いくら何でも何だかなぁ

新年度になった4月1日、BRT(バス・ラピッド・トランジット、つまり列車の代わりにバスを走らせる旅客鉄道)のJR陸前高田駅に行ってみたら、入口には「立入禁止」の張り紙。そして駅名看板にはテープで「×」印が着けられてた。この日から駅が移転したからだ。

バスによる運行とはいえ、みどりの窓口も設置されている陸前高田駅はまちの交通の中心だった。いくら何でもバッテンとは。

そして新しい駅はこうなった。

屋根のない、バス停のような駅だ。ちなみに「栃ヶ沢公園」というのが、この日から新しくなった駅の名前だ。前日までならバスを待つ時間に駅舎の中でおしゃべりしたり、くつろいだりできた。駅員さんに乗り換えについて教えてもらったりもできた。中には手芸を教えっこしたりする人がいたりもした。遠くからの友人を出迎えたり見送ったりする場所、思い出の場所だった。

でも今日からは——。

真っ赤なBRTのバスは、オープンしてたった3年しかたっていない駅舎には立ち寄ることなく、市役所前の道を走り過ぎていく。

ちょっとさみしい。でも、だからと言って、移転しないでほしかったなどと言っているわけではない。

駅舎移転の理由は

JR東日本盛岡支社が2017年10月30日に発表したところによると、駅移転の経緯はこういうことらしい。

陸前高田市からのご要望を踏まえ、陸前高田市新中心市街地に「陸前高田駅」を移転します。また現行の「陸前高田駅」付近に「栃ヶ沢公園駅」を新設し、「まちなか陸前高田駅」を廃止します。

引用元:大船渡線 BRT「陸前高田駅」移転及び「栃ヶ沢公園駅」新設等のお知らせ|東日本旅客鉃道盛岡支社

駅が移転したのは、旧「陸前高田駅」だけではない。どの駅がどう動くのか地図で示すと下のようになる。

ピンク色で示した数字の、
1:旧「陸前高田駅」→移転(廃止)
2:新「栃ヶ沢公園駅」→新設
3:新「陸前高田駅」→新設
4:旧「まちなか陸前高田駅」→廃止
参考のため、復興公営住宅を地図上にピンク色の「▲」でプロットした。

ちなみに、旧「陸前高田駅」の周辺には、仮設の市役所庁舎のほか、消防、警察の拠点施設がある。また岩手県内最大規模の復興公営住宅「栃ヶ沢アパート」がある。

それに対して、新しい「陸前高田駅」は新しい商業地域の一角に位置しているとはいうものの、現在のところ周辺にはほとんど住宅はない。

利用者の立場からすると、少なくとも「いま」動かす必要があったのか、と思ってしまう。

駅舎だけでなく路線も変わった

駅の場所の変更と同時にBRTのルートも変わった。

列車で運行していた当時のJR大船渡線は、気仙沼駅から内陸部の峠を越え、陸前高田市矢作町を経由して大船渡市の盛駅とを結んでいた。しかし、陸前高田駅~大船渡駅間の沿岸部の駅や線路が津波による大きな被害を受けたため、BRTでの再開時には線路時代とは異なる経路をとることになった。

大船渡線 BRT「陸前高田駅」移転及び「栃ヶ沢公園駅」新設等のお知らせ|東日本旅客鉃道盛岡支社

上の路線図の気仙沼駅から先の線路(鉄路)は廃止され、BRTのバスは鹿折唐桑で一般道に入る。そこから先は、リアス式海岸の沿岸を走る国道45号線を通って陸前高田駅を経由、大船渡方面に達するというルートである。また、「鹿折唐桑~上鹿折~陸前矢作」間の山越えの旧路線はルートそのものが廃止されたが、陸前矢作から陸前高田駅方面を結ぶBRT路線が設定された。JRの公式な見解ではないが、実質的に、気仙沼~陸前高田~大船渡~盛のBRTが本線、陸前高田~下矢作のBRTが支線といった形で運行されて来たわけだ。

陸前高田駅が旧「まちなか陸前高田駅」の近くに移転したのを受けて、旧陸前高田駅」の代わりに設置された「栃ヶ沢公園駅」は、本線のターミナル駅の位置づけから支線の一駅という扱いになった。本数も減った。

本当に「何だかなぁ」なこと

私の説明がヘタだということはあるが、それにしても分かりにくい。しかし、利用する方としては、生活に直結する変化なのだった。

繰り返すが、移転しないでほしかったなどと言っているわけではない。

「BRTがあるだけでもありがたいから」

「でも市役所もそのうち移転してしまうから心配ね。できれば、あまり本数は減らないでほしいけどね」

今回の駅舎と路線の変更で、もっとも影響を受けると考えられる栃ヶ沢アパートの住民は、こんな風に話している。「もう少し先でもいいだろうにね」と言う人はいたが、少なくとも「移転反対!」なんて声は聞かない。まちが新しくなっていく過程で、いろいろなことが変わっていくことを受け入れているように感じる。それでもひとつだけ「できれば変わらないでほしい」というポイントがあった。

それは、旧陸前高田駅の駅舎だ。屋根付きの駅舎があることは、高齢者の多い栃ヶ沢アパートの人たちにとって、とてもありがたいことなのだ。

駅舎がなくなるかもしれないという噂は、昨年の秋口から聞かれるようなっていた。その当時から、まちなかに新しい駅ができるのは仕方がないけれど、今の駅舎は残してほしいという声が少なくなかった。駅員さんに直接掛け合った人もあった。自治会としても問い合わせたという。

住民からの問い合せに、非公式ながら次のような話だったという。

《清掃などの駅舎の管理をやってもらえるのなら、必ずしも撤去する必要はないかもしれない》

昨年11月初頭、住民と市議会議員が懇談する機会があった。オブザーバーとして参加させてもらったのだが、駅舎の件が話題になった。

住民:何とか屋根のある駅舎を残してもらえるようにしてもらえませんかね。利用者には年寄りが多いんでね

市議:いやあ、移転するって話しか聞いてないんですよ

住民:でもね、清掃とかを市なのか住民なのかでやるなら、残してもらえるって話もあるんですよ

市議:えっ、そんなこと、誰が言ってたんですか?

地方でよく見かける無人駅のように、駅舎の管理さえしてもらえれば建物を残す道もあるという話は、議員さんたちにも初耳だったようだ。

「陸前高田市からのご要望を踏まえ」と駅廃止が発表されたニュースリリースの日付は10月30日だった。市議会議員との懇談は11月7日のことだ。

住民の知らないところで、そして住民に選ばれた市議さんたちですら知らないまま事がはこんでいく。本当に「いくら何でも何だかなぁ」と思ってしまう。そしてこのまちでは、似たように感じてしまうことが少なくないのだ。

(目的地と利用駅の位置関係の確認を十分に)