一体どういうことなのか、4月に起きたのと同じことがまた起きてしまった。原子炉建屋付近の線量が高い場所に設置されている「K排水路」を流れる水は、かつては海へとそのまま流されていた。そのことが問題視されたため、海につながる排水口の近くに堰をつくってポンプを入れて汲み上げることにした。運転開始は4月17日だった。汲み上げた水は、「B・C付替排水路」という、原発の港の中に排水する水路に流し込まれることになった。
ところが、運転開始から数日しか経っていない4月21日、ポンプが全部停まって、K排水路の汚染された水が、堰を越えて太平洋へと溢れ出てしまった。
それからわずか3カ月足らずで起きた今回の事故。今回はポンプは動いていたけれど、その能力を上回る強い降雨があったために、やはりK排水路の汚染された水が太平洋へと溢れ出たのだと、まるで雨のせいにするかのような説明がなされている。
いちおう資料のリンクを置きますが、読むに値する箇所はほんの数カ所しかない。
(発表内容の引用は文末に付録として引用します)
デジャヴかと思うほどクリソツな発表資料
何が起きたのか――。資料を読むよりこの方がわかりやすいだろう。4月の事故の際の発表資料と今回のものを並べてみた。
2ページ目から4ページ目までは、順番が違うだけでほとんど同じ資料。とくに、7月分の4ページ目と4月の2ページ目は同じもの。おそらくコピペしたのだろう。
いったい、なんでこんな資料が発表されることになるのか。理由は簡単だ。4月とほとんど同じことを繰り返してしまったからだ。
今回の発表を読むよりも、前回発表についてのコラムを読んでもらった方がわかりやすいかもしれないので、リンクをご案内。
前回と今回の違いは2つしかない。ひとつは雨。前回は、近所のアメダスで1日の降雨量が5.5mmとか1.5mmしかないのに、堰を越えて海に溢れてしまった。
今回は1時間に21mmもの強い雨が記録されている。そして汲み上げポンプの能力の限界は、1時間に14mm相当なのだという。
「そうか、能力の1.5倍もの雨だったのだから、仕方がないな」なんて同情している場合ではない。そんなの免罪符などにはならない。なぜなら、1時間に14mmを超えるような雨がありうることを東京電力はしっかり把握していたからだ。当のこの資料の、しかも降雨量を示している同じページに明記しているのだ。
仮設ポンプ(8台で2,000t/h)の移送量は雨量換算で約14mm/h相当(雨の降り方にもよる)であり、至近3年間の降雨量実績では14mm/hを超える雨量は年間4~5日となる。
簡単に言い換えるとこういう意味になる。
1年に4~5回くらいは、汚染されたK排水路の水が海に流れちゃうかもしれないんだよね。
東京電力はいったい何を考えているのだろうか。
むしろ、たとえB・C排水路に合流させても港の中に排水するわけで、結局は海は港湾内ともつながってるから同じようなもの、と達観しているのか――、などと意地悪な推測までしたくなってしまう。
要するに、意味がないと分かっているが、世間から叱られないように管理しているふりをしてるだけ。港湾内に流してしまっている「汚染の可能性がある水」を浄化しようという姿勢すら見せていないのだから話にならない。
汚染度は前回の10倍!
前回4月の事故ともう一点異なるのは、海に流してしまったものの汚染の酷さだ。
前回のポンプ停止事故の際に東京電力が発表した測定結果は次の通り。
<K排水路>【4月21日 午前7時採取分】
・セシウム134:20Bq/L
・セシウム137:67Bq/L
・全ベータ:110Bq/L
ところが、今回はこうだ。
<K排水路>【7月16日採取】
・セシウム134:160Bq/L
・セシウム137:670Bq/L
・全ベータ:1,100Bq/L
前回のざっと10倍。しかしながら、注目したいのは、東京電力が昨年来73回も実施してきた地下水バイパスの海洋排水の際に基準としている数値だ。
1リットルあたり1ベクレルが運用目標なのだ。前回も今回もアウトではないか。さらに東京電力は今回の資料でこうもアナウンスしている。
なお、港湾口連続モニタの値については、有意な変動は確認されておりません。引き続き、監視を継続してまいります。
まったく、トンチンカンなことを言うんじゃない! だ。港湾口連続モニタってのは、原発の港を囲む防潮堤の開口部南側に設置されているセンサーで、港湾内の放射性物質が外洋に大量に流れ出していないかモニタリングするもの。ところが今回、K排水路の汚染水が堰を越えて海に流出した場所は、「地下水バイパス排水口」とまったく同じ場所。下の写真で地下水バイパス水が流れ込んでいるのがK排水路そのもので、地下水バイパスの管路のすぐ右側(上流側)に堰は設置されている。(この写真の時期には堰はまだ存在しない)
港湾口連続モニタがどうのなんて言ってる暇があったら、K排水路からの溢水による汚染水流出について、地下水バイパスの運用と同様の責任をもって説明ならびに対策を講じるのが道理というものだ。
同じ事故を繰り返し、しかもポンプのキャパシティは年に数回はある強い降雨にすら対応できない。きっと現場の人たちは、業務内容への不安や疑問を心に抱えたまま仕事をされているのだろう。大きな徒労感をも持っているかもしれない。
「言い訳のための仕事」ではない、「意味のある仕事」を行うという、専門家として当然の責務を果たしてもらいたい。
7月16日の発表内容(写し)
K排水路の水については、同排水路内に堰を設けて、移送ポンプを設置し、港湾内に繋がるC排水路へ移送しております。
本日(7月16日)午前8時24分頃、移送ポンプは全台正常に稼働しているものの、移送ポンプの移送量を超える強い降雨の影響により、K排水路に設置した堰から外洋側にも一部排水されていることを確認いたしました。
また、本日採取したK排水路排水口の放射能水の分析結果(Cs-134、Cs-137、全β値)が前日の分析結果よりも上昇しておりますが、強い降雨の影響により一時的に上昇したものであると判断しております。
7月16日採取:Cs-134 160Bq/L、Cs-137 670Bq/L、全β1,100Bq/L
7月15日採取:Cs-134 2.4Bq/L、Cs-137 20Bq/L、全β39Bq/L
なお、港湾口連続モニタの値については、有意な変動は確認されておりません。引き続き、監視を継続してまいります。