[炉心溶融]融け落ちた燃料デブリの検知に向けて、第一歩!

2月9日、東京電力の「写真・動画集」ページに「福島第一原子力発電所 原子炉内燃料デブリ検知技術の開発について(1号機)」というページが追加された。

しかし、写真を見ても、同じく公開されたニュースリリースを見ても、何だかよく分からない。写真をとおして分かるのは、大きさの割に重そうな物体を大型のクレーンで吊り上げて1号機の原子炉建屋側に設置されたらしいということのみ。

しかし、この写真紹介ページでは動画まで公開されている。動画といっても大型トレーラーで運んできた「ハコ」をクレーンで吊って設置する様子が映されているだけだが、この力の入れようはただ事ではない。「原子炉内燃料デブリ検知技術」という言葉からして凄みが感じられる。

以下、過去の発表資料から

昨年のクリスマスの日、「原子炉内燃料デブリ検知技術の開発進捗報告」という資料が発表されている。その内容は、圧力容器の中で溶融して、格納容器の底まで融け落ちたとされる燃料デブリを検知する「新技術の開発」というもの。当時も現在も1号機では、建屋の外側のカバーを撤去し、建屋上部のガレキを撤去する作業が一時休止した状態だが、それでも融け落ちた燃料の取り出しという核心的な作業についての研究は進められてきたというわけだ。

資料の内容を整理すると、圧力容器や格納容器下部の燃料デブリの位置や量、燃料集合体の損傷の度合い、狭い場所への流れ込みの有無、融け落ちた燃料の密度分布などが分からなければ、取り出し作業の手順を考えたり、工法を開発することができない。しかし、圧力容器の中は線量が余りにも高いためアクセスすることができない。

そこで、「ミュオン」による透視技術を使って、燃料デブリの分布を早期に調べ、廃炉のための技術開発に役立てよう、ということらしい。

しかし残念ながら、東京電力の資料には「ミュオン」についての説明がほとんどない。作業が行われた時期、機器が設置された場所からいって、2月9日に設置されたのが、ミュオンによる透視技術を使った最新の機器であることは間違いなさそうなのだが。

火山と原発の内部構造

ミュオンとは電子と同じ種類に分類される素粒子のひとつで、宇宙線として地表に降り注いでいる。地表では1秒間に1平方メートルあたり170個ほどのミュオン粒子が通過している。地上に降ってくる宇宙線の7割がミュオン粒子だといわれる。

宇宙線といっても、日常生活にはまったく無縁に思えるが、ミュオン粒子を使った透視技術は、火山の内部を見る研究に活用され、注目を集めている。火山の内部構造やマグマの様子などをレントゲン写真のように見ることができれば、地球のしくみを調べたり、災害を防ぐ上でも貴重な資料になるだろうとは誰もが思いつくかもしれないが、残念ながらX線は火山をつくっている物質にほとんど吸収されてしまう。そこでX線よりも透過する力が強いミュオン粒子の利用が考えられたのだという。

水平方向から飛来するミュオン粒子は、火山を透り抜けて反対側から出てくるが、その一部は火山を構成する物質に吸収される。吸収されるミュオン粒子の数は物質の密度と通過する長さの積に比例するので、ミュオン粒子がどれだけ減ったかというデータから、火山の中の密度分布を知る事ができるという。すでに東京大学地震研究所では浅間山や筑波山で火山の内部を撮影することに成功しているそうだ。

※以上、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構=KEKの「キッズサイエンティスト」ページを参考にしました。

ミュオン粒子を使った物質の透視は火山ばかりでなく、ピラミッドの内部構造調査でも成果を挙げている(こちらも地震研究所)。

原子炉の廃炉についての研究を進めているIRID(技術研究組合 国際廃炉研究開発機構)のページによると、まさにドンピシャだった。今回搬入されたのは、IRIDがKEKと連携して進めている「ミュオン透過法」と呼ばれる技術を使った測定器。周辺の放射線の影響をキャンセルするための厚さ10センチの鉄の箱の中に、KEKが製作した光ファイバーによる検出器が組み込まれる様子まで写真付きで紹介されていた。

検知器は、1200本もの波長変換用の光ファイバーを組み合わせたものなのだという。この光ファイバーはミュオン粒子があたると光る仕組み。原子炉内を透り抜けてきたミュオン粒子の数をカウントし、蓄積していくことで原子炉内の現在の状況を「絵」として描き出していくことが期待される。

東京電力からのリリースに詳しい説明がなされていないのは残念だったが、燃料デブリがどこにあるのか、原子炉はどのように破壊されているのかを調べることは、廃炉への道を進める上での大きな一歩。

融け落ちた炉心の内部の様子を、宇宙線の力を借りて調べるという人類初の試みの成功を祈りたい。