今からおよそ10年前、僕は西日本にあるA高校の野球部に所属する野球少年でした。全国に数多ある野球部と同じように練習し、同じように甲子園を目指していましたが、少しだけ、他校とは違う特徴がありました。母校は明治時代創部の伝統校、部員数は毎年100人を超すというマンモス野球部だったのです。このシリーズでは、そんな僕のマンモス野球部ライフを紹介していきたいと思います。
格上相手には委縮して自滅するA高校
僕は記録員という役割で1軍メンバーに加わっていました。野球の実力だけで見れば、とても1軍レベルとは言えなかったので、1軍の試合に出場することはほとんどありません。だいたい、大差がついて勝っているとき、ようやく出させてもらえるレベルでした。
しかし、そんな僕でさえ、1軍の試合に先発出場したことが一度だけあります。
その日は前年の甲子園にて上位に勝ち進んだ強豪校・T高校との練習試合。我がA高校は序盤から打ちこまれ、5回を終わるころには7点もの差が付いていました。相手ピッチャーも、のちにプロに進むほどの注目選手です。A高校はまさに手も足も出ず、一方的な試合となっていました。
すると、ご機嫌ナナメなのがA高校のP監督。我がA高校は、公立校などの格下相手にはめっぽう強いものの、甲子園常連校などの格上相手には委縮してしまう、スネ夫みたいな学校でした。今回も、こうして自滅する悪いクセが出ていたのです。
100km/hの遅い球で甲子園常連校を抑えてしまった補欠
そして7回表、主力選手のI君が、消極的なバッティングから数少ないチャンスを潰してしまいました。
うなだれ、思わず地面を蹴ってしまったI君。そんなI君の行動に、ついにP監督の堪忍袋の緒が切れました!
「お前らもういいよ!」
なんと、レギュラー陣を全員ベンチに下げ、7回裏の守備から全員補欠に替えてしまったのです。記録員だった僕までもが試合に出ることになり、グラウンド内はなんとも言えない空気が漂い始めます。
ところがその7回裏、甲子園常連校相手に補欠メンバーだけで3者凡退に抑えてしまいました。
打ちこまれたエースピッチャーのS君に替わり、投げたのがJ君でした。S君が130km/h近い球速で投げるのに対し、J君はサイドスローから100km/h程度。自他ともに認める遅い球でした。
天下のT高校でさえ、全くタイミングが合っていませんでした。
完全なマグレでプロ注目のピッチャーからヒットを打ちかけた補欠
そして8回の表、死球で出たランナーを1人置き、ついに僕の打席が回ってきました。しかし、相手はプロも注目するピッチャー。我がA高校はそれまで2本しかヒットを打てていません。P監督も補欠には期待していないのか、サインを出すそぶりすら見せませんでした。
ところが、大方の予想に反し、僕は右中間にいい当たりを飛ばしてしまいました!抜ければ、ヒット!長打になればようやく1点が返せるかも知れません。
・・・が、ライトが頭からダイビングし、間一髪でボールをキャッチしました。
自分で言うのもなんですが、完全なマグレです。しかし、この日に限ってはレギュラーメンバーの方が不甲斐なかったため、P監督は、
「ベンチ(入りの選手)の方がレギュラーより頑張ってるじゃないか!」
と、最後までイライラしていました。
ついに1軍の試合に先発出場することになった補欠!
翌日、今度はA高校と同じく、「甲子園まであと1歩」というところで負け続けるS学園と練習試合がありました。接戦必至です。昨日のような不甲斐ないを試合をしていたら、きっと負けてしまうでしょう。A高校メンバー内では重い空気が立ち込めていました。
ところが、その日の先発メンバーを聞いてびっくり!なんとピッチャーはエース格を差し置いてJ君。オマケにセカンドは僕が選ばれました。P監督がほとんど不動のレギュラーを弄るなんてことは滅多なことではありません!
J君も僕も万年補欠と自覚しています。それだけに、1軍の試合に先発出場するなんて、心の準備ができていません。緊張を通り越して、少し怖くなっていました。
レギュラーからの嫌な視線と、P監督のよくわからない期待を背に受けつつ、試合に臨みました。
結果、2回の表で替えられる!
ところが、案の定、補欠には荷が重すぎました。ピッチャーのJ君は遅い球が完璧に捉えられ、1回の表になんと5失点。その裏、僕に早速打席が回ってきましたが、僕は僕でバントを2度失敗したあと、力の無い内野フライを打ち上げるというダメっぷり!
そうして僕ら補欠は、初回を終えた時点であっさり替えられてしまいました。
結局、いつも通りのレギュラーメンバーが揃いました。しかも、打線は奮起し、初回の5失点をなんとか取戻したのです!終わってみれば、6対6の同点で試合終了。レギュラー陣の底力を見た気がしました。
試合終了後、P監督がレギュラー陣に檄を飛ばします。
「だから、お前たちじゃなきゃダメなんだよ!」
補欠ながらに先発出場した僕とJ君は、完全にかませ犬でした。