東洋ゴムってどんな会社?
2015年3月13日、東洋ゴム工業株式会社(本社:大阪市西区)は、同社が製造する建築用免震積層ゴム『高減衰ゴム系積層ゴム支承(高減衰ゴム)』について、不良品の出荷、性能評価のデータ改ざんによる不正な国土交通大臣認定取得があったことを発表しました。
東洋ゴムとは、どんな会社でしょうか。
一部上場企業です。車を運転する人には「トーヨータイヤ」と言えばピンとくるかと思います。国内で第4位のタイヤメーカーです。同社の事業の79%がタイヤ事業で、残りのダイバーテック事業として、産業資材、建築資材、自動車用部品を製造・販売しています。
常に人の命や安全に関わる重要な製品を作っている会社です。
2007年11月、同社が製造・販売した『硬質ウレタン製断熱パネル』で、防火認定(準不燃材料・不燃材料・準耐火構造・防火構造)の国土交通大臣認定を不正取得したことが判明し、当時の社長が引責辞任をした会社です。
8年前に続き、2度目の不正認定取得です。前回は、防火認定を受けるための性能評価の試験体となる断熱材を実際の製品と異なる材料で作って提出して、性能評価をパスして認定を取得しました。この不正は15年間に渡り、部長クラスで引き継がれていた組織的犯罪であったことが判明しています。
何のための国交大臣認定か
建築材料が国土交通省大臣認定を受けるのは、どうしてかを解説します。建築基準法により、こうした認定を受けなければならない材料の規定があるからです。
(目的)
第一条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を 定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に 資することを目的とする。
(建築材料の品質)
第三十七条 建築物の基礎、主要構造部その他安全上、防火上又は衛生上重要
である政令で定める部分に使用する木材、鋼材、コンクリートその他の建築材
料として国土交通大臣が定めるもの(以下この条において「指定建築材料」と いう。)は、次の各号の一に該当するものでなければならない。
一 その品質が、指定建築材料ごとに国土交通大臣の指定する日本工業規格又は 日本農林規格に適合するもの
二 前号に掲げるもののほか、指定建築材料ごとに国土交通大臣が定める安全上 、防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであるこ とについて国土交通大臣の認定を受けたもの
建築基準法は、国民の生命、財産を守るために建築物の構造に関する「最低の基準」として、安全上必要な品質に関する技術的基準に適合する(国土交通大臣認定)材料でなければ、使用を禁じており、免震材料は、建築法による国交大臣認定が必要な材料に規定されています(建築基準法に基づく告示「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件」、「免震建築物の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める等の件」)。
要するに、免震材料は、技術的基準(性能評価)をクリアし、大臣認定を受けた製品以外は、使用が禁止されているのです。しかも建築基準法が第1条で謳っているように、この技術的基準は、安全上の最低の基準なのです。
東洋ゴムは、自社の製品がこの「最低基準」に到達しないレベルの製品であるにもかかわらず、データを改ざんし、大臣認定を取得して、製品を販売していました。これら問題の製品は、2004年7月から2015年2月まで、2,052基の免震装置の積層ゴムとして、18都道府県に渡り55棟の建築物に使われています。
広報資料にも垣間見る企業の体質、そして疑惑
「建築用免震積層ゴムの一部製品」に関するお詫びとお知らせ
弊社子会社の東洋ゴム化工品株式会社が取り扱っております高減衰ゴム系積層ゴム支承の一部製品について、国土交通大臣認定の性能評価基準の不適合、および大臣認定の一部につき不正取得を行っていたことが判明いたしました。
当該製品が使用された物件の所有者様、居住者様、施主様、建設会社様をはじめ、関係者の皆様には、多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
当社は本件に関して、社内対策本部を設置し、外部の法律事務所とともに事実調査および検証を行なっております。
また、当該製品を納入した対象物件に係る「建築物としての安全性に問題のないこと」を確認すべく作業に着手しており、その遂行に注力してまいります。
上記は、東洋ゴムが自社のホームページ上にアップした内容です。
同社は、2014年2月にデータ改ざんの可能性に疑いを持ち、2015年2月にその可能性を国交省に報告しました。この1年のタイムラグは何でしょうか。そして公式発表が3月13日です。国交省に報告してから、記者会見までの間の3月4日に、第99回定時株主総会の招集通知が出されています。株主総会は3月27日の開催です。招集通知に添付される総会資料では、一切この件に触れていません。
同社の今回の件に関する謝罪のプレスリリースの中で、妙に引っかかる(違和感を感じる)表現が、繰り返し登場します。
「建築物としての安全性に問題のないこと」という表現です。
当該製品を納入した対象物件に係る「建築物としての安全性に問題のないこと」を確認すべく作業に着手しており、その遂行に注力してまいります。
対象物件の各建設会社様、及び各設計事務所様に対し、「建築物としての安全性に問題のないこと」の検証(構造計算)を行っていただくよう依頼を始めております。併せて、対象物件の所有者様、居住者様等に連絡を取り、誠意をもって今後の対処についてご相談を進めてまいります。また、これらと並行して、当該製品についての大臣認定を改めて取得すべく、その手続を進めてまいります。
4.今後の対応・対策について
関係各位のご指導、ご支援を賜りながら、当該製品を納入した対象物件に係る「建築物としての安全性に問題のないこと」を確認すべく、対象物件の各建設会社様及び各設計事務所様に対し、速やかな検証(構造計算)を行っていただくよう依頼する作業に着手しており、その遂行に注力してまいります。安全性が確認できた対象物件に納入した当該製品に関しては、当該製品の前提となっていた大臣認定を改めて取得する手続を進めてまいります。
・・・万が一、当該製品を使用した対象物件の安全性に懸念が生じた場合は、国土交通省及び特定行政庁のご指導の下、当該製品の交換等の対応を可及的速やかに進める等、当社経営の最優先事項として対処してまいる所存です。
通常こうした事態が発覚した時には、当該製品を納入した対象物件に係る「建築物としての安全性」を確認すべく・・・と言った表現になるのだと思いますが、同社の表現は、「安全性」について、あまりにも自信に満ちた表現です。
さらに、安全性が確認されたら、大臣認定を改めて取得する手続を進めるとまで言っています。
同社の社内で不正が発覚してから、国交省への報告まで1年かかっています。この件について、謝罪会見で山本卓司社長は、「調査はしていたが、遅いと言われても仕方がない」と答えただけです。
10年間一人で携わっていた担当者による改ざんで、配置転換で後任者により発覚したのが2012年2月であれば、何の調査に1年もかかるというのでしょうか。
ここから先はあくまでも推測です。
(1)プレス発表時には、すでに「建築物としての安全性に問題のないこと」を確認すべく作業に着手しておりと言っている。
(2)1年間かけて、建築基準法に違反した製品が納入された対象物件の「安全性確認」の構造計算を行ってきた。
(3)「安全性には問題無い」という結果が得られたので、公表した。
こう考えると、不敵とも思えるくらい自信に満ちた表現が腑に落ちます。もし推測通りであれば、安全性が確認できない計算結果が出ていた場合、問題を隠蔽した可能性を疑いたくなります。
・製品開発の遅れが市場参入への障壁となるとの判断が、不正をしてでも事業を継続しようとする動機となった。
・事業の導入を会社に提案した責任者が、下位の販売・技術の担当者らに圧力をかけたことが想定される。
・事業の責任者等の暗黙の了解の雰囲気があって、個々人として不正関与意識も浅いまま今日に至った。
・本事業導入のリーダーであった当時の役員の強いリーダーシップが下位者をして不正行為の実行の指示・圧力と判断せしめた可能性がある。
引用元:ニチアス(株)及び東洋ゴム工業(株)による性能評価試験における不正受験の原因究明・再発防止策に係る報告について|国土交通省
上記は、2007年の断熱材の不正認定取得の際の原因究明の結果の報告です。こうした事件の再発防止のために、コーポレート・ガバナンス、内部統制システム、コンプライアンスのさらなる強化と社員教育、CSR経営の推進に取り組んできたはずです。同社には制度として不祥事通報者制裁減免制度といった制度まであります。
ではなぜ、発覚から報告までに1年間もかかったのでしょうか。制度が運用上機能していないからと思うのが妥当でしょう。本当に担当が一人で起こした改ざん事件で、他の誰も気づかなかったといえるのでしょうか。
メーカーで開発や製造、品質管理に関わっている多くの方が疑問を持ったと思います。国交大臣認定を取得しなければ、販売出来ない製品の開発であれば、評価試験の結果については、関係する技術者たちやその上位者が知らないわけがないです。研究開発とはそういうものです。こうした隠蔽は、組織ぐるみでなければ通常できないだろうと思います。
そして、発覚を報告した後任担当者は、なぜ1年間も事実を公表しないことに疑問を持たないのでしょうか。それは、あらゆる制度が機能していないからです。報告は当然ですが、職責上の上位者に対してします。いきなり経営トップには行きません。報告を受けた上位者には、更に上司がいます。段階を踏んでトップに報告が届きます。
企業の不祥事で多いのが、この段階でマスクがかかることです。不正を見抜いた後任担当者は、不正に関わっていません。ただ、自分の上司たちが関わっていないとは言い切れません。保身を図る上司は、報告を握り潰す可能性があり、事態が深刻化するケースが一般的です。
こうしたことがないように、できるだけトップに近いところに不祥事の報告が届くように設けられているのが、内部通報制度です。1年間も発表が遅れている事自体を「おかしい」ということができない組織の文化の上の、名ばかりの制度になっていたのではないでしょうか。
株主総会用資料の事業報告にも、監査人の監査報告にも、今回の件は一切記載されていません。昨年2月に社内で発覚し、今年の2月に国交省に不正の報告をしているのです。
同社の決算期は12月です。昨年の株主総会が2014年3月、今回の株主総会が2015年3月です。2期にまたがり、「重要なリスク」を株主に隠蔽しているのです。
今回の株主総会の日を持って、現任する8名の取締役全員が任期満了を向かえます。
株主総会の第3号議案では、任期満了となる8名の取締役のうち、7人が再任を受けるための候補者となっております。任期満了で退任するのは、1人だけで、決算期末の昨年12月まで、ダイバーテック事業本部長だった取締役です。そして2015年1月1日付で無錫東洋美峰橡胶制品制造有限公司 董事長との兼務となっています。新たな候補は、2014年11月1日に経営企画本部長からダイバーテック事業本部の副本部長に移動していた方です。
ダイバーテック事業部が本件の不祥事が起きた事業部です。
同11月1日付で、代表取締役社長が代表取締役会長に、代表取締役専務が代表取締役社長に、常務が代表取締役専務に就任しています。
昨年2月に不祥事が発覚して、11月には不祥事の起きた事業部に新たな事業副本部長が就任、経営のトップ3は揃って立場を変えながら、代表権を持つ取締役が1人増える。年が明けて1月1日付で、不祥事が起きた事業部の取締役本部長は中国の子会社の董事長の兼務であったが、事業本部長の任を退き、今回の総会で取締役としての任期を終え、11月就任していた副本部長が新たな取締役本部長の候補になっている。
発覚から報告まで1年間かかったのはこうした準備のためではないかと勘ぐりたくなります。
上記の表は、同社の3月27日の株主総会で保有する議決権数の上位10名です。
上位10名で、40%を超えます。
真実はまだわかりません。取締役の選任は、出席株主(委任上も含む)の*2/3の賛成が必要となります。
上位株主は、一流企業です。CSR(企業の社会的責任)についても対応している企業群です。株主としての責任を総会の決議にどのように反映させるかに注目したいと思います。
あくまでの私の推測であることをもう一度伝えます。
車のタイヤはだいじょうぶでしょうかね?
*同社は定款により、「取締役及び監査役の選任決議について、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数によって決する」となっていました。