化学肥料と農薬が生態系に及ぼす影響

種子法廃止により多国籍企業が種を独占し、さらに食自体が独占される危険が日本にも迫っていることを前回の記事で紹介しました。種の多様性が失われ、日本の伝統的な農業が破壊され、私たちの食の安全が脅かされようとしています。

種子法廃止はその他にも様々な問題を抱えています。今回は多国籍企業が販売する化学肥料や農薬が環境や人体にどのような影響を及ぼすか、種子法廃止の講演会で学んだことを書いていきます。

化学肥料と農薬の歴史

今では当たり前に使われている化学肥料は戦争から生まれました。

戦時中、世界中で爆弾を作るための化学工場が作られました。戦争が終わり、爆弾の原料である窒素化合物を生産する化学工場の設備は不要になりました。

この時、不要になった化学工場を閉鎖せず、同じ窒素化合物から作ることができる化学肥料の生産に設備を転用することで農業の分野に進出し、化学企業として存続することになりました。

化学企業が生産する化学肥料の大量投入により、穀物の生産性が飛躍的に高まり、緑の革命が起こります。戦後爆発的に世界の人口が増加したのは、この化学肥料のおかげと言われています。除草剤などの農薬についても戦後、やはり化学企業により大量に生産販売されるようになりました。

さらに化学企業は農業の根幹である種子を握ろうと考えました。種子ビジネスは儲からないと言われています。種子販売による利益は生産コストの2%しかなく、開発期間も10年以上かかる場合もあるようです。手間や時間と比較すると割に合わないビジネスだと言えます。とても利の薄いビジネスであるため、種子事業は公的な機関で行われてきました。

では、化学企業はなぜ種子に目を付けたのでしょうか。

なぜなら種を握ることで、農家に化学肥料・農薬をセットで販売することができるためです。化学肥料と農薬は種子ビジネスと組み合わせることで、とても儲かるビジネスになるのです。

「化学肥料と農薬をどんどん使用して生産性を高めて、労力を減らしましょう。」
「農業を大規模化して儲けましょう。」

このように化学企業は宣伝します。このような企業に種を独占されてしまうと、伝統的な自然農法や有機農法ができない時代になってしまいます。決定権が企業に移ってしまい、農業のあり方が変わってしまいます。

世界でグローバル企業となって農家から種を奪おうとしている企業は、ほとんどが化学企業なのです。

化学肥料が土壌に与える影響

農業の生産性を高めることに成功した化学肥料ですが、土壌へ与える影響が問題視されています。

作物が毎年しっかりと育つのは、豊かな土壌があるためです。豊かな土壌にはたくさんの微生物が住んでいます。手のひらに土を入れると、そこには地球の人口を超える微生物がいます。その数は100億に達するそうです。微生物は岩石を溶かしてミネラルを植物や動物に与え、植物や動物が生きられる環境を作り出しています。

植物は光合成をすることで、炭水化物を作り出します。そしてその4割を地中に落とすそうです。この炭水化物を目指して微生物が集まってきます。

また豊かな土には菌もたくさん住んでおり、菌根菌糸も炭水化物を求めてやってきます。そして菌糸を土壌に張り巡らせスポンジのような役割を果たしています。菌根菌糸が土を乾燥から守っているのです。微生物や菌が住む土壌が二酸化炭素を吸収し、土壌は豊かになり、生命が広がる地球を作り出しています。

このように土壌に住む微生物や菌根菌糸と、植物のエネルギーの交換(循環)により豊かな土壌が守られています。

ところが化学肥料をたっぷり使用することで、植物は微生物や菌根菌糸に炭水化物を供給しなくても、ミネラルを肥料から摂ることができます。そのため炭水化物を地中に落とさなくなります。当然、化学肥料がまかれた場所には微生物や菌根菌糸が集まってこなくなります。

その結果、土はカラカラに乾いてしまい、風で飛ばされ、水害で流されてしまいます。

戦後世界中で始まった緑の革命により、化学肥料を大量に使用した結果、なんとあと60年で地球から土が無くなってしまうと言われているそうです。まだ戦後70年しか経っていません。化学肥料により地球上の土がたった130年でダメになってしまうようなのです。

このような背景を踏まえて、国連と化学者たちにより、土壌資源の持続的管理および保護などを目的として2015年を国際土壌年とする決議文が制定されました。国際的に化学肥料の使用の有り方について見直す時期が来ているようです。

農薬が人体に与える影響

主に除草剤などに使用される農薬は、人体に与える影響が問題視されています。

アメリカの大手バイオ化学メーカーのモンサント社が販売する農薬に、世界的なシェアを誇るグリホサート系除草剤ラウンドアップがあります。ラウンドアップは植物が光合成でアミノ酸を作る経路を止める性質を持っています。そのため、ラウンドアップの耐性をもった作物以外の雑草のみを枯らすことが可能となります。

モンサント社によると、ラウンドアップは人間には無害だと主張しています。人間で光合成をする人はいないから、というのが理由だそうです。ところが、人間の腸内に住む乳酸菌やビフィズス菌などが植物と同様の経路を持っているようです。

作物に残留した農薬がお腹の中の善玉菌に影響して、お腹を壊してしまいます。人間の体を守る免疫システムの7割がお腹にいると言われています。お腹を壊すことは万病の元となります。

また殺虫剤として使用されるネオニコチノイド系農薬も、環境への問題だけでなく神経発達障害との関連など、人への影響も明らかになりつつあります。

農薬については海外では規制強化の動きが見られますが、日本ではむしろ緩和の方向に向かっており、残念ながら世界の流れに逆行してしまっています。

アメリカでは3人に1人はアレルギーまたは糖尿病などの慢性疾患もっていると言われます。いま同様の症状の子供たちが非常に増えており、日本でも同様のことが起こっているようです。日本の種子を守る会事務局アドバイザーの印鑰智哉(いんやくともや)氏によると、農薬が第一の原因ではないか、とのことです。

豊かな土壌を取り戻すために

このままでは近い将来地球から土が無くなってしまうと言われていることを先ほどお伝えしました。では作物にとって必要不可欠な豊かな土壌を取り戻すためには、何が必要なのでしょうか。

印鑰氏によると、化学肥料を大量に使用する近代農業から、アグロエコロジーと言われる生態系の力を利用した農業(世界の食料生産の7割を占める小規模農家の主体性を重視した、有機農業より広範な考え方)に転換する必要があるとのことです。

アグロエコロジー運動は2000年代にラテンアメリカやアフリカで広がりを見せ、フランスでは農業未来法という法律が生まれました。この運動は国連でも世界に広げていこうという方向を示しているようです。アグロエコロジーは生産性を下げずに環境を守ることが可能と言われているそうです。

化学肥料や農薬を生産する過程で大量の化石燃料と天然ガスが使用されます。現在、農業に関わる気候変動ガスの排出割合は50%近くに及んでいるとの指摘もあるようです。

化石燃料に依存せず、生態系が持つエネルギーを効果的に用いるアグロエコロジーのような農業へ転換することで、もう一度豊かな土壌を取り戻すことが可能であり、土壌問題は収束していくだろうと考えられているようです。

今回は化学肥料と農薬の問題を取り上げました。次回は遺伝子組み換え作物の問題について記事にしたいと思います。