巨大鉄鉱床をつくった小さな藻類
人類の文明と切っても切れない金属「鉄」。オーストラリアなどの巨大な鉄鉱床では、大規模な露天掘りで大量の鉄鉱石が採掘されています。世界で1年間に採掘される鉄の量は12億トン。この大量の鉄が、人間にとって利用しやすい状態で蓄えられたのには、生物の営みが深く関わっていると言います。
今から46億年前に誕生した地球の原始大気や原始の海には、ほとんど酸素分子が存在しませんでした。30億年以上前に生まれた最初の生物は、酸素を利用しない嫌気性のバクテリアでした。それはそうですよね。酸素が存在しないのだから、酸素を使う生物などいるはずがなかったのです。ところが27億年ほど前に、光合成をする生物が誕生します。光合成は太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素と水から有機物を作り出す反応で、余分なおまけとして酸素分子が出てしまいます。酸素分子は強力な酸化作用を持つ物質なので、そこいら中にあったものを片っ端からどんどん酸化させていきました。
その頃の無酸素状態の海水中には、鉄がイオンとして大量に溶け込んでいました。この鉄イオンと酸素分子が結びついて水酸化鉄に変化しました。水酸化鉄は水に溶けにくいので、海水の中から析出して海の底に沈殿していきました。ところで、酸素を生産する生物(当時はストロマトライトのような藍藻類)は、太陽の光がないと光合成ができないので、陸地近くの浅い海に生息していました。明るい浅い海で光合成のおまけとして作られる酸素分子は、近くの海中の鉄イオンから酸化していくので、その時代の大陸棚や大陸斜面で大規模な鉄鉱床が形作られることになります。
北アメリカやオーストラリアで見られる厚さ数百メートル、長さ数百キロという巨大な鉄鉱床は、20億年前に大陸棚や大陸斜面だった場所なのです。これが、人類に利用されている鉄鉱床が誕生した先カンブリア紀のストーリーです。地殻を構成する元素の約5%が鉄なのに、鉄鉱石の産地が偏っているのは、ミクロな藍藻のこんな物語があったのですね。
北アメリカやオーストラリアで産出する鉄鉱石は、赤くて美しい縞模様があることから縞状鉄鉱石と呼ばれます。縞模様ができた理由も、おそらく太古の植物が生産した酸素分子の量の変化と関係があると思われますが、くわしい理由はまだ判明していないようです。