日本全国に数多く存在する耐震性が懸念されるダムについて

日本にあるフィル形式のダムで最も堤体積がある徳山ダム

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先日、湖でも津波が発生する可能性についてご紹介しましたが、巨大地震発生時の危険性は国内に数多くあるダム湖の下流域にもあります。下記の記事は東日本大震災の際、福島県にあるダムが決壊したことを報じているものです。

福島県須賀川市にある灌漑(かんがい)用ダム湖「藤沼湖」の堤防が東日本大震災で決壊。貯水すべてが流出し、下流の集落を押し流し7人が死亡、1人が行方不明になっている。

引用元:もうひとつの「津波」現場 福島・藤沼湖  :日本経済新聞

藤沼湖の堤防(※以降、「藤沼ダム」と記載)は、1937年4月に造り始められました。工事は第二次世界大戦中に一時中断されたものの、戦後の1949年10月に完成しています。

堤高18.5m、堤頂長133.2mのアースフィルダムで、本堤のほかに堤高10.5m、堤頂長72.5mの副堤があります。昭和52~54年と昭和59~平成4年には、一部改修工事が行われています。

ちなみにアースフィルダムとは、土を台形状に盛った一番古くからあるダムの形式で、主に灌漑用のため池などで作られています。

特別な対策を講じる必要がなかったという藤沼ダム

東日本大震災の際に藤沼ダムの決壊及び、その他の農業用ダムにおいても数多く被災したことから、福島県は2011年、耐震性の検証をするための「福島県農業用ダム・ため池耐震性検証委員会」を設置しています。同委員会は「藤沼湖の決壊原因調査」の結果報告書も作成し、2012年1月に公表しています。

報告書では、藤沼ダムが決壊した原因について次のように報告しています。

藤沼ダム決壊の素因は上部盛土と中部盛土の状態にあり、その誘因は強い地震動とこの強い地震動が長時間継続したことであると判断する。

引用元:藤沼湖の決壊原因調査 報告書(要旨)

盛土について、上部のものは工事中断後、戦争直後の施工条件が悪い時期に施工されたものと考えられているそうです。

決壊の原因はダムの材料である土の状態にあったとしていますが、それと同時に藤沼ダムの築造時の状況、及び改修に関する評価については、次のようにも述べています。

同ダムは当時の一般的な施工方法・技術レベルで施工されたものであり、当時の技術水準に即して築造されたものであると考えられる。

引用元:藤沼湖の決壊原因調査 報告書(要旨)

藤沼ダムの改修では、当時の一般的な工法から選定した漏水対策が施工され、その効果は施工中~施工後の漏水量観測及び浸潤線観測により検証されており、止水効果が発揮されていたものと判断する。

引用元:藤沼湖の決壊原因調査 報告書(要旨)

さらに、被災前に行われていた日常及び定期点検においても異常はなく、ダム本体の安定性についても、現行の基準(※報告書作成時)に基づいて調査しても特別な対策を講じなければならない状態ではなかったとしています。

つまり、報告書を見る限りでは当時の建築基準と照らし合わせて特別大きな欠陥があったダムではなかったということになります(※実際には決壊しており、問題がなかったという訳ではありません)。

フィルダムの耐震性について

報告書を読んでいると、気になる次のような記述がありました。

施工年次の古いフィル型式のダム・ため池の中には、その当時の一般的な方法・技術水準で施工され、点検で異常が見られない場合であっても、築堤材料や締固め度によっては、今回のような強い地震動で崩壊する可能性が内在していることが判明した。

引用元:藤沼湖の決壊原因調査

フィルダムとは土や岩石などを台形状に盛ったダムのことで、土で作られる「アースフィルダム」や岩石を材料とした「ロックフィルダム」などがあります(※分類方法については、水を透さない層、遮水層の配置の仕方によるものもあります)。

ちなみにダムの形式を大きく分類すると2つあり、フィルダムのほかにコンクリートを材料としたコンクリートダムがあります。

少なくとも全国に510カ所はある耐震不足の堤体

藤沼ダムが決壊したことから、全国のダムやため池で一斉点検が行われているようです。少々長い引用になってしまいますが、次の記事は2014年8月29日付、朝日新聞のものです。

東日本大震災で農業用ダムが決壊して死者が出たことから、全国の自治体がダムやため池の一斉点検を進めている。これまでの調査で少なくとも約510カ所で、水をせき止める堤体が耐震不足であることがわかった。このほかの数千カ所でも耐震調査を進めており、耐震不足は増えそうだ。農林水産省はため池の改修やハザードマップの整備を各自治体に求めている。

 農水省は2013年度から、規模が大きく、周囲の人家に被害が出る可能性があるため池について、目視による一斉点検を各自治体に求めている。対象は全国で約11万カ所あり、2年間かけて点検し、問題があるものを絞り込む。

 朝日新聞が今月、一斉点検の状況を各都道府県に聞いたところ、少なくとも計7万カ所の検査が終わっていた。いまの国の基準では、それぞれの土地で100年に1回程度起こる中規模な地震に耐える必要があるが、42道府県の6千カ所ではそれを満たしていない可能性もあり、耐震調査の対象になった。今月までにその調査を終えた13道府県の計1400カ所のうち、約510カ所が耐震不足だった。多くの自治体は調査が終わるまで場所は明らかにできないという。

引用元:農業用ダム・ため池、510カ所で耐震不足:朝日新聞デジタル

藤沼ダム決壊に関する報告書及び朝日新聞の記事を読むかぎり、灌漑用のダムやため池の中には、大きな地震が発生した際に被害をもたらす可能性があるものも存在するようです。

注意が必要なダムについて

残念ながら、耐震性が懸念される具体的なダムについてはわかりません。

しかし、フィル形式のダム、なかでも着工年や竣工年が古いものについては注意するにこしたことはないかと思います。

一部のダムの位置や形式、着工年などについては、下記のWEBサイトで確認することができます。

地図中のダムを示すマークに記載されているアルファベットはダムの形式です。アースフィルダムは「E」、ロックフィルダムは「R」で表されています。着工年などの詳細情報はダムを示すマークをクリックすると見ることができます。

フィル形式のダムだからといって必ずしも耐震性が劣っているとは限りませんが、特に古いアースフィルダムやロックフィルダムについては念の為、大きな地震が発生した際には注意した方がいいと思います。

一度、ご自宅の近くにダムがあるかどうか。あるならばどのような形式でいつごろ造られたのかを調べてみてはいかがでしょうか。

近くにダムがない方でも、放流した水の下流域に住んでいる場合は注意が必要です。

藤沼ダム

参考WEBサイト

Text:sKenji