免震ゴム、過去の納入品全数に疑いが広がる
昨日(3月25日)にアップされた東洋ゴムのIRニュースで、当初の発表とは違う、新たな大臣認定不適合の疑いがあることが公表されました。国土交通省には対しては、既に3月24日に報告を行っているとしています。
これまでの同社の発表では、大臣認定不適合製品は2,052基で55棟の物件に納入されていたとされていました。ところが、今回の発表で、もっと被害が広がることが予想されます。
いったいどのくらいの被害になるのでしょうか?
本日の日刊工業新聞が伝えています。
東洋ゴム工業は25日、建築用の免震積層ゴムで長年にわたり性能評価データを改ざんしていた問題で、これまでに把握した55物件以外にも疑いのある物件が約200件存在することがわかったと発表した。既に発表している高減衰ゴム系積層ゴム支承で、せん断弾性係数が異なる製品にも疑いが発覚。加えて一戸建て住宅用や天然ゴム系積層ゴム支承、弾性すべり支承なども含まれ、同社が過去に納入した免震ゴムのほぼ全数となる。
な、な、なんと、過去の納入品のほぼ全数に不適合の疑いですと!
しかも対象物件は約200件にのぼるといいます。
東洋ゴムの免震ゴムでの市場シェアは約2割、圧倒的シェア8割のブリヂストンに次ぐ業界第2位です。
謝罪会見の翌週早々から、東洋ゴムはブリヂストンに対し、交換用の免震ゴムの供給の協力要請をするとしていました。
もともと東洋ゴムの免震ゴムの生産は、フル稼働状態だと言われていました。交換用の免震ゴムの生産のキャパシティは無いだろうなとは思っていましたが、こうなってくるとキャパの問題ではなく、そもそもまともな免震ゴムを製造する技術力がなかったということが露呈しました。
製品の性能が「アバレる」ことを制御できないまま、フル稼働で量産をしていたわけです。製品性能を一定レベルに収められない状態は、通常「開発段階」とか「試作段階」としか言いません。それをフル稼働で「量産」していたとは、呆れてものも言えません。メーカーとしてあるまじき行為です。
その開発が成功していない製品に対し、営業サイドが納期のプレッシャーを与えていることも不愉快です。
そもそも完成していない製品を販売していたのではないか!!
建築物の設計、構造計算の段階で、採用する免震ゴムのメーカーが決められると思います。それまでのプレゼンでブリヂストンに負けないように、営業が必死に売り込みをしていると思います。
焦点は、ここです。山本社長が言った『納期のプレッシャー』の納期とは、一般的には納入期日を指しますが、そうではなく大臣認定を取得するための申請の期限を指すのでしょうか?
新聞社の記者は、もっとこういうところを質問して欲しいなとイライラしてます。
大臣認定が取得できていなければ、販売できないと思うのです。基準適合品でなければ採用されませんから。認定の申請から、認定が降りるまでには数ヶ月かかるそうです。でも、全数に不適合の疑いということは、最初から適合品が製造できていなかったことになります。
営業部門はそれを知らなかった?
工場側ですべてを隠して、認定を取得し、営業部門を騙していた?
それとも、みんなで知っていた?
さて、実態はどうなのでしょうか。
免震ゴムの構造は硬いミルクレープハンバーガー
左上のイラストは、スイーツのミルクレープです。右はミルフィーユの写真です。免震ゴムの構造と不良原因の考察をわかりやすく説明するために掲載しました。
ミルクレープは、クレープの間にクリーム(果実も入ったりする)を挟み、何層にも重ねたものです。今回問題となっている免震ゴム装置である『高減衰ゴム系積層ゴム支承』の内部構造も似たような構造です。
円盤型の鋼板と硬質ゴムをミルクレープのように交互に何層も積層してあります。鋼板と硬質ゴムは接着剤で接着されています。硬い鋼板の間に挟まれた、鋼板より柔らかい硬質ゴムにより、早い地震の振動を遅くゆっくりとした振動に変える効果を持っています。
鋼板と硬質ゴムの積層構造をフランジという、より大きな外形の鋼板でサンドします。鋼板をバンズにして、具材が鋼板と硬質ゴムでできたミルクレープで作ったハンバーガーみたいな装置です。
その装置が、高層ビルやマンションの柱の下に設置されて免震構造となります。
建築物の重みに耐えながら、横の振動にはゴムの弾力性が活かされる構造です。勿論建築物の重さで潰されないだけの硬度を持っています。鋼板と硬質ゴムで出来ていますから。ミルフィーユも食べるときに簡単にフォークが刺さらずに、横滑りするではないですか。たとえが適切かどうかちょっと不安ですが。
このミルクレープハンバーガーの具のミルクレープのまわりをさらにゴムで被覆します。被覆ゴムの役割は、具になっているゴムの部分を紫外線や水分から守ることです。ゴムは紫外線で劣化が進みます。水分も水だけでなく、油分などが含まれていればより劣化が進みます。具のゴムの耐久性と性能維持のために、外周をさらにゴムで覆います。
基本構造は、トップメーカーのブリヂストンも東洋ゴムも一緒です。違いは、被覆ゴムをブリジストンでは、「後(あと)巻き」すること、東洋ゴムは一体成型していることです。
「後巻き」とは、文字通りあとから巻くことです。ミルクレープのまわりをあとからクリームで覆います。
「一体成型」とは、ミルクレープを少しだけ大きめのケーキの型に入れて、まわりの隙間にクリームを流し固めると想像してください。
鋼板とゴムでできたミルクレープを金型の中に入れて、まわりの被覆ゴムを成型し、被覆ゴムと具を一体化させる方法です。
品質の差はどこにあるのか
(1) 「後巻き」か「一体成型」か。
製法の絶対的な違いが、この1点です。
あとから巻かれたものに比べ、一体成型のほうが、何かしら悪い影響がでる場合があるのではという点。
(2) それぞれの部材ごとの品質。
部品としての鋼板、部品としてのゴムのそれぞれの品質です。それぞれ量産で生産されているとはいえ、微妙に寸法などにはバラツキが出ます。そのため図面上でも寸法交差という振れ幅が認められています。中心寸法に対し±いくらかの誤差は許容されています。免震ゴムは、そうした部材を何層にも積層して作りますので、個々の寸法の違いが製品としては累積されます。
厚み方向に±0.3mmの寸法公差が認められていたとします。ゴム・鋼板・ゴム・鋼板・ゴム・・と何層なのかはしれませんが、仮に鋼板が40枚、ゴムが41枚とします。ブリヂストンでは製品により、ゴムの厚みは1~3mmのようです。鋼板の厚みは把握していませんが、ゴムより相当厚いと思います。
ゴムの厚みが10㎜とします。寸法交差が±0.3mmとします。
t(厚み)=10±0.3mm✕41枚が使用されるゴム全体の厚みの合計です。
総厚みは、410±12mmとなり、理論上のもっとも厚い場合は530mm、最薄は29mmとなります。ゴムが地震の振動に対する緩衝材の役割をします。実際の寸法公差をどこまで規制しているかは、各社の図面を見なければ、わかりませんが、個々の微妙な寸法による性能の違いが、積層されることで累積します。
(3) ゴムの成形方法や原料の選定はどうか。
射出成形なのか、圧縮成形なのか。どちらもタイヤメーカーですから、ゴムの原料の選定から成形方法の選定まで、プロ集団であることは間違いありません。ただ、使ってるゴムの原料のグレードや成形方法、成形条件までは同一ではありません。そこには各社のノウハウが注ぎこまれています。
また、こうした製品にはいろいろな特許が出されています。先行して特許を出されている場合、後発の会社はその特許を逃げた形で製造しなければならなくなります。そうした制約を避けるがゆえに、もっとも品質が安定する製造方法以外の選択を余儀なくされた結果も考えられます。
他にも細かく言えばキリがありません。一番怖い品質の違いは、次です。
(4) 不正がバレたか、バレていないか。
バレた方は正しい性能データが表面化します。バレてなければ、取り繕ったデータです。
TOPメーカーのブリヂストンに至ってはこうした不正がないと信じたいです。そんなことがもしあったら、東洋ゴム製品を交換するときの代替品が調達できなくなってしまいます。
それどころか、免震構造から免震ゴムが消失します。
日本は地震が多いのです。近い将来に巨大地震が予測されています。
お願いですから、業界全体に波及していかないでください。
なんだか急にミルクレープ食べたくなった。。。