「お隣」のコミュニティホールで毎朝行われるラジオ体操

この夏から入居が始まった陸前高田の県営栃ケ沢アパート。県内最大の災害公営住宅だ。先日、入居している男性宅を初めて訪ねた。

男の一人住まいとは思えぬほど広々とした室内は、考えてみれば「物がない」ということの裏返しだったのかもしれない。それがその人の人となりによるものなのか、あるいは違う理由によるものなのか、よく分からない。

神戸で開催されたイベントの様子をパソコンのスライドショーで説明していると、彼が聞いてきた。

「十数棟も駅前に災害公営住宅が建ち並んでいるのはすごい。さすがに人口が違うということなんだろうけど、この公営住宅には集会場とかあるの?」

パソコンの画面にはまさにその集会場でのイベント風景が映し出されていた。

「えっ、これだけのスペースしかないの?」

そんな神戸の教訓が、陸前高田の復興住宅に生かされているんだと思いますよと応えたものの、県営栃ケ沢アパートの敷地内に作られた立派で美しい集会場はオープンされていない。なぜかというと、自治会がまだ発足していないからなのだという。

県営栃ケ沢アパートには約300戸が入居する。千人規模のまさに新しい町。しかしそれだけに、自治会を立ち上げることも大変な困難を伴うのだという。とはいえ、せっかくの新しい町だ、立派な集会場を活用して、人と人のつながりを築いていきたいところ。

「でもまあ、まだなんだ」

同席していた知人の女性が付け加えた。彼女もこの公営住宅の住民のひとり。

「集会場はまだだけど、その代わりにお隣のコミュニティホールの玄関ホールで、毎朝ラジオ体操をやってるから、参加してみたら」

そのお言葉に甘えてさっそく参加してみた。ラジオ体操第一はまだしも、ラジオ体操第二なんて何年ぶりだろう。それでも不思議と身体が動くのに驚いた。

まだ暖かい頃は屋外でやっていたラジオ体操だが、冬になってからは団地に隣接するコミュニティホールに掛け合って、玄関ホールでやらせてもらうようになったのだとか。

災害公営の巨大団地は完成した。しかし、住民の交流の場である集会場はまだ使えないから——。と、コミュニティホールで毎朝開催されるラジオ体操をとらえることもできるだろう。

しかしその逆に、集会場はまだ使えないけれど、コミュニティホールを仮の場所として使わせてもらいながらでも毎朝ラジオ体操をやっている。人と人がつながるために——。と言うこともできる。

私は希望も込めて後者をとりたい。

陸前高田の市内各地から人が集まる、つまり震災以前の地縁とは切り離された状況から始まる新たな団地のコミュニティづくりに手を挙げていた民間NPOがあったのにスルーされたなど、多少の内情は知るものの、それでも、この新しい団地に暮らす人たちが自らつながりをつくり出そうとしていることを、微力ながらも応援したいと思う。

だって、300世帯のうちいまでも少なくとも3世帯は知り合いだ。1パーセントも知人がいるのだから、しっかり応援しないなんてありえない。

ラジオ体操が終わった後、お隣の復興住宅の人たちの間でおしゃべりの輪ができた。「広島から来た人が話を聞きたいんだって」という声も聞こえた。復興住宅に暮らす人たちだけでなく、外の人たちにもつながっている場。おしゃれな集会場が使えるようになった後も、朝のラジオ体操はこの場所で続けてほしいなあと思ったりもした。