牡鹿半島のつけ根、石巻市蛤浜。9軒の人々が肩を寄せ合って暮らしてきた、牡鹿半島の浜(漁業を中心にしたコミュニティ)の中でも一番ちいさな浜。浜の神社には江戸時代の年号が刻まれた碑石が、まるで当たり前のように置かれていた、暮らしが連綿と受け継がれてきた浜。その蛤浜は、東日本大震災の巨大津浪で大きな被害を受けました。現在では暮らしているのは3戸だけとなりました。
そんな蛤浜に2013年3月11日、Cafeはまぐり堂がオープンしました。「いつかこの浜でカフェをやりたいね」と語り合っていた奥さまを津波で亡くされた水産高校教諭の亀山貴一(たかかず)さんが、奥さまと二人の夢を実現するため築100年と言われる実家を改装したカフェ。仲間たちの協力をうけて、奥さまの三回忌の3月11日にオープンしたCafeはまぐり堂でキャンドルナイトが行われました。その様子を写真でご紹介します。
民家だった頃、玄関だった入り口を入ると、正面には天窓がある広間、右には長い縁側があります。骨董品が好きだった奥さまの趣味が受け継がれた「たいせつにしたい」気持ちがあふれる空間です。
蛤浜の海が日暮れに濃紺色に変わっていく頃、キャンドルナイトが始まりました。
縁側に置かれた碁盤の上にもキャンドル。窓ガラスにもキャンドルが映ります。
石巻を拠点に活動する角波龍馬さんのサックス演奏が始まりました。「花は咲く」、「上を向いて歩こう」、「なだそうそう」…。ソプラノサックスの音が、古民家に灯されたキャンドルをむせぶように揺らします。
窓ガラスに映りこむキャンドルがささやき始めるころ、亀山先生の挨拶が始まりました。
「あの日から二年。」
最初の言葉の後、沈黙が長く続きます。何度か切り出そうとした言葉がのみ込まれます。キャンドルの淡い光のなか、しずくがこぼれ落ちます。
「去年の今日、この場所の今日のこの姿を想像することはできませんでした。」
カフェのオープンに向けて協力してくれた仲間たち、応援してくれた人たちへの感謝の言葉が絞り出すように語られます。
「亡くなった人は帰ってきません。しかし、その思いは生き続けると信じます。その思いをずっと、次の世代までつなげていきたいと考えています。」
キャンドルの明かりだけの空間は、ひとの思いが満ちる場所に変わりました。
亀山先生は、臨月だった奥さまを亡くされたご自身の思いと、二人の深さを語っていました。その思いを支えた仲間たちの力が、小さな思いを、かたちにしてくれたと語りました。その力が未来を変えるとも。
つらさ。ささえ。つなげていくこと。
そして明日を変えていく。
キャンドルをともす集いは、これからも毎月11日に開催されていくということです。
●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)