陸前高田市の高台から、海と森を見おろす素敵な宿泊・滞在施設「箱根山テラス」に行ってきました。昨年のオープン直後から、そのモダンでおしゃれな佇まいをメディアで目にする機会が多かったから、近いうちに必ずと、心に期していた場所です。
建物の面積に匹敵するほどの広々としたウッドテラスからの景色はぜいたくそのもの。テラスにはところどころ電源コンセントも設置されているので、陸前高田の海と山を眺めながらノートパソコンを叩いたり、なんてこともできます。というか、そんなお客さんもいました。もちろん私もそうしちゃいましたけど。
箱根山テラスには3つ以上の多彩な表情があります。ひとつは宿泊施設としての箱根山テラス。ツインルーム、ロフト付きツインルーム、和室の3タイプ14室の客室は、全室ウッドテラスと同様南向き。スタッフの方が宿泊予約のお客さんに強調していたのは、
「部屋にはテレビも目覚まし時計もゴミ箱もありません。この地域の木をふんだんに使った建物と、窓の外に広がる自然、たとえば鳥のさえずりで目覚める朝、といった経験を大切にしたいと考えております」
といったお話。なるほど、と頷いてしまいました。
もうひとつの表情は、とてもおしゃれなカフェであり、夜はバーであるということ。エントランスからセンター棟の1階に入ると、木質ペレットを燃料にする薪ストーブや、巨大な1枚板のテーブルが印象的。サイドボードに置かれた雑誌までもがおしゃれな感じに見えてきます。
カフェでのお茶やお食事はお好きな席でどうぞ。お天気の日にはもちろん、広いテラスも自由に利用できますよ。
さらにもうひとつの表情は、センター棟の2階がワークショップルームになっていることです。セミナーやミーティング、アーティストの滞在制作にも利用できる多目的スペースです。復活への動きが進められる陸前高田では、内外のさまざまな人々の交流の中から新しい何かが生まれ出すシーンがたくさん見られます。そんな未来に向けての出来事が起きる場所という意義が、ワークショップルームにはあるのだと思いました。
デザインも調度もサービスも、細かいところまでおしゃれなのが箱根山テラス。でも、正直に思ったのはこんなこと。同じようなコンセプトの施設であれば、日本中の他の場所にでもつくることは出来るのではないか。そんなふうにも思いました。しかし、箱根山テラスには箱根山テラスにしかないものがあるのです。
それはこの場所。陸前高田という場所にあるということです。
一番最初に載せた写真の景色を目にした時、景色にぴったりの詩を思い出しました。
そこにひとつの席が
そこにひとつの席がある
僕の左側に
「お座り」
いつでもそう言えるように
僕の左側に
いつも空いたままで
ひとつの席がある
引用元:黒田三郎 詩集<ひとりの女に>1954年
もっと続きはあるのですが、詩人がこの詩を書いたのは戦争が終わって10年も経っていない頃のことでした。戦争を体験し、多くのものを失い、帰国して、復活への模索を続ける人たちの中で、そのうちのひとりとして、恋をして、人生を考えていた頃に、詩人の目がとらえていたふたつの席。
戦後というとモノクロ写真の暗い印象が強いですが、実際には今日の箱根山テラスのように素晴らしいお天気の日もあったはず。明るい日、雨の日、風が冷たい日、いろいろな日々の中で、私たちの先輩は未来に向かって生きていたんだろうと思うのです。
陸前高田の明るいウッドテラスに置かれた2つの椅子は、70年前と同じように、たくさんの、さまざまな日々を過ごしていく人々を迎えてくれる椅子だと思うのです。
上っつらな希望ではなく、深刻ぶった渋面でもなく、目の前に広がる風景と向かい合う場所。そこで起きたこと、これから起こることを自然に受け止めていこうと思うことが出来る場所。
箱根山テラスがおしゃれなのは、徹底的におしゃれを貫いているのには、もしかしたらそんな(覚悟)のようなものがあるのかもしれないと感じるのです。
箱根山テラスはおしゃれな場所です。そしてここにだけある特別な場所なのです。
箱根山テラス
電車・飛行機とレンタカーの利用が便利です。BRTの駅から自然の中を歩いて行くのもおしゃれかも(急な坂道を徒歩約30分)
〒029-2207 岩手県 陸前高田市小友町 字茗荷 1-232