先日、台風18号の大雨により、栃木と茨城の両県を中心に大きな被害が出ました。その様子を伝えるニュースを見ている際に水に浸かった乗用車が映し出されていました。災害時だけでなく誤って転落した場合など、水没した車から脱出せざるを得ない状況になる可能性は誰にでもあります。今日は自動車が水に浸かった際の対処方法を中心にご紹介します。
車が走行できる水深について
水没時の対処方法の前にまず最初に知っておきたいことがあります。それは、どの程度の深さまでならば車が走行できるかについてです。
走行可能な水深について、車種によって異なり一概には言えないものの、JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)のWEBサイトにある冠水走行の実験結果がひとつの目安になりそうです。
テストはアンダーパス(※立体交差地点のくぐり抜け道路等)を想定し、水深30cmと60cmにおいて、それぞれ時速10kmと30kmの進入速度で行われています。
実験に使用された車種はセダン(トヨタ・マークⅡ)とSUV(日産・エクストレイル)です。
テスト結果によると、深さ30cmの場合はいずれの速さ、車種においても走行可能となっていますが、60cmになるとSUVが時速10kmで走った時のみ可能です。低速の方が走行できる理由はスピードをあげると水を巻き上げ、それが吸気口からエンジンに入り故障するためです。
軽自動車やセダンタイプの車の多くは、ドア開口部の地上高が概ね30~40cmとなっています。車種によって異なる上に冠水した道路では水の深さがわからないケースも多いので、極力走らないようにすべきですが、市販されている車が走行できる水深は、水しぶきをあげない程度にゆっくりと走った場合、概ねドアの下端まで、車内のフロアが浸らない程度と言われています(※ただし、ドア開口部よりも深い場所を走っても、すぐに水が入ってくるわけではないので注意が必要です)。
水没した車からの脱出方法について
万が一、車が水に浸かって動けなくなってしまった場合には、まず最初にシートベルトを外します。そして、状況を見て車外に脱出しますが、水深などによってはドアが開かないこともあります。
水の深さとドアの開閉可否について、昨年、JAFがアンダーパスでの水没を想定して実験を行っていますのでご紹介します。テストは水深などの条件を変えて、セダンの「通常のドア」とミニバンの後部座席によくある「スライドドア」から、女性スタントマンが1分以内に脱出できるか否かを調べています。
実験によると、いずれのドアにおいても水深120cmまで開けることができています(※ただし、「アンダーパス」ではなく「転落による水没」を想定した別の実験では、水深90cmでもドアの開閉は不可となっています)。
要注意なのが、後輪が浮いているようなケースです。このような状態になると深さ60cm程度でもドアは開けられない結果となっています(※ちなみにセダンタイプのドアノブの位置はだいたい80cm程度です)。
乗用車の多くは重量のあるエンジンを前に積んでいるために前部が沈み後部が浮いた状態になる可能性が高いと言われています。そのような時は後部ドアからの脱出を試みます。
また、実験結果はスライドドアが通常のドアに比べて開けにくくなっていることを示しています。スライドドアの開閉が困難な場合は、前席の通常タイプのドアからの避難を試みるとうまくいく可能性もあります。
ドアを開けるタイミングについてですが、JAFが公開している実験時の映像を見る限り、車内に水が入って外との水位差が少なくなったときに開いています。そのためドアが開かないからといってあせらずに、極力気持ちを落ち着かせて(※車は水に浸かってもすぐには沈まないことが多いと言われています)、脱出のタイミングを見計らうことも重要です。
ドアが開かない場合は窓から脱出します。もし窓も開かない場合は自動車用の緊急脱出ハンマーなどを使用して窓ガラスを割ります。この時、ウインドウガラスの隅を叩いて壊します。中央を力いっぱい叩くと勢い余ってガラスに手を突っ込み、怪我をする恐れもあります。また、フロントガラスには「合わせガラス」と呼ばれる特殊なものが使われているためにヒビは入っても人力で割るのはほぼ不可能です。
窓が水に浸かっている状態で割ると勢いよく水が流れ込み、ガラス破片で怪我をする恐れがあるそうです。もし前部が沈み、後部座席が浮いているような場合には後ろの窓ガラスを割るようにします。また、JAFが公開している実験時の動画を見る限りでは、車内外の水位が同程度の状態で割ると流れ混む勢いが比較的弱いように見えます。
ちなみに最近の乗用車の多くはパワーウインドウとなっているために水に濡れると動かなくなる恐れがあります。作動する水深の目安は、徐々に水位が上がってくるケースでだいたい90cmくらいまでという実験結果があります。
窓を割った後は、車の天井に這い上がるように出ます。
もし脱出用のハンマーがなかったり、窓ガラスを割ることができない場合は、車内の水位が胸から首のあたりになるまで待ってから、足でドアを蹴って開けるのを試みます。
自動車用緊急脱出ハンマーについて
ガラスを割る際、JAFが行った実験では車のキーやヘッドレスト、小銭などで窓ガラスを割ろうとしても不可能でした(※女性によるテストだったため、力がある男性がヘッドレストなどを使用すれば割れる可能性もあるかもしれません)。そのため、自動車用の緊急脱出ハンマーを使用します。
緊急脱出ハンマーの多くは振りかぶって壊すタイプですが、なかには「ポンチタイプ」と呼ばれるガラスに押し当てて使用するものもあります。女性やお年寄りなどはポンチタイプの方が使いやすいかもしれません。
市販されている自動車用の緊急脱出ハンマーですが、なかには「3回以内に叩き割ることができない」、「製品によって先端部分の金属の硬さのばらつきがある」、「長期間の保管により強度が劣化する」など、品質に問題があるものも存在しますので、選ぶ際には国民生活センターが実施したテスト結果を参考にするといいと思います。
運転をしたり同乗するなど、自動車に乗る機会は多くあると思います。万が一の水没や事故に備えて、運転席から手の届く範囲に緊急脱出ハンマーを備えておくことをおすすめします。
参考WEBサイト
紹介:sKenji