ご近所のビルのエレベーターに乗ったら、「FIRST AID」と記された防災キャビネットが設置されていました。地震でエレベーターに閉じ込められたら恐いですね。真っ暗だし、ぬけ出すことはまず不可能だし、大地震で被害が広域に及んだ場合には、なかなか救助が来てくれないかもしれません。そんな不安を少しでも解消してくれるのがエレベーターの防災キャビネット。
最近増えてる防災キャビネットは万能か
しかし、中に何が入っているのか見たことありませんでした。扉を開くには非常ボタンのような物々しいボタンを押さなければならないみたいです。(※重要!それに、このキャビネットの扉は、一度開けると、専用のカギがなければ閉められない仕組みになっているそうです。いたずらされて中身を持ちだされないようにする対策なのだとか。いやあ、開けたりしなくてよかった、よかった)
写真のメーカーのホームページを探して、中身を確認してみました。キャビネットを開くと、中には、
ECOラジオ(手回し充電式ラジオです)
非常用飲料水50ml×10(5年保存)
非常用食料×10(5年保存)
簡易トイレ(大3枚・小3枚)
エマージェンシーブランケット(アルミ蒸着フィルム)×2
ホイッスル
救急用品
セーフティライト×2(ケミカルライト)
といった物が入っているようです。エレベーターでの閉じ込めでとくに不安な三要素、明かり、情報、トイレをなんとかできる最低限の装備とは言えそうです。
ただ、「トイレは簡易トイレとシートで乗り切ります」と説明されても、(大3枚・小3枚)ではやはり心もとない。ケミカルライト(樹脂製のチューブをポキっとやると中の液体が混ざって発光するライト。縁日で売られていたり、夜釣りの浮木にも使われているあれです)も、12時間しか持たないというのだからもう少し数がほしい。
何人が、どれくらいの時間閉じ込められると想定するのかによって、中に入れておく装備の検討が必要なのはいうまでもありません。
中身の割にかなり高価な点も気になりますが、普及すればきっと価格も下がってくることでしょう。それより何より、毎日エレベーターに乗って防災キャビネットを目にする度に、「防災」を意識できるのはいいことですね。
このメーカーの他にも、ふだんは椅子としても使えて、非常時にはトイレにもなるタイプなどもあるようです。要チェックです。
地震や停電でエレベーター内に閉じ込められたら
日本にあるエレベーターの数はどれくらいだと思います? なんと約60万基。その多くが都市部に集中していると考えられます。東日本大震災では全国で210基以上のエレベーターで閉じ込めが発生したそうです。大都市で地震や大規模停電のような広域災害が発生したら、さらに多くのエレベーターで閉じ込めが発生することでしょう。
最近では地震の揺れをエレベーターが感知して、自動的に最寄り階に停止してドアを開くタイプも増えているようですが、どのエレベーターにその機能が備わっているのかは素人にはよく分かりません。また、その機能に全幅の信頼を寄せていいものなのかどうかも分かりません。一般社団法人日本エレベーター協会のホームページによると、「揺れを感じると最寄階で自動的に停止する安全装置がついたエレベーターもありますが、利用中の方もご自身で “すべての” 行先階ボタンを押し、最初に停止した階で降りてください」とのこと。つまり機械を過信しないでね、ということのようです。となると、行き先ボタンを素早く押す練習(少なくともイメージトレーニングくらい)はしておいた方がいいかもしれません。
エレベーターの中に閉じ込められても、すぐに真っ暗になるわけではないそうです。最低数時間はバッテリーによる非常灯が点灯するとエレベーター会社は言っています。また、閉じ込められた場合はインターホンでビルの管理会社やエレベーターのメンテナンス会社に連絡することができますが、大きな災害の場合はエレベーターの外がどんな状況なのか分かりません。なかなか連絡がとれないケースも想定しておくべきでしょう。
とはいえ、広域災害の場合には、エレベーターから救出するための技術を持ったメンテナンス技術者が圧倒的に不足することが考えられます。そのため、国土交通省ではビルに常駐している管理会社のスタッフで特定の資格を有する人を対象とした「地震・停電等広域災害時のエレベーター閉じ込め救出対応制度」が10年ほど前から始まっています。これは、ビル設備管理技能士などの資格を持ったビル管理会社スタッフが専門的な研修を受けることで「救出作業者認定」を得られる制度です。
エレベーターのメンテナンス技術者でなくても、エレベーターからの救出作業が行える心強い制度ではありますが、どれくらい普及しているかは不明です。また、この認定を得た人でも救出作業が行えるのは、エレベーターの床と乗り場の段差が60cm未満で、利用者を安全に救出できる場合に限られています。(エレベーターを動かさないと救出できない場合は対象外)
冒頭に紹介した防災キャビネットも含め、エレベーターの閉じ込めにはさまざまな対策が講じられつつあります。しかしそれは取りも直さず、エレベーターという密室に長時間にわたって閉じ込められるリスクが大きいことの裏返しだと考えることもできるでしょう。揺れを感じたらすべての行先ボタンを押す。もしも閉じ込められたらインターホンで連絡をとる。大規模災害の場合には、インターホンへの対応すら滞ってしまうことも考えられます。非常灯がつくとはいえ、やはり閉じ込められたという心理的圧迫は想像以上に大きいでしょう(閉所恐怖症の人もいるかもしれません)。口で言うほど簡単なことではありませんが、冷静さをたもつことが何より大切だと思います。
いろいろなケースを想像して、心の中で訓練しておくことも大切でしょう。もしも満員のエレベーターに閉じ込められたらどうするか。救出まで3日も4日もかかったらどうするか。イメージトレーニングすることで、防災キャビネットの中身をどうするか、きっとより現実的な考え方が可能になるかもしれません。満員のエレベーターを避けようという気持ちになるかもしれません。
都市部の生活には欠かせないエレベーターですが、広域災害時には大きなリスクがあることは忘れないようにしたいものです。その意味でも、乗る度に防災キャビネットが目に入るというのは、モノとして以上に、意識に働きかける効果が大きいといえるかもしれません。