10月10日、東京電力が福島第1原発1号機の原子炉格納容器内を小型カメラで撮影したことを新聞・テレビなどのマスコミに公表した。
伝えられたニュースから、何をどう判断すればいいのか考えてよう。産経新聞は「1号機の底部付近まで撮影したのは初めて」とし、次のように伝えた。
格納容器の底には汚染水がたまっており、底から約2・8メートルの場所で水面が確認できた。1号機には毎時約5トンの水が注入されており、損傷部から水が漏れているとみられるが、損傷箇所は不明という。
線量計も同時に入れており、上部から挿入してすぐの場所で毎時11・1シーベルトを計測。作業員の年間被曝(ひばく)限度である50ミリシーベルトにわずか数十秒で達する値だった。線量は底部にいくにつれて下がり、水面に達すると毎時0・5シーベルトになった。
記事から読みとれる重大なことは次の三点だろうか。
漏れ続ける水
水位は2.8メートル。水位の変動については触れられていないが、事故後ずっと注水が続いていることを考えると、現在の注水量とほぼ同じ量の水がどこからか漏れ出ているのは間違いないだろう。
作業が不可能な高線量
線量計を挿入してすぐの場所で毎時11.1シーベルトという線量はかなり高い。マイクロもミリも付いていない、そのままのシーベルトという単位自体驚きだが、短期間の被ばくによって死者が出る可能性が出てくるといわれるのが1シーベルトの被ばく。50%の人が亡くなるとされる50%致死線量が3~5シーベルト。
100%致死線量は、7~10シーベルト。記事が伝える通り、生身の人間がとても作業できる環境ではないことは明らかだ。
核燃料物質はどこにあるか
とくに考えさせられるのは、線量計を挿入した場所の線量は高いが、底部にいくにつれて線量が下がり、水面では毎時0.5シーベルトだったという部分だ。核燃料(実際には燃料となるウラン235のほか、ウランが分裂してできた生成物、核反応で発生した中性子によって生み出されるプルトニウムなど超ウラン物質などの混合物)は、メルトダウンによって圧力容器から融け落ちて、格納容器の底に溜まっていると考えられている。
であれば、核物質が溜まっている下の方ほど線量が高くなりそうなものだが、観測された数値は逆を行っている。線量計が挿入されたのがどのような位置なのかがよくわからないが、圧力容器の底近くの高さにある貫通孔から入れられたと仮定すると、次のようなストーリーも考えられるのではないか。
「燃料棒は破損し、融けたものは圧力容器の底に溜まっていますが、格納容器に大量に漏れ出たことはありません」あるいは、
「融け落ちた核物質は2.8メートル溜まっている水の中にあるため、水の外に漏れ出る放射線は限られている。上部の線量が高いのは、圧力容器の底の壊れた箇所から、圧力容器内に残った核物質の放射線が出ているからでしょう」電力会社はこのような情報をマスコミに公表することで、何を伝えようと意図しているのだろうか。いずれにしろ、核物資の現在の状況を判断するに足る情報は出されていないと考えるべきだろう。
まとめよう。◇注水が続く原子炉からは、注水量とほぼ同じ量の水が漏れ続けている可能性が高い。
◇格納容器内は、人間が立ち入れる環境ではない。◇破損した燃料棒から出た核燃料物質や核分裂生成物がどこに、どんな形で存在するのかは不明である。
遅まきながら東京電力もリリースをアップ
産経新聞のWEB版記事の配信日時は、2012年10月11日 9:16だったが、同日の午後に入ってから東京電力のホームページ上でも以下の配信があった。東京電力のプレスリリース<福島第一原子力発電所プラント状況等のお知らせ>(日報:平成24年10月11日 午後3時現在)には、次のように記されている。
平成24年10月10日午前10時頃から午後0時10分頃にかけて、1号機原子炉格納容器の貫通部の一つ(X-100Bペネ)より、CCDカメラおよび線量計をグレーチング下部まで挿入し、格納容器内部の水位確認および線量率測定を実施しました。調査の結果、水位はドライウェルの床上より約2.8m上部にあること、また、格納容器内部の線量率は、約0.5Sv/時~約9.8Sv/時の範囲であることを確認しました。
「X-100Bペネ」とは原子炉のどのような位置なのだろう?「グレーチング」は原子炉内のどこにあるのだろう?
肝心のことは、原子炉内部についての知識がある人にしか理解できない。こんな形でリリースを一般公開する意図は何なのだろう?それに、驚いたことには、新聞に公表されたものと東京電力のプレスリリースでは、
線量率の数値まで異なっているではないか!東京電力は12日にも、11日の調査の結果として、溜まり水の透明度が高かったというニュース情報をマスコミに提供している。今後も同様の報道ネタを提供し続けるようだ。
*東京電力の情報提供を受けた形でのマスコミ報道について、内容を精査して記事を続報します。
いろいろ考えるにつけ、毎日放送の「ラジオニュース たね蒔きジャーナル」が9月末で終了したのは痛いなあ。