原発から10km。富岡町のいま

それでも町には花が。
花があふれていた。

マンホールの蓋に描かれているのは桜の花。
花を愛する人がたくさん暮らしていた町のようだ。

宅地開発が進んでいた場所

広い空に雲雀が何羽も飛び交い、縄張りを主張する声をあげていた。

月の下から駅に向かう道には、歴史を感じさせる建物が並んでいたが、少し北側に入ったところには、造成されたばかりの住宅地が広がっていた。

「空き地」という単語をつい使ってしまいそうになる。しかし、草が茂った空き地のような場所は、区画が整備された住宅用地。新品ぴかぴかの住宅が何棟か建っている。完成したばかりのようなきれいなアパートもあった。

しかしこのエリアの一角には、町のがれきが山のように積み上げられていた。

耐震等級3は、最高レベルの耐震性ということだ。

建物は美しい姿のまま。
しかし、生活の匂いはまったくしない。

まったく…?

自転車置き場に残された自転車が1台。

壁面にはボロボロになったバナーが風に揺れる。
もはや判読不能なバナー。
「入居者募集」の文字が掲げられていたのは間違いないだろう。

建物が完成し、入居が始まったばかりの状態で残されることになったのだ。

空き地のようになった区画に、点々と被災した自動車。
原形をとどめないほど破壊されたものがある一方で、
誰かが乗ってきたような状態のものもある。

草地に足を踏み入れると、上空の雲雀の声がいっそう騒々しくなる。
人がいなくなった土地には雲雀たちの生活がある。

芽吹いたばかりの草が生えている場所は…、

軽トラックの壊れた荷台の上だった。

横転した軽自動車の窓から傘が飛び出していた。
ボディの向こうに写るタイヤはスタッドレスだった。

倒壊した家屋が、「ガレキではない」と主張している。

そこに住まっていた人の生活が色濃くにじむ、まだ新しいこの家を、ガレキと呼ぶことは誰にもできないはずだ。

ここにも電柱があった。
津波の力の大きさを物語る破壊された電柱が。