東京電力の報道配布資料では、こんなことまで起きていたのかと仰天させられる出来事が「続報」として伝えられることがある。これもその1つだ。原発事故から1年が経過した2012年4月に発見されていた驚きの事実がよみがえる。まるでタイムマシンだ。
格納容器に出入りできるハッチの近くで吹っ飛んでいたものとは
発表された資料はこんな書き出しで始まる。
3号機原子炉建屋1階の原子炉格納容器機器ハッチ部のシールドプラグが本来の位置から移動していることを確認している。
引用元:福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋1階シールドプラグが移動している要因の推定について(調査結果)|東京電力 平成27年3月30日
機器ハッチというくらいだから、格納容器の中に機器を出し入れするハッチなのだとわかる。つまり、原発で放射能の漏洩を防ぐための「五重の壁」のひとつに開けられた穴だ。そしてシールドされたプラグという言葉から思い浮かべるのは、その穴を密閉するためのシールされた栓だ。その想像は当たってもいるし外れてもいた。
格納容器の内側(ドライウェル)と外側(建屋)をつなぐ穴のハッチの外側にフタをする栓、というのはイメージ通りだった。ところが東京電力の説明は「シールドプラグは完全には密閉されていない」「1cm程の隙間あり」とする。
たしかにピッタリ密着していたら、熱膨張で開かなくなってしまうこともあるかもしれないと少し納得する反面、だったらなんのためのシールドプラグなのだろうと思い直してみたりもする。銀行の地下金庫みたいに空気すら入らないくらいに密着するプラグでなければ、五重の壁の用をなさないのではないか。
そんなシールドプラグの確認は命がけ
ことの発端は、原子炉に注入している冷却水が建屋まで漏洩している原因を探るための調査だった。2012年に行われたこの調査で、五重の壁の四番目、格納容器を蓋するはずのシールドプラグに隙間が開いていたのが発見された。
3号機のこのあたりは空間線量が極めて高い。調査は東京電力の社員2名が当たり、「原子炉建屋に入域時間は約4分」という短時間で確認作業を行い、その短時間の間でさえ被ばく量最大:8.01ミリシーベルトを記録した。この場所で1日作業を行ったら、被曝による確定的影響が生じるレベルの高い線量だった。
この結果が意味するのは、五重の壁が破れていることがはっきりと分かったということだ。炉心に冷却水を注入する。圧力容器の底には穴が開いているから格納容器の中へ流れる。格納容器のハッチからか、炉心とタービン建屋をつなぐ配管の途中にある主蒸気隔離弁室からなのか、いずれにしろ格納容器内の汚染された水が建屋内に漏れ出ている。そして原子炉建屋は爆発で壊れている。だから、極端な言い方をすれば、メルトダウンした燃料があった炉心と外の環境はつながった形になっているということだ。
もちろん、他の号機でも格納容器が破損している「らしい」し、そのせいで「水棺」戦略がとれないということも言われている。このタイムマシン的な記事は事故原発がいまも極めて厳しい状況にあることを改めて教えてくれる。
ちなみに事故から5年目に入った今回発表されたリリースでは、シールドプラグが吹っ飛んだ理由が何なのか、ほぼ同型の5号機での検証などを紹介しつつ、格納容器内で水素爆発が起こったわけではないと否定するのに終始しているのだった。