[事故原発で道路火災]謎の火災じゃ済まされない

福島第一原発構内で、主要施設から離れた道路脇の草むらが少し焼けた火災、というだけにとどまらない。この出来事からは、事故原発内部の管理体制がどうなっているのかといった問題や、トラブル発生時にその事実を「どのように」公開するかという東京電力の姿勢までもが透けて見える。

火災原因はこれですとばかりに写真発表。しかし…

3月21日に事故原発構内の道路で発生した火災について、東京電力は火災発生当日に撮影された現場に落ちていたブレーキドラムの破片らしきものの写真を発表した。

写真とともに発表された報道配布資料は、写真に写った破片が撮影された場所を示すだけのもの。火災は道路の両側(北西側と南東側)で発生したとされていたが、24日の資料で示されたのは北西側のみ。なぜ片側だけなのか、また火災の詳しい原因についても説明されていない。

福島第一原子力発電所構内 5 ・ 6 号機西側道路脇の土手からの出火について(現場状況)|東京電力 平成27年3月24日」より

火災発生当日から「怪しい」と睨まれていたブレーキ片。しかし該当する車両についての発表は行われず

「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」で発表された文字情報から、これまでの経過をたどると、

○3月21日午前11時48分頃、5・6号機西側道路脇で火災が発生しているのを協力企業作業員が発見し連絡。火災は道路の両側で発生していた。

○3月21日午後0時24分頃、自衛消防隊と双葉消防本部による消火活動で鎮火。

○3月21日、火災発生、鎮火、プラントデータとモニタリングポストに有意な変動がないことを記した報道配布資料を発表。

○3月22日、延焼範囲の場所と大きさ、延焼範囲のケーブルや配管の被害状況、そして破損したブレーキ部品が原因である可能性が高いと発表。

○3月24日、火災当日に撮影されたブレーキドラムの破片と思われる写真を発表。ただし、道路の両側で火災は発生しているのに、片方のみ。しかも説明も付けられず。

東京電力が「火災発生の原因になった可能性が高いと思われる」とするブレーキ部品だが、独立行政法人・交通安全環境研究所の資料でも「ブレーキドラムが過熱、タイヤなどが発火」と大型車での車両火災の例が紹介されている。しかし、ブレーキドラムが破損して、しかも飛散した破片が火事を引き起こすくらいなら、まずタイヤが発火するだろう。またブレーキが破損した車両自体、無事ではあるとは思えない。

東京電力もおそらくそう考えたのだろう。22日発表の「日報」には、「該当する車両がないかも含めて、引き続き調査」と記されている。

火災の原因については調査中だが、車両の一部(損傷したブレーキ部品と思われる破片)が道路および延焼範囲に落ちており、火災発生の原因になった可能性が高いと思われる。該当する車両がないかも含めて、引き続き調査を実施。

引用元:福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年3月22日

しかし、2日経った3月24日、発表されたのはブレーキドラム片らしき部品の写真のみで該当する車両があったかどうかも説明されていない。つまり、まだ見つかっていないのか、あるいはそんな車両など元々なかったということなのか?はたまた、火元になるほど加熱したブレーキ片をまき散らした車両は空かどこかに消え去ったとでも言うのだろうか?

火元とされる破片と風向きの齟齬

あらためて火災当日の21日に発表された資料を参考までに見てみよう。火災場所と延焼範囲が示めされているだけで、24日に発表されたものと同様、核心につながるような説明は見られない。

「福島第一原子力発電所構内5・6号機西側道路脇の土手からの出火について|東京電力 平成27年3月21日」より

この資料の写真から分かるのは、火災が発生したのは道幅が少なくとも6m以上ありそうな道路であること。車両から落下した何かが原因だとしたら、道の両側に火の元になるようなものが転がっていったことになる。それに、両側で火災が起こっている以上、24日発表の資料にあるのが北西側だけというのは解せない。

ちなみに、火災当日の風向きや風の強さの参考値として、事故原発近くの気象庁の観測ポイント「浪江」と「広野」の気象データを調べてみると、火災が発生したと思われる時間帯の風向きは東寄りだった。(火災が発見されたのは午前11時48分頃)

事故原発の北と南、気象庁の観測ポイント「浪江」と「広野」の気象データ

これらの気象データは事故原発のものではない。まして火災現場での当時の気象を示すものでもない。それでも、事故原発を挟んで南北の近距離にある浪江と広野の観測ポイントで同じような傾向が見られるということは、事故原発でも似通った気象条件だった蓋然性は高いだろう。(東京電力が観測している事故原発の気象データを公開してくれるとありがたい)

3月21日10時30分~12時00分の10分ごとの気象データを見てみると、風向は東や北東、東北東なので、風上に火元があったとすれば延焼した形状も説明がつきそうだ。しかし、ブレーキドラムの破片らしきものが落ちていたとされる場所は、延焼範囲のむしろ風下側(「現場状況(北西土手)」と延焼範囲の写真に写った黒・銀・オレンジの配管の重なり具合から、ブレーキ片が撮影された場所が延焼範囲の真ん中やや風下寄りであることが分かる)。

風というものがいつも同じ方向に吹くものではないとはいえ、これはちょっと合点がいかない。草むらに飛び込んで直接の火元になったような「破片」の写真がないのも不自然だ。

一方風速は最大瞬間で5m前後、平均では2~3m前後。ビューフォート風力階級では風力2、「顔に風を感じる。木の葉が動く。風見も動き出す」程度の微風だった。このことは何はともあれ不幸中の幸いと言うべきだろう。なぜなら、路上に落ちた「破片」に枯れた草葉が触れて飛ばされて引火して、消防隊にも手に負えないような大火災に発展するようなことはなかったのだから。