東京電力は2014年12月17日、報道関係各位一斉メールというホームページを通して、「福島第一原子力発電所Jタンクエリアからの水漏れについて」を発表した。
その内容は驚くべきものだった。タンクエリア間の配管がつながっていないのに、多核種除去設備(ALPS)の処理水を流して、漏らしてしまったというのだ。
今年の8月末~9月上旬の時点でGoogle Mapの航空写真地図が過去のものに差し替えられたこともあり、またマスコミによる空撮も減ってしまったため、新しいタンクエリアでのタンク増設の状況は分かりにくくなっているが、東京電力が過去に発表した資料等によると、J5タンクエリアもJ6タンクエリアも、最近になってタンク増設のために造成された新たなエリアであるようだ。
もしかしたら、設置完了した新たなタンクに、初めて処理水を送ろうとして漏らしてしまったのかもしれない。
東京電力が発表した報道関係各位一斉メールを引用する。
第一報
本日(12月17日)、多核種除去設備処理水をJ6タンクエリアに移送しておりましたが、J5タンクエリアとJ6タンクエリアの配管が一部接続されておらず、同日午後3時00分頃、当該処理水が漏えいしました。
当該処理水は堰外に漏えいしましたが、当該接続配管の弁を閉じて、漏えいは停止しました。
また、漏えい箇所近傍には排水溝はないため、海への漏えいはないことを確認しました。
現在、漏えい状況等を調査しております。
なお、モニタリングポスト指示値の有意な変動は確認されておりません。
以 上
まずは、「漏洩が止まらないという事態には陥らなかったこと」「海への漏洩はなさそうだ」という報告に力が入る。もしも弁を閉めても止まらなかったらそれこそ大量漏洩に直結する大事故だ。海への漏洩は、とりあえず目視では確認されなかったという意味で、地中を伝って漏れるかどうかは分からない。最も重要なのは、タンクエリアから外に漏らさないために、昨年のH4エリアでの漏洩事故の後「わざわざ」設置してきた、堰(タンクエリアの外側を囲む小規模な堰堤)の外に漏洩したということである。
続報
第二報での主眼は、漏洩量と漏らした水の汚染濃度の推定。漏洩量は移送量と移送時間からの推計。汚染濃度は漏らした現場ではなく水源での直近の数値。
多核種除去設備処理水をJ6タンクエリアに移送時に発生した漏えいに関する続報です。
現場確認の結果、漏えいした水は近くの土壌に染みこんでいること、また配管トレンチに溜まっており、その先も土嚢により流出が止まっていることを確認したことから、海への流出はないと判断しました。
漏えい量は、移送量と移送時間から約6トンと推定しております。
至近(12月15日)における当該処理水の分析結果は、以下の通りです。
・多核種除去設備A系処理水:8.9×10^1 Bq/L(全ベータ)
・多核種除去設備C系処理水:1.2×10^2 Bq/L(全ベータ)
今後、漏えいした土壌の回収および配管トレンチに溜まった水の回収を行います。
示された分析結果は、実際に漏洩した水ではなく、漏洩水の水源である多核種除去設備(ALPS)での処理水濃度であることに注意が必要だ。処理水の濃度は、いずれも全ベータの値で、
・多核種除去設備A系処理水:89 Bq/L(全ベータ)
・多核種除去設備C系処理水:120 Bq/L(全ベータ)
漏洩したものの水源は、ALPSで処理される前の高濃度汚染水ではなく、処理後の水であることを示している。
※ それにしても、処理後でもこの数値の高さであることは、しっかり記憶しなければならないだろう。とてもじゃないが処理後の水を環境(海でも敷地内であっても)に排出することは許されない。
続いて法令に関する判断が示された。
また、本件については、本日(12月17日)午後4時25分に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法令第62条の3に基づき制定された、東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則第18条第12号「発電用原子炉施設の故障その他の不測の事態が生じたことにより、核燃料物質等(気体状のものを除く)が管理区域内で漏えいしたとき。」に該当すると判断いたしました。
第三報
第一報では排水溝はないので海への流出はないという説明だったが、ここで配管トレンチという言葉が登場する。
多核種除去設備処理水をJ6タンクエリアに移送時に発生した漏えいに関する続報です。
配管トレンチ内の溜まり水(雨水も含む)については、本日(12月17日)午後7時35分に回収を完了しました。回収量は約9m3です。
漏えい水が染みこんだ土砂については、本日(12月17日)午後5時30分までに約20m×0.5mの範囲で回収しております。
<参考>
福島第一原子力発電所Jタンクエリアからの水漏れについて(現場写真)
http://photo.tepco.co.jp/date/2014/201412-j/141217-01j.html
Jタンクエリアからの水漏れ箇所概略図
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_141217_10-j.pdf
写真を見ると確かに配管が地面の下に引き込まれている。これが配管トレンチなのだろう。その箇所には金属製のグレーチング(金網)は掛けられているが、蓋などはなさそうだ。第一報にある排水溝がないから海への流出がないということなら、トレンチから外部に下水のように流れ出すドレンもないと考えられる。つまり、配管トレンチにも排水用の雨が降ったらどんどん水が溜まることになる。
(今回の水漏れ事故以前に、そもそもトレンチの排水をどのように行う計画だったのかも、大きな問題だ。加えて漏洩の危険がある場所に地下トレンチをつくることの是非、またその製作精度の問題も指摘されるべきだろう)
第二報では漏洩量は約6トンとの見解が示された。第三報には配管トレンチから回収した水の量は9トンとある。雨水が溜まる構造になっているであろう配管トレンチから、差し引きして漏洩量以上の水を汲み上げたからといって、この報告は、漏らした水の全量回収という考え方から言うと意味がない。
東京電力が発表した写真と配置図
残念ながら、これらの写真からだけでは、漏らした場所がどこで、どのように広がっていったのかは判断できない。伝わってくるのは右の写真に写る2人の人物のとても困っているような雰囲気くらい。配管がつながっていなかったという「現場」の写真はどうして公開されないのだろうか。
そして東京電力が示した「Jタンクエリアからの水漏れ箇所概略図」がこちら。
写真と見比べることで何かわかるかと期待したのだが…。
むしろ、東京電力が今年の6月25日付で発表した「J6エリア(駐車場)へのタンク設置について」という資料の方が情報量が多い。
半年前の資料によると、以下のことがわかる。
・J6エリアは正門東側駐車場の約半分の面積に設置されたタンクエリアである
・タンクは現地溶接式で、合計2.5~3万トンの容量として計画された
・スケジュールでは、本年12月からタンク設置が行われることになっていた
・J6は「中低濃度タンク」という位置づけである(J5も同様)
・J5は1,000トンタンク、J6は1,250トンタンクとして計画申請されている
どうやら、新造後に初めて送水した際に漏らしてしまった可能性が濃厚だ。
11月12日に発電機から火花が生じた時に作成したJ4エリア近くの地図を参照すると
1カ月ほど前の11月12日、タンク増設が進むJエリアで発電機から火花が出るという事象が報告された。場所はJ4エリアということだったが、その際に作成した地図にはJ5エリアもJ6エリアも示されていたので引用する。
東京電力が今回発表した水漏れ箇所概略図と見比べると、火花が発生した発電機のすぐ近くだったことがわかる。そして、漏洩箇所が正門や敷地境界から極めて近い場所だということも具体的に見てとれる。(地図上で測定すると260メートルほどだった)
また、東京電力が発表した左の写真の撮影位置が、写真に写っているタンクの配列からして、J5エリアとJ6エリアの間とは考えにくいのも解るだろう。J4エリアとJ5エリアの間を、発電機の火花事象が起きた近くに立って、東から西向きに撮影したものである可能性が高いように思える。
いずれにしても、さらに詳しい報告が待たれるところだ。
現時点でのまとめ
○原因は、接続されていない配管にALPSからの水を流して漏らしてしまったこと
○漏洩量は推定に過ぎない。また漏らした現場での汚染濃度は未発表
○水源での濃度でも全ベータが1リットルあたり89~120ベクレルと低くはない濃度
○規模は不明ながら地下構造物であるトレンチがあり、水が溜まっている
○漏洩場所は正門からきわめて近い場所である
○写真や概略図は示されたが、より正確かつ詳細な報告が待たれる
資料の10・11・12ページにJ6に関する記載がある