1kWh当たり8.9円以上」という数字は電力会社のホームページでも紹介されている。

でも、驚いたんだよね。
福島のいわき市からこども達のツアー受け入れの手伝いをしている時、
サポートカーに同乗した支援者の方と、原発の話になった。

「政権が代わって、本気で再稼働するつもりみたいだけど、大丈夫なのかな。コストを考えれば仕方がないかもしれないけれど、人間が生きる土地の問題とか、命そのものに関わることなんだよね。」

神社関係者でもある彼は、日本という国土のことを真剣に憂いていた。
原発被害を受けた町のことを気にかけていた。

でも、原発がコストでは有利であるとの認識だった。

きっと、同じように思っている人、多いのでは?

コストは同程度なのに、なぜ原発再起動?

国家戦略室!
とてもカッコいいネーミングの政府組織(内閣府)に設置された「エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会」が報告書を提出したは、2011年12月。

さらに、「国民に開かれた形で、客観的根拠に基づく更なる検証等を行うため、国民各位、専門家、事業者、NGO等の皆さまに、報告書の内容を踏まえた質問票に沿った形で、根拠に基づく積極的な情報提供」を依頼するという、
Call for Evidenceで情報提供を求めた期間が2011年12月22日~2012年2月20日。

国民からの情報提供を受けて第9回会議が行われたのが、2012年3月14日だった。

こんな議論の中で示されてきたのが、

・原子力の発電コストは、1kWh当たり8.9円以上

・CO2対策費用が大きい石炭火力で、9.5~9.7円

・燃料費がコストが大きなLNG火力で、10.7~11.1円

という数字。

数字だけ見れば、たしかに原子力が一番安い。
しかし、これはあくまでも試算であって、どこの発電所で発電しても同じ数字になるというものではないらしい。

「コスト等検証委員会報告書」でも、いちばん高いLNG火力についてこう説明する。

原子力の発電コスト(8.9円/kWh以上)や石炭火力の発電コスト(2010年モデルプラントで9.5~9.7円/kWh、2030年モデルプラントで10.8円~11.0円/kWh)とほぼ同じ水準であり、CO2対策費用を加味しても、コスト的には競争できるレベルといえる。

引用元:国家戦略室「コスト等検証委員会報告書」エネルギー・環境会議コスト等検証委員会 2013.12.19

国家戦略室のまとめた資料が、10.7~11.1円のLNG火力でも「コスト的には競争できるレベル」と言っているのに、原発再稼働が進められようとしている。

kWhあたりだと8.9円と11.1円じゃ、大差ないように見えなくもないが、会社全体としては無視できない差になるということなのか――。

円安で石炭やLNGの輸入価格が高騰して、コストの差が広がっているからということなのか――。

原発を再稼働させたい理由を理解するための材料がまったくないというわけではない。
でも、お小遣い500円父ちゃんの自分には、あまりにも大きなそろばん勘定は想像することすらできぬ。ただただ、再稼働を求める電力会社の姿勢が、あまりにも前のめりに見えて仕方ないのだ。

パブリックリレーションの匠

かつて原子力は無限のエネルギーを取り出せる夢の技術といわれていた。最も燃料コストが安い電源とされてきた。でも、「原子力は経済的なエネルギー」という看板はいつの間にか下ろされていた。(上の関西電力のホームページに見られるように)

原子力発電のコスト「1kWh当たり8.9円以上」という数字には異論もある。
発電に関するコストで、電源三法による自治体への交付金や、事故発生時のコストなどの「社会的なコスト」が含まれていないという指摘だ。

廃炉まで40年という計画は出されているものの、メルトスルーした燃料の取り出し方法という肝心の技術についても、今後の研究開発でという話だから、原発事故の処理にどれくらいのコストが掛かるのかは、現時点で誰にも確定的に述べることはできない。

その辺のことは置いといて、「経済的な電源」という看板はそっと外しておく。

その一方で、「原発止めたから火力の燃料代がかさんで大変!」という情報が報道を通してどんどん流される。
「このままじゃ、値上げもやむを得ない」なんて話まで出てくる。

そういえば、原発事故の直後からそうだった。

計画停電。
夏の節電へのご協力。
なんとか乗り切れたと思ったら、電気料金の値上げ。

原発停止と燃料費増大、さらに料金値上げが一筋の川の流れのようにつながって見えるような仕組みになっている。

想像したくもないが、大衆のこころを巧みに操縦できるパブリックリレーションの天才がどこかにいて、いまの世の中の流れにほくそえんでいるのではないか、という気までがしていくる。

まさかそんなことはあるまいが、現実として間違いないこと、それは、

「発電コストは大差ない」ことが、いつの間にか完全に置き去りにされていることだ。

それにしても、どうして原発再稼働?

発電コストの話と再稼働はまるっきりの別問題、と考えるしかない。

ではどうして電力会社は再稼働を進めようとするのか?
この理解困難な謎かけに対しては、沢山の識者がネット上で多くの考えを述べている。

原発再稼働を前提に作業をしながら、火力も目一杯運転しているから、二重のコストがかかってしまう。だから、原発再稼働なのだ。

とか、

核燃料は使用済みのものも含めて資産として計上される。原発が再稼働しなければ使用済み核燃料が廃棄物扱いになって資産が目減りしてしまう。

とか。

やはり500円父ちゃんの自分にはよくわからないのだが、原発の発電コストについて復習していて気が付いたことがひとつある。それは、電源コストの試算の中に必ず登場する「割引率」という不思議な言葉。

調べてみると、現在の価値で100円でつくったものは、将来的にはインフレでお金の価値が下がる(割り引かれる)ので、物としての価値は上がるということらしい。

割引率というのは、発電所を建設する際の試算に使われる用語だ。つまり「8.9円以上」との数字の前提になっているたのは、

いま停止している原発ではなく、

これから原発を造ったとしたら、という理想的なモデルに基づくものだった。

過去に造られた原発でも、同じように「8.9円以上」という安いコストで発電できるのかというと、電力会社でそろばんを握っている人以外には確定的なことは言えない。

それでも一般論として、こう言うことはできるだろう。

原発は、建物や設備にかかる費用は膨大だが、
それにくらべて燃料代などのランニングコストは安い。
そして、電気料金は人件費や燃料費、発電施設の維持・改修費、減価償却費など費用に一定の利益を上乗せして算出される総括原価方式だから、
減価償却費が高くなるような高額な発電所を造り、
効率的に運転するほどに利益を高めてくれる。
(発電コストが8.9円とか言う時の数字の損益分岐点がどの辺なのかも、そろばんを握っている人のほかは確定的なことは言えないだろう。それでも発電コストは低いほど利益を生むのは確かだ)

もちろん、そんな装置を有するということは、企業としての価値を高めてくれる要素であろう。そんな装置を有しながら、発電せずにいることは、そろばん上では愚の骨頂ということになろう。

国家戦略室の資料から読みとれる、もうひとつのこと

原発の発電コストについて調べていて、もうひとつ気が付いたこと。
それは、発電コストに「設備利用率」が大きく影響することだ。

「8.9円以上」という数字の前提条件にされているのは、
年数40年間稼働させて、その間の設備利用率70%というもの。

設備利用率というのは簡単にいうと稼働率だから高ければ高いほど効率が上がる。
同じ条件で設備稼働率を80%にすれば、発電コストは7.8~8.7になると、資料には記されていた。

ところで、原発には法律で定められた定期点検というものがある。
連続して運転していいのは400日まで。約13か月運転したら炉を停止して、
定期点検を行わなければならない。

定期点検に要する時間は3か月ほどらしいから、
13か月運転した後3か月間点検するというスケジュールでいけば、
設備利用率は約80%となる。

しかし、原発事故以降、2年にわたって停止したことは、想定してきた運転年数全体としての施設利用率を大きく押し下げている。つまり、そろばん勘定が悪くなっている。

かりに再稼働を認められる原発があったとしても、稼働率を高める目的で無理な運転を行うなどということは、絶対にあってはならない。

究極の選択、と呼ぶのも最低な感じの選択

電気代が上がってもいいですか?

それとも原発再稼働しますか? 過酷事故はめったに起きないんですよ。

どうも、そんな究極の選択を求める流れになっているように思えてならない。

でも、本当は二者択一ではないはずだ。

電気を使う量を減らしていく道。

そして、その選択を受け入れられる世の中。原発安全審査と電気料金の問題の向こうには、もっと大きな問題があるのだろうか。