11月5日、2号機タービン建屋内で漏洩検知器が発報という形で発表された高濃度滞留水移送ラインでの汚染水漏れ。11月10日になってようやく調査の中間報告的な資料が発表された。第一報からの経過とあわせて考察する。
11月5日付の発表内容
※11月5日午前0時9分頃、2号機タービン建屋に設置されている滞留水移送設備の漏えい検知器が作動した。
このため、午前0時11分に2号機タービン建屋から高温焼却炉建屋への滞留水の移送を停止、午前0時12分に3号機タービン建屋から高温焼却炉建屋への滞留水の移送を停止した。
当社社員が現場確認した結果、滞留水移送配管の下部に設置してある約2m×5m×5cmの堰内に高さ約2cmの水たまり、堰外に約5m×5m×1mmの水たまりを確認した。
また、当該配管は塩化ビニールシートで覆われており、そこから数秒に1滴程度、堰内に滴下していたが、配管を覆っている塩化ビニールシートには、水が残っているものの、午前2時30分現在、水の滴下は停止している。
(後略)
タービン建屋の滞留水とは、メルトダウンした原子炉を冷却するために流し続けられている水(融け落ちた核燃料や原子炉内部で高濃度に汚染されている)に、建物の地下に流れ込んでいる地下水が混ざったもの。この汚染された滞留水は敷地南側にある集中廃棄物処理施設に設置されたセシウムを吸着する装置に送って処理される。処理後の水にはストロンチウムやトリチウムなどの放射能があるが、これを濃い汚染水と薄めた汚染水に分けて、薄めた方は原子炉の冷却用の水として循環利用される。濃い汚染水は多核種除去設備で処理するためタンクに貯蔵される。つまり、原子炉を冷却するラインであり、汚染水処理のラインでもある、非常に重要な系なのである。
建屋地下に溜まった滞留水は、10月6日から切り替えられた新しい移送システムだと考えられる。従来、作業員による操作で行われてきた滞留水移送を、各建屋内の水位に応じて自動運転するようになった。その新システムが本格稼働して1カ月で漏洩事故が発生したことになる。
同日発表されたリリースでは、日報の情報に加えて、漏洩が起きたパイプがポリエチレン管(PE管)であることと、塩ビシートで管路を覆っていた理由、漏洩水の分析結果が明らかにされた。
ポリエチレン管による管路は塩ビ管や鉄管よりも柔軟性があり、化学物質にも強く、かつ継手部分を熱線で融着するため漏洩リスクが低く信頼性が高いとされる。日本中多くの地域の市街地で水道管やガス管もポリエチレン管への付け替えが進められているほどだ。ポリエチレン管からの漏洩ということになると、継手の融着がまずかったのか、管路に限界以上の外力が働いたといった原因が考えられる。
塩ビシートで管路を覆っていたのは、万一漏洩が発生した際に、囲いの中に漏洩水を導くためだった。
塩化ビニール製シートについて説明している部分を抜き書きする。
※ 囲いの設置できない範囲については、塩化ビニール製シートを用いて、囲いの中に導いている。
※※ 4本中3本のシートにたまり水を確認
この表現からは、4本中3本で漏洩が発生したかのようにも読み取れた。
漏れ出た水については、数千万~数百万オーダーの極めて高濃度の汚染水だったことが明らかになった。
セシウム-134 セシウム-137 全ベータ (単位:Bq/L)
床面 2,500,000 11,000,000 32,000,000
配管A 4,000,000 18,000,000 55,000,000
配管B 2,200,000 9,500,000 51,000,000
配管C 3,200,000 14,000,000 40,000,000
11月10日に明らかになったこと
11月10日に発表された写真とリリースは、たいへんサイレントなものだった。発生から5日が経過しているのに、新たに伝えられたのは漏洩があったのは1本のみということくらいだ。しかも、塩ビシートに溜水があった3本は健全で、漏洩していたのはシートに水が溜まっていなかった1本だった。この配管は原子炉建屋の滞留水を移送するものだったという。数千万ベクレルという極めて高い放射能だったこともむべなるべし。いわば事故原発の闇の中心、地獄の底から流れてくる水だったのだから。
左上、漏洩箇所を示す図が小さすぎて文字が読めないので拡大してみた。
シート内に水がたまっていたのは、下側3本だったということらしい。しかし、ここでも「一番上の配管から漏洩した滞留水が下の配管の塩ビシート内に浸入した」といった断定はされていない。この段階でもまだ、調査の途中経過発表でしかないということらしい。
現段階で言えること
いまの段階で言えることが少なくとも2つある。ひとつは東電はしっかりやってくれているということだ。
信頼性の高いポリエチレン管を使用していても、万一の漏洩に備えて、塩ビシートで漏洩水を囲いに導く措置をとっていた。また漏洩検知器も設置していた(1台か複数かは不明だが)。
信頼性の高い材料を使った上で、それでも万一に備えていたわけだから、仮設の設備にもかかわらずフォールトトレラント(障害が発生してもシステム全体に大きな影響を与えない)な考えが反映されていると評価してもいいだろう。
もうひとつ指摘できることは、それでも障害が発生してしまうという事故原発の現場の厳しさだ。漏洩後の調査にこれだけの時間がかかってしまうのもその現れだろう。あるいは、冒頭の写真で管と壁の貫通部を埋めているパテ状のシーリング材の施工のひどさからも、この環境の苛酷さが分かろうというものだ。
「滞留水移送」は、融け落ちた核燃料を冷却するための冷却系であり、汚染水を処理するための移送系でもある。また、建屋地下の滞留水の水位管理は、汚染水を建屋の外の地下水に流出させないための生命線でもある。
「滞留水移送」は、事故原発の命運を握る循環系だといっていい。
そんな重要な系なのに、稼働後1カ月でトラブルが発生する。数日単位の時間を費やしても、発生原因すら特定できない。こんなことで大丈夫なのだろうか。いや大丈夫ではないから、こんなことになっていると言うべきか。原発というものがいかにトンデモナイ存在なのか、改めて思い知らされる。