プロでも間違うプレイがある。情けないけど。
下の動画をご覧ください。ランナーのリスクマネジメントをご紹介する丁度良い場面の動画です。
2010年4月30日の巨人VS阪神戦でのシーンです。今回の参考とするのはプロ野球からです。プレイはお粗末ですが、随所にいろいろなポイントが満載の貴重な映像です。
10/04/30巨人、坂本の走塁ミス
3回表巨人の攻撃、1死2・3塁。3塁走者坂本、2塁走者脇谷、打者小笠原です。
小笠原の打球は、セカンドゴロ。
3塁ランナーの坂本がホームへ突っ込みますが、セカンド平野からのホーム返球で、坂本は元いた3塁へ戻ろうとします。ところが、3塁ベースには2塁から脇谷がきています。
阪神キャッチャーの城島は、3塁には投げずに、走って坂本を追いかけます。
坂本は、3塁に戻ります。この瞬間、3塁ベース上には、坂本と脇谷の二人が、同時にベースを踏んでだままです。
追いかけてきた城島は、まずベースを踏んでいる状態の坂本にタッチをします。
続いて、同じくベースを踏んでいる状態の脇谷にタッチをします。この時二人のランナーは、ベースを同時に踏んだままです。
結果は、ダブルプレイ成立で、ランナーはふたりともアウトです。
このプレイを日曜朝のTBSサンデーモーニング風に評価すると、
3つの喝は、巨人の坂本に1個、脇谷に1個、阪神の城島に1個です。
そして、小さい「あっぱれ」を小笠原に1個ですね。プロとしては当たり前のプレイですが、他の3人との比較であえて与えます。
まず、なぜダブルプレイかというと、野球のルールで決まっています。
同じ塁上に、同時に二人の走者がいる場合、その塁の権利は、前の走者のもおとなっています。
坂本が3塁に戻ってきたとき、先に脇谷が3塁に到着していたとしても、その塁の権利は坂本にあります。
城島は一緒にベースを踏んでいる二人にタッチをします。坂本、脇谷の順です。
この時点で、坂本はセーフ、脇谷が最初のアウトです。何を思ったか坂本は、自分がアウトだと思い、ベースを離れてしまいます。そこでベースを離れた坂本に、もう一度城島がタッチをして、坂本が本当にアウトになります。坂本は2番目のアウトで、ダブルプレイになるのです。
悪いのは誰だと思いますか?
坂本は絶対ダメです。ルールがわかっていないから、自分がアウトだと勘違いするのです。そして脇谷もダメです。坂本が無事に戻ってきた時点で、脇谷も元いた塁の2塁へ戻ろうとしなければなりません。城島は、ベースに戻った坂本にまずタッチををしました。ところが、本来ルールでは坂本はセーフなのです。同時にベースを踏んでいる脇谷は、脇谷自身がタッチをされない限り、いくら同時にベースを踏んでいてもアウトではないのです。ですから「喝!」
坂本にいくらタッチをしてもセーフなのに、城島が坂本にタッチをしている一瞬の隙に、脇谷は2塁へ戻る走塁をしなければなりません。なぜなら、今度は脇谷を挟んでアウトにしなければならなくなるからです。脇谷をアウトにするにはタッチプレイが必要です。
3塁走者がいるのに、2塁へ戻る脇谷をタッチプレイでアウトにする時の守備側は、結構プレイに気を使います。脇谷をアウトにしている間に、坂本がホームを狙う可能性があるからです。ホームからは2塁が一番距離が遠いベースです。返球に時間が係ます。そのため3塁ランナーがホームを狙うチャンスが出来ます。しかも、返球の際にエラーがでることもあります。脇谷はどうせアウトになるなら、相手のミスを少しでも誘うアウトにならなければなりません。ですから「喝!」
城島はなぜかというと、タッチの順番が逆だからです。坂本→脇谷の順ではなく、脇谷→坂本の順です。塁の権利を持たない脇谷を確実にアウトにします。今回たまたま脇谷がおとなしく塁にとどまっていましたが、本当なら脇谷が2塁へ戻りますので、タッチの順番を間違えると、誰もアウトにできないことになります。それで、城島も「喝!」なのです。
ただ、城島だけは、わざと順番を変えてタッチして、坂本の勘違いを誘ったのではという意見もあるようですが、動画を見る限りどうもそのようには見受けられないというのが、私の見解です。
この10秒間に学びがいっぱい
動画のタイムラインですと、
【0:07】小笠原がセカンドゴロを打つ
【0:11】城島は、坂本を追いかけながら、右手にボールを持ち変える
【0:13】追いかけながらも小笠原の動きを確認
【0:14】城島がマスクを外す
【0:14】もう一度小笠原を確認
【0:15】3塁ベース上に坂本と脇谷が同時にベースを踏んでいる瞬間
【0:15】城島が坂本にタッチ(ルール上、坂本はセーフ)
【0:16】城島が脇谷にタッチ(ルール上、脇谷はアウト)
【0:17】坂本が塁を離れ、城島が坂本にタッチ(坂本はここで初めてアウト)
【0:17】2塁には打者小笠原が到達済み
1死、2・3塁だったので、脇谷、坂本の順でアウトとなり、スリーアウト。
小笠原のヒッティングから、わずか10秒間の出来事です。
ついでですが、
【0:18】2塁ベース上で、アホな後輩二人に呆れる小笠原(右手がピクッ)
【0:22】たぶん、まだ良く理解できていない坂本
【0:23】大喜びの阪神真弓監督(はしゃぎすぎです)
【0:25】呆れて物が言えない巨人原監督
【0:27】自分も悪いのか不安になってきた脇谷
その横に多分まだ理解できていない坂本
【0:32】坂本を慰める緒方3塁ランナーコーチ
(アホな選手のために、自分まで責任とらされそうだと思っているかも)
坂本を追いかける城島をよく見てください。
逃げる坂本と同じくらい早く走ってます。タッチをする時を見てください。右手でタッチをします。右手にボールを握って、右手でタッチをしています。平野の返球をミットで受けてますが、いつの間にボールを右手で持ったと思いますか。
坂本を追いかける1、2歩の瞬間です。投げる必要が生じてから持ち変えると遅くなります。ランナーを挟んだ野手は、利き手でボールを持ち、かつ、すぐにスナップスローができる位置にボールを持ったまま、挟むことが『鉄則』です。
城島が坂本を全速で追いかけるのも意味があります。プレイに隙を与えず、脇谷の判断を鈍らせること、打った小笠原は一塁を回って2塁まで狙ってくるので、早く挟殺プレイを終わらせて、小笠原の動きを1塁に封じこめることです。
ここでは、脇谷が3塁にいたままなので城島は、坂本を追いかけながら、2回小笠原の動きを確認しています。そして、3塁ベース上に坂本、脇谷の二人が同時にいることを前提に自らタッチをするプレイを選択しています。小笠原の2塁進塁はあきらめ、3塁上の脇谷のアウトを取ります(と言いたいのに、実際は坂本に先にタッチ)。
もし、早めに脇谷が2塁へ戻ろうとしたら、サードへ送球し、坂本をアウトにします。これは、守備側の『鉄則』です。
ここからが本題、ランナーのリスクマネジメントの部分です。
1死2・3塁で坂本が本塁突入をあきらめた時、「脇谷はなぜ3塁上にいたまま」だったのかが、ここでのポイントです。
小笠原が打った瞬間、3塁ランナーの坂本には2つの選択肢があります。
本塁に突っ込むか、3塁に戻るかです。
坂本は本塁突入を選択しました。この坂本の動きで、脇谷は3塁へ向かうことになります。坂本が戻れば、脇谷も戻ります。坂本が戻ろうとするのに、脇谷が進めば、
フン詰まりになりますから。脇谷は、坂本次第で動きを変えることになります。
セカンド平野からの返球が素早く、坂本は本塁突入をストップし、反転します。
ここが坂本が行ったリスクマネジメントです。そのまま本塁へ突入すると、どう見てもタッチアウトです。戻る理由は、自分がアウトにならないためではありません。挟まれることで、打者が小笠原が1塁を回り、2塁へ進塁する時間を稼ぐためです。坂本が反転した瞬間、「暗黙の了解」で、脇谷は坂本を見捨て、小笠原は自分が2塁へ早く行くことを目指します。
結果、坂本がアウトになっても、2死2・3塁です。セカンドゴロで、普通に小笠原が1塁でアウトになったのと同じ状態が保てます。ランナーの入れ替わりだけです。坂本が本塁突入でタッチアウトになると、小笠原は2塁まで行く時間がありませんから、2死1・3塁になってしまい、チームのチャンスは後退することになってしまいますので、坂本の反転は正解です(本塁突入そのものが?ですけど)。
脇谷は、坂本を見捨てています。自分が新たな3塁ランナーになり、小笠原が2塁ランナーになるので、坂本は時間さえ稼げばいいと思っています。ですから3塁を離れなせんでした。ここまではチームのリスクマネジメントが利いています。
坂本が本塁に間に合わないと判断した瞬間に、最悪の2死1・3塁を避け、2死2・3塁になるように全員が統一した意思で動いていました。
ところが歯車が狂います。坂本が3塁に間に合って戻れました。というのも、小笠原の2塁進塁を阻止できないとわかった城島は坂本でも脇谷でもどちらか一人をアウトにすれば良しとしたからです。だから3塁まで城島自身が走ってタッチに行きます。送球にはリスクが伴うからです。
歯車が狂った瞬間は城島が坂本に最初のタッチをした瞬間です。脇谷は、坂本が戻って3塁ベース上が自分と坂本の二人になった時に、瞬間的に自分が先にタッチされるものだと信じているからです。ルールからで言えば、城島が先に坂本にタッチしても、坂本はセーフだから、アウトになる自分に先にタッチするだろうと予測しているからです。ところが予測に反して城島が坂本にタッチをした。メージャー帰りの城島捕手とあろう選手が。
【0:14】の城島がマスクを外し、小笠原を見た瞬間、脇谷が一瞬2塁へ戻ろとする動きをしますが、ベースに留まります。坂本が確実に3塁に戻れるかどうかがわからないため、自分のアウトを覚悟してベースに留まります。リスクヘッジしているのです。ここで考えられる最悪の事態は、坂本が戻れると思って早く2塁へ戻ろうとしたが、坂本が3塁に戻る、前にタッチされ、次に脇谷自身が挟まれるというケースです。事態がさらに悪くならないように、坂本もしくは脇谷自身のどちらかがアウトを選択したのです。
捕手城島の選択とランナー脇谷の選択は敵と味方なれど一緒です。それは『セオリー』だからです。ところがこの『セオリー』を城島が破っちゃったものだから、脇谷が混乱します。【0:15】の城島が坂本に最初のタッチをする瞬間です。よく見てください。脇谷は城島が坂本にタッチする瞬間を凝視しています。「えっ?!」
この瞬間に脇谷は2塁へ戻らなければならないのです。坂本はセーフで無事に3塁に戻れ、自分はまだアウトになっていません。でもその行動に移れませんでした。「えっ?!」の状態から頭が解けていないのです。プロ野球という頂点の舞台で、少年野球以下のプレイを城島がやったからです。
脇谷にも「喝!」をつけましたが、ある意味城島の被害者です。
そして【0:17】では、小笠原が2塁にきています。小笠原のヒッティングは【0:07】のシーンですが、10秒後には2塁にいます。野球の塁間の距離は、27.431mです(アメリカ発祥なので、日本の寸法単位になおすとハンパなんです)。小笠原が左打者だから1塁に近いとはいえ、アウトコースを無理に引っ張りセカンドゴロを打ちましたから体制が崩れてからスタート(【0:08】)です。
直角に曲がっても2塁まで約55mですが直角に曲がって走るとスピードが遅くなります。2塁を目指すときには1塁手前から膨らんで2塁まで弧を描くように効率的に走るのが基本です。二塁打ならそう走ります。
セカンド平野が本塁へ返球するのは小笠原は走りながら自分で見えますが、本塁タッチアウトで1塁へ転送のダブルプレイの可能性ありますから、とりあえず1塁までまっすぐ全力疾走となります。本塁付近のプレイは1塁へ走っている小笠原には、背中方向のプレイですから状況が見えていません。
セカンド平野の返球が城島のミットに入ったのは【0:10】です。この時小笠原は1塁へ走っている途中です。小笠原の1塁付近での動きはカメラが捉えていないのですが、10秒間で2塁まで言っていることを考えると、答えは1つです。
まっすぐ1塁まで走ったあと、1塁を駆け抜けた直後、すぐにブレーキをかけ、ボールの行方を確認するために向きを変えます。1塁への送球がなかったことで、坂本が挟まれていることを第一に予測、場合によっては、脇谷が挟まれていることと、遅れて遅れて1塁へ送球されたことを予測します。遅れて1塁へ送球された場合があるので、1塁を駆け抜けた小笠原はファールグラウンドのギリギリで中には入らないところで反転します。ここならタッチされても基本はセーフです(例外あり)。
城島が坂本を追いかけているの確認できた瞬間に、2塁へ全力疾走し、10秒間で到達です。50mを7秒くらいで走るスピードです。
たった10秒間のプレイですが、ものすごくいろんなことが凝縮されています。野手にしろ走者にしろ、誰か一人の動きが変わるだけで、瞬時に違ったパターンの対応が迫られます。どんな状況に変化しても、すべてその中でのベストの選択をしなければなりません。そういうことを小さい頃から考えてプレイしていたかどうかが、ポロッと見えてしまいます。
何度も同じ状況に出くわすのではなく、野球人生で一生に一回あるかないかのプレイを瞬時に判断するだけの、ルールの理解や、頭の中でのシミュレーションをやっていたいたかどうかの差になります。
【0:23】大喜びの阪神真弓監督は、坂本ではなく、巨人をバカにしてはしゃいでいると思います。「お前ら、そんなことも知らないのかよ」
【0:25】呆れて物が言えない巨人原監督「こんなやつ使ってたのか、自分・・・」
この試合の終了後のインタビューで、このプレイに対し原監督は、「教えていなかった自分の責任」と答えました。
原監督にも、コーチ陣にも責任はありません。プロで教わることではなく、少年野球で教わることです。少年野球で坂本のチームメートだったヤンキースのマー君はこんな間違いしないと思いますから。
それよりも、こんなことの判断も出来ないのに、巨人のドラフト1位指名で入団した坂本は、とんでもなく凄い選手なのだということでしょう。
動画と文章を行ったり来たりさせて、大変申し訳ありませんでした。