ホストクラブとは男性従業員が女性客の隣に座って接待をする飲食店です。主役はあくまでもお客様である女性。ホストは女性を良い気分にさせて喜ばせるお仕事です。「イケメン！色恋トーク！枕営業！自分の持つ武器を駆使して女性を満足させてみろ！」という成果主義の特殊な世界。そんなファンタジーワールドに迷い込んだ僕のホスト体験記を告白します。
エロゲー会社で働いてるうちに貯金が底をついた・・・
30歳を過ぎて一念発起した僕は、東京に上京して某ゲーム会社のシナリオライターとして働くことになりました。ゲーム会社と言っても18禁ゲームを作るエロゲー会社です。9割5分がブラック企業と恐れられる死の業界でした。僕が入ったエロゲー会社の時給は750円。当時、東京都の最低賃金が時給800円だったので、ぶっちぎりの労働基準法違反です！
しかも、どんなに長時間労働しても手取り10万5千円というまさかの固定給。住んでいたアパートの家賃が5万4千円。どんなに切り詰めても3万くらい赤字が出ました。不況の煽りを受けて会社も経営不振に陥り、給与は上がるどころか徐々に下降します。1年程で貯金は消えてしまいました。「このままでは生きていけない！」と社長に直談判し、内勤から自宅勤務に雇用形態を変更してアルバイトに励むことになりました。この時点で本末転倒・・・。田舎に帰るのが正解だったように思います。
時給1000円のバイトを探すうちにホストクラブにたどり着く
何とか生活できる仕事を探すのが先決だと思い、ネットでアルバイト情報を検索しました。経験のある職種なら採用される可能性も高いと思い、派遣会社で募集しているデータ入力のバイトなど、時給1000円以上の案件に片っ端から応募したところ、全て落選しました。「東京なら仕事はあるさ！」という楽観的な希望は急速におとろえ、希望は絶望へと変わりました。
どうしたらいいのかと頭を抱えいたそのとき・・・『ホスト』という3文字が頭に浮かびます。
なぜ浮かんだのかは分かりません。『ホスト＝金、金＝ホスト』みたいに単純な思考回路が直結したのだと思います。ネットで東京のホストクラブを検索していると、3駅先にある『リレイズ』という名のホストクラブが目に飛び込んできました。『30歳以上の方でもOK！』というフレーズが決め手です。お店に電話で問い合わせると「とりあえず体験入店してください」ということで3日間の体験入店を受けることになりました。
雑居ビルの地下にある怪しい店、一番怪しいのは自分
午前5時。指定された場所にたどり着くと、店は雑居ビルの地下にありました。『リレイズ』とオシャレにペインティングされた看板がネオンでキラキラと輝いています。店に入ると180cm以上ある長身のイケメン男性が待ち構えていました。長髪で金髪、シルバーアクセサリーを身に付けて、ピンストライプのジャケットにダメージジーンズを履きこなす姿はまさしくホスト！
いきなりプロの洗礼を浴びました。こっちも負けていられないと、丸井で買った一張羅のセットアップスーツを着てホスト風に見せかけていました。昔買ったシルバーの指輪を付け、ワックスで頭髪を逆立て、先のとんがった革靴を履きました。鏡で自分の姿を見ると、無理やり若作りしたオッサンが大学生のパーティー呼ばれたような気持ち悪い感じです。
面接で源氏名を決められる
カイトさんと名乗る幹部クラスの男性の面接が始まりました。「へぇ、ゲーム会社で仕事してるなんて面白いですね」と言われたので「いえ、大したことはないです」などと社交辞令的な会話が進みます。「ところで、ホストになろうと思った動機はなんですか？」と聞かれて、ドキーッン！
・・・心臓が高鳴りました。「それは・・・」僕は言葉に詰まりました。イケメンでもなく、高身長でもなく、トークが上手いわけでもないオッサンにホストを目指す動機は見当たりません。
「あの・・・昔、芸人をやってました！芸でお客さんを楽しませようと思います！」事実、僕は10年前に芸能プロダクションで売れない芸人をしていた時期があったのです。「ほう、何か得意な芸を見せてくれないか？」と直ぐに切り返されたので、「B'zの歌マネができます！」と豪語しました。芸人時代はピン芸人としてコントをやっていたのですが、10年経って完全にネタを忘れていたのです。唯一残っているレパートリーがB'zの歌マネでした。
「さっそく歌ってみて！」ということになり、ウルトラソウルを力いっぱい熱唱しました。カイトさんの感想は、「微妙に似てるところが面白い！」とか「似てなくても勢いがあるところが良い！」とそこそこの評価を頂きました。「とりあえず、体験入店からやってみよう」という話になり、入店を認められました。
「あ、源氏名なんだけどね・・・イナバにしよう！」という強引な展開でイナバと名乗ることに・・・B'zの歌マネで付けられた源氏名。僕のホスト人生が静かに幕を開けました。
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