ご存じでした?優先席は専用席ではありません。
2012年3月上旬、早朝の東海道線での出来事です。東京方面に向かう列車に静岡駅で乗車すると、初老の女性が優先席に座ろうとする若者に大声で文句を言っていました。早朝ですから、席はガラガラで、その女性が座っている優先席の向かい側の優先席もすべて空いている状態です。若者は、空いている席に何の躊躇もなく座るのですが、そこへ大声で怒鳴りつけるのです。
「ちょっと、あんた!字が見えないの?ここは優先席!座っちゃダメなの」見かけはごくごく普通のご婦人です(後々、他の人と話している内容からすると、公務員か何か公益に関わる仕事をしていたらしいです)。
若者は、いきなり怒鳴りつけられたものだから、驚くと同時に、ムッとして他の車両へ行ってしまいました。そんなことを3人くらいに立て続けに行い、次に入って来た若者にも同じように怒鳴りつけました。ところが、その若者はムッとしたものの移動しようとはしません。「空いているんだからいいじゃないですか」と言って座っています。
初老の女性は烈火のごとく怒りまくります。そこへ、スーツを着た白髪の男性が入って来ました。女性の怒鳴り声はちょっと異常なほどでしたので、止めに入るのかなと見ていると、同じように若者に向かって怒鳴り始めました。「あんたは字が読めないのか?空いていてもココは優先席だからダメなんだよ!」
「こんなに言ってるのに無視する子は初めてだよ!若い人が私たち老人をいたわってくれないでどうするんだ!」「なんでルールが守れないんだ!あんたそれでも日本人か」
2人ががりで怒鳴り続けます。大きな声を出しているうちに、気持ちが高ぶっていったのかもしれません。若者がテコでも動かなかったので諦めたのか、白髪の男性とその女性は向かい合った優先席に座って大声で話始めます。これまで世の中のために一生懸命働いてきたのだから電車賃もタダにしてほしい、今の若者は常識がなく、日本がどんどんダメになって行く、などなど。車内の他の人たちは、とばっちりが飛んでこないように顔を伏せたり、お互いに呆れた顔を見合わせたりするばかりでした。
優先席と専用席はどう違う?
優先席と専用席ってちょっと微妙ですので、念のために優先席について調べてみました。簡単に言うと「優先席とは、高齢者や障害者、小さな子供を連れている人、妊娠している人などの着席を優先させる座席」ということです。優先ですから、必要な人が来たら譲ればいいんです。言ってみれば、バス優先レーンとバス専用レーンの違いみたいなものですね。
札幌市営地下鉄では、優先席にあたる席を「専用席」としているため、ラッシュ時間帯でも若者や健常者で座る人はいないのだとか。電車の中で具合が悪くなったらどうするんだろう、なんて疑問もありますが、札幌の地下鉄利用者は専用席ルールをしっかり守っているらしい。いっぽう、横浜市営地下鉄や阪急電鉄、神戸電鉄などは、優先席を廃止し、全車両の座席を優先席と同じような扱いにしています。優先席だけでなく、一般の席でも譲るのが当たり前という思想なんですね。
優先であれ専用であれ、お互いに譲り合う気持ちが大切なのは言うまでもありません。「譲ってもらって当然」「譲るべき」というのは、日本語としてもおかしいように思います。ましてや、感情をあらわにして怒鳴り散らすというのは、はっきり言ってハタ迷惑でした。でも、そんなことを考えながら、電車を降りるときに思いました。初老のご婦人の行動が行き過ぎだなと思っていたのに、見て見ぬふりをしていた自分は、怒鳴っていた2人と同罪だなと。そう考えると、はっきり主張して優先席に座り続けた若者は、一本筋が通っていたんだなと。
でも、自分としてはこんなことも思ってしまっていたんです。車内は空いていたんだから、わざわざ優先席に座らなくてもよかったんじゃないかなって。
いちばん醜いのは事なかれ主義なのかもしれません。