[空気の研究]長嶋一茂氏・松本人志氏、かく語りき

武田鉄矢氏の裁判官愚弄ともとれる発言の後、話は別のコメンテーターに引き取られ、やがて発電量全体に占める原発の割合についての話題となった。そこでコメンテーター席の長嶋一茂氏が口を開く。

長島一茂氏
20%ってことはいま1%ですから20倍に伸ばすってことですよね。そもそも論言って大変申し訳ないんですねどね、こうやってものすごく照明が当たってるところで、機械もたくさんあってるところで言う人間がいうことじゃないかもしれないんだけども(スーっと息の音)

その原発が全部なくなったところで電力供給ってところがどんだけ大変なのかって、たぶん僕ら、味わってないじゃないですか。

(松本氏の顔アップ)

引用元:『ワイドナショー』(フジテレビ系)2015年4月19日

原発は動いてないからゼロ%なのだが、一茂氏は1%という。現在1%の発電量を近い将来20%にするのなら、20倍だ。テレビ局のスタジオで、ものすごい電気を使っている場所にいる人間がいうことじゃないかもしれないけれど、と一茂氏が持ちだした「そもそも論」は破壊力抜群だった。

その原発が全部なくなったところで電力供給ってところがどんだけ大変なのかって、たぶん僕ら、味わってないじゃないですか。

松本人志氏が言葉を継げないでいる。ほかの出演者はどう対応していいのか分からない。スタジオの雰囲気が一気に変わった。一茂氏が何を言わんとしているのか。話はどこへ向かうのか――。

長嶋氏
例えばクーラーとかでね、夏の電力がすごく消費する時に、供給が過多になり過ぎてパンクしちゃうとかってことも言われてたんだけども、たぶん、したことはないですよね。

(松本氏、クビひねる。武田氏ら他の出演者、うんうん頷く)

長嶋氏
だから、そこらへんのところが何か、

(松本氏、天を仰いでいる)

何かこう、実感としてないので、何が言いたいかというと、必要か必要じゃないかっていうと、必要ないんじゃないかって言うような、実感として今持っているので。

(東野氏、えー、あーと言葉を挟もうとする。松本氏、頭をかいて難しい顔)

東野氏
そこんところを、とっつめたところで我々が知らないので。

長嶋氏
そうなの。そこを教えてほしいと。身を以て。

引用元:『ワイドナショー』(フジテレビ系)2015年4月19日

武田氏の発言から、いやその前の犬塚弁護士の前振りからずっとスタジオ内に流れていたものが、ピタッと止まった。松本氏は天を仰ぐ。一茂氏は「必要か必要じゃないかっていうと、必要ないんじゃないか」とまで言ってしまった。

なにか言葉を挟まなければと焦っていた東野氏の頭の中は、どんな状況だっただろう。一茂氏の発言をまったく切ってしまうわけにも行かず、苦し紛れに言ったのが、

とっつめたところで我々が知らないので。

引用元:『ワイドナショー』(フジテレビ系)2015年4月19日 | 東野幸治氏の発言

前段の武田氏による、まるで事前作文&出来レースのようなやりとりよりも、この一茂氏をめぐる応酬の方がはるかに緊迫感ある。緊迫感ばかりではない、深い意味がある。本当のことが電波にのってあふれだす。

武田氏や同じような意見のコメンテーターが延々としゃべり続けると、さすがに偏ったイメージの番組になってしまう。一茂氏はそのバランスを期待して起用されたのだろう。一茂氏をめぐっては、大学入試に当たって自分の名前の漢字を間違えたなど、都市伝説といえるレベルの話が数多く伝えられてきた。携帯もネットもなかった時代から、その手の話は口コミだけで日本中に広まっていた。そんなキャラクターだからと期待されて起用されたところもあったかもしれない。

ところが、一茂氏は本質を突いた。

(電力の危機を)たぶん僕ら、味わってないじゃない。

(原発は)必要ないんじゃないか。

そうなの。そこを教えてほしいと。身を以て。

圧巻だった。変に場を読もうとしない一茂氏だからこそ切り込めたのかもしれない。場や流れを読んでしまう東野氏は思わずつられて「とっつめたところはみんな知らない」と話を引き取らざるをえなかった。

松本人志氏はなぜ横に逃げるしかなかったのか

東野氏を突破された以上、松本氏が引き受けるよりほかない。

松本氏
そうなんですよね、だから。あぁ、反対!ってのはすごく簡単なんですけど、じゃあ反対って言う以上は、何かお前案出せよっていう(ススーと短く息を吸って)、案もないのに良くないってって言うのが一番良くなくて。

で、その電力のことについていうと、もう知識がないのであれなんですけど、(一瞬下を見る。テーブルに資料でもあるのだろうか)ダムの貯水率とちょっと似ててね。(後略)

引用元:『ワイドナショー』(フジテレビ系)2015年4月19日

東野氏の言葉は「国民は本当のことを知らされていない」という、結果的に一茂氏の発言を補強するようなものだった。いわばオウンゴールだ。そんなピンチで、番組の御意見番的な立場の松本氏は「代案なき反対は無責任」という政治家がしゃべるような言葉しか語れない。

これ、松本人志というタレントにとって、これ以上屈辱的なことは生涯でもそうそうなかったのではないか。

すごく気の利いたことが言える松本氏は、なんのために「代案なき反対は無責任」などというつまらないことを言ったのか。どうしてそこまで追い詰められたのか。

一茂氏の発言は、東野氏と松本氏という頭がキレる人々が番組を通して組み上げて、電波に乗せて送出しようとしていた目論見を破壊してしまった。そして番組制作サイドにある意図が働いていることもあぶり出してしまった。

知らない間に変わっていく空気の変化を止めるものとして、一茂氏的な人物の力を思い知らされた。これは非常に重要なだと思う。(と同時に思うのは、国会の重要審議で誰にどんな質問をされても、自分の考えしか述べない人の能力にも、一茂氏的力に通じるものを感じてしまう。この件はさらに研究が必要かもしれない)