日の出営業は客がこない? 【噂のホストNo.1】その2

ホストクラブとは男性従業員が女性客の隣に座って接待をする飲食店です。主役はあくまでもお客様である女性。ホストは女性を良い気分にさせて喜ばせるお仕事です。「イケメン!色恋トーク!枕営業!自分の持つ武器を駆使して女性を満足させてみろ!」という成果主義の特殊な世界。そんなファンタジーワールドに迷い込んだ僕のホスト体験記を告白します。

都心から離れたホストクラブには客が来ない

僕がいたホストクラブは都心部から少し離れた場所にありました。新宿から総武線で15分ほどの距離にある小さな駅を降り、駅前の商店街を抜けて10分くらい歩いた先にある雑居ビルの地下で営業しています。午後19時~午前1時までを営業時間とする第1部。日の出からお昼までを営業時間とする第2部に営業時間帯が分かれていました。

僕のように体験入店を受けている見習いホストは、日の出からお昼まで営業する第2部に配属されることになります。でも、この時間帯は客が来ない!体験入店初日は午前5時から出勤していましたが、開店から4時間近く経ってもお客さんが1人も来ません。『ホストクラブの聖地』と言えば新宿歌舞伎町。遊びに飢えた女性が路上をうろつき、街でキャッチをかければ幾らでも女性はついてくる・・・そんなイメージとはかけ離れ、店内は閑古鳥が鳴いています。

ホスト特有のテーブルマナーを教わる

「お客様がこないうちにテーブルマナーを伝授しよう」という話になり、幹部ホストのカイトさんから接客マナーを教わることになりました。基本的なテーブルマナーは以下の通りです。

1.おしぼりは三角の形に整えて綺麗に折る
2.灰皿は吸殻が1本溜まったら取り換える
3.ボトルや割り物の並びを工夫して、テーブルを綺麗に見せる
4.グラスの水滴は小まめに拭き取る
5.タバコはオシャレに火をつける

5番目の『タバコはオシャレに火をつける』というのはわかりにくい表現ですね。なんというか、普通にライターで火をつけるのではなく、ファイナルファンタジーの黒魔道士が魔法を唱えるような感じで火をつけます。余計わかりにくいかもしれませんね(汗)。ライターを手の平に隠し持ち、何もないと見せかけて両手で大きな弧を描きながら突然ライターの火をつける!

それを見た女性はカッコよくて喜ぶ的な構図です。「お店に来るお客さんには、せめて今だけは日常から解き放たれた空間を提供してあげたい!」と熱く語るカイトさん。その言葉に共感しました。お客さんは高いお金を払って、ホストクラブという異次元に夢を買いにくるんだなぁ・・・と。

体験入店初日からホスト業界のシビアな現実を知る

1通りのテーブルマナーを練習し終えると、カイトさんから「客が来ないからカウンターで酒の種類でも覚えておいて」という指示がありました。カウンターに回ると、同じ日に体験入店することになった2人の新人ホストが待機していました。いわゆる同期というやつです。

1人はユウヤという源氏名で28歳の人でした。背が高くガッチリした体格の持ち主で、ホスト暦は2年くらいあるそうです。もう1人はカズヤという源氏名で34歳の人でした。背丈が小さくて俳優の伊藤淳史に似た雰囲気の男性で、キャバクラで5年のボーイ暦がありました。ユウヤさんはとても気さくな性格で、体験入店初日から僕に積極的に話しかけてくれました。 ユウヤ「イナバさん、この店は客がまったく入りませんね」

僕       「でも、午前中だから客は少ないんじゃないですか?」ユウヤ「いやいや、歌舞伎町のホストクラブは朝からガンガン来ますよ」

ユウヤさんは新宿区歌舞伎町にある高級クラブの元ホストで、いいときの月収が70万円を超えていた時期もあるそうです。しかし、高級店のノルマは予想以上に厳しく、粋のいい若手ホストとの戦いに敗れて店を追われてしまったそうです。

ユウヤ「この店は歌舞伎の高級店でもないし、ハードルが低くて働きやすいと思いますよ」

僕     「そうなんですか?」

ユウヤ「じゃなきゃ年長者の新人を3人もとったりしませんよ。おそらくノルマも少なくて給料も            安いはずなんです。この店のナンバー1は歌舞伎の店で負けて逃げてきたホストかも?」

僕   「なるほど・・・」

確かにこの店のインテリアはお世辞にも綺麗とは言えないし、箱のサイズも小さい。ホストの年齢層も高めでルックスも地味目。テレビのホストクラブ特集番組で見るようなアイドルに匹敵する超イケメンがハイブランドのスーツを着てベンツで店に乗り付けるようなシーンもありません。

ユウヤ「僕らは底辺なんですよ、売れてる歌舞伎町のホストは月収500万とかありますからね。     この店の立地条件ならどんなに売れても月80万くらいでしょうね」

僕    「それでも、凄いじゃないですか!」

ユウヤ「幹部の人もそんなに僕らに期待してませんよ、ここは募集しても人が来ないだけですよ。     俺の顔をよく見てください。元プロ野球選手の工藤公康みたいでしょ?ブサメンなんですから」

僕       「それを言うなら、俺だってなだぎ武に似た芸人顔でヒゲの濃い汚いオッサンですよ!」

ユウヤ「・・・まあ、あの、だからあまり期待しないで俺達は地味にやるしかないですよ(笑)」

ユウヤさんの話は経験に裏打ちされた説得力を感じました。お店のブログに掲載されていた報酬表は下記の通りです。業界の底辺として入店した僕たちが、カリスマホストになれる日は来るのでしょうか?

■給与:時給1,000円+売上バック+指名料+場内指名料+各種賞金手当(No.賞金+代表賞+努力賞+シャンパンコール手当+スカウトバック+フリー賞+幹部手当)■昇格昇給随時■日払い可■体験入店、研修制度有り■ノルマ無し■各種手当有り■賞金多数有り

営業開始から5時間が過ぎた午前10時。お客さんは未だに現れません・・・。