この教科書は戦前に実際に使われていた実物です。
歴史の教科書(國史の付図)の巻頭の折り込まれた年表を開くと、時代区分のはじまりは「神代」。そしてそれに続くのは、全時代の半分くらいを占める「大和時代」。いまでは南北朝時代と呼ばれる室町時代初期はズバリ「吉野時代」です。これは当時は北朝を正統とは認めていなかったから。
細部に至るまで突っ込みどころはありますが(文部省の教科書なのに藤原道長と藤原鎌足の位置が誤植されているなど)、何といってもその存在感に驚かされるのは、長~い長い大和時代。そもそも大和時代なんてあったっけ?
年表の大和時代の劈頭を見てみると「神武天皇御即位(紀元元年)」との重要事項。
つまり、神武天皇の即位から数えるかつての「皇紀」(たとえば零戦は昭和15年=皇紀2600年に採用されたから下のケタをとって零式艦上戦闘機などの使われ方が有名)を元に、この年表は描かれているということです。
皇紀元年は西暦紀元前660年に当たるため、現在の歴史区分でよく使われる弥生時代、古墳時代、飛鳥時代までがまとめて「大和時代」とされて、年表の上で大きなスペースを占めるに至ったというわけ。
年表をさらによく見てみると「大和時代」の文字の下には細い文字で「皇威振興時代」と書かれている。文字通り天皇が歴史の主人公として活躍した時代であり、大和朝廷が日本全土に支配を広げていった時代ということを示そうとしているのだろう。
おじいちゃんやおばあちゃんたちは、この教科書でどんなことを学んだのだろうか。まさか当時の少年少女は、天孫降臨や天の岩戸伝説を本当の事として心底から信じていたのだろうか。
古事記や日本書紀に描かれた「物語」が「歴史」として教えられていた時代。平和のための戦争展で出会った「尋常小学校國史付図 第五学年用」は、時代の生き証人だ。