山菜を探しに復興住宅の裏山に入ってうろうろしていたら、茂みの中に見たことのない美しい紫色の花。何なんだろうと近づいてよくよく見て気がついた。上の方から落ちてきた花びらなのだと。
見上げてみたらすぐそこに藤の花。山菜を見つけようと足許ばかり気にしていたから、まるっきり気がつかなかった。でも、小さな落し文のような花びらのおかげで藤の花に出会えた。葉かげに隠れるように咲いていたから、ふつうに歩いていても気がつかなかったかもしれない。(落し文というと昆虫の名前になってしまうから、葉の上にそっとおかれた付け文と思った方が美しくていいかな)
出会いが印象的だったせいもあって、しばらく藤の花を見つめていた。見つめていてふと、
葛の花 踏みしだかれて 色あたらし この山道を 行きし人あり
という釈迢空の短歌を思い出していた。
思い出してはみたものの、季節も状況も全然違う。折口信夫は花を見て旅人の存在に気づいたわけだが、ぼくは落っこちた花びらを見て花が咲いていることに気づいた。似ているのは、山の中でひょんなことから何かに気づいたということだけ。
でも、まあいいか。至福のときという花言葉をもつ花に出会えたのだから。ちなみにフジの花言葉には、ほかにも「やさしさ」「歓迎」などがあるらしい。そして4月5日、4月29日、5月25日、5月31日などの誕生花とされているようだ。花言葉も誕生花の対象日もさがせばもっと出て来ることだろう。
でも、それもまあいいか。あいにく山菜は見つからなかったのだが、わざわざ藤の花が付け文までしてくれたおかげで幸せな気分になれたのだから。
【以下、蛇足】
ちなみに、ほんとうに美しい花を写真に撮るときにはヘタな小細工は不要だということを藤の花に教わった。まずは左の写真。花全体が見えるように葉っぱをどけて撮ってみたら、せっかくの慎み深さが損なわれてしまった。右はストロボ撮影。暗い茂みの中だったのでフラッシュを使ってみたが、まるでパーティ会場に飾られた洋花みたいになってしまった。
野の花には小手先の技は通じない。なんとか工夫して自然光で撮るのが一番なのかもしれぬ。大変ではあるけれど。