いちご畑日誌 2014年8月8日

春菊の苗の根元を包み込むようにして、路地畑に植え替えるおばあちゃんの手。腰は曲がっているけれど、驚くほどの早さで、しかもひとつひとつ丁寧に植え替えていく。時折りひょいとこっちを向いて「こうやって植え替えるんだよ」と教えてくれる瞳はまぶしいほど。

本日参加のおばあちゃんたちは、震災までずっと農業をやってきたという農業のプロフェッショナル。塩害や用水路などの農業施設が破壊されたせいで自分の畑で仕事をすることはできないでいるけれど、週に一度の健康農業「亘理いちご畑」の時には1人ひとりが主役として活躍している。

亘理いちご畑——。いちご畑と名づけられてはいるけれど、とくにいちごばかりを作っている訳ではない。いちごは宮城県南東部、亘理地区を象徴する農作物。亘理いちご畑は農業活動を通して、震災で被害を受けた地域の人たちのこころと体のケアをはかる、NPO法人ロシナンテスの活動だ。

今日も朝はラジオ体操から

8月8日金曜日のいちご畑は、ハウスと露地物の野菜の手入れと収獲作業。地域のおばあちゃん5人とスタッフ・ボランティアで楽しく行った。

ラジオ体操が終わると作業スタート。レタスやサラダ菜をどんどん収獲していく。毎回のことながら、おばあちゃんたちの手際の良さには驚かされる。

収獲する一方で雑草を抜く。収獲したレタスの根の部分を手でちぎる。ハウスだとお盆休みの間に水をやれないから路地畑に移植してみようかという話になって、さっそく何本か抜き取る。収獲した跡にこぼれた種から芽を出したマメの苗を見つけると、どこからともなく竹竿の切れ端を持ってきて、「マメはツルで巻き付いて上へ上へ伸びたいんだから、こうして支柱を立てやるとハウスの支柱にまで伝っていくだろ」。

腰が曲がったおばあちゃんなのに仕事が早い、というだけではない。1つひとつの作業に作物への思いやりが込められているのが伝わってくる。草削り鎌のような道具も使うけれど、作物には手で触れる。土を寄せる手にやさしさを感じる。

休憩のお茶っこでもいろいろなことを教えてもらう

これまたいつものことながら、予定よりもずっと早く作業は進み、夏の炎天下ということもあって早めのお茶っこタイム。

こどもの頃のこと、井戸の水が冷たくて美味しかったこと、チリリンと鐘を鳴らしながらやってくるアイスキャンディー売りの自転車のこと。10円玉だったか5円玉だったかを持って走って買いに行くと、もう売り切れていてがっかりしたという思い出。

次から次へと話が飛び出してくる。夏野菜の話からはナスの話題に盛り上がって、こんな言葉が飛び出した。

「親の言うこととナスの花には無駄はナス」

ナスは花が咲いただけ実るから無駄がない。親の言葉にも無駄がない、というお話。たとえば「秋なすは嫁に食わすな」という言葉があるが、その意味は「ナスは体を冷やすから、妊婦さんには良くない」ということ。

「ね、秋ナスは美味しいから食べさせないなんて意地悪な話じゃなくて、ちゃんと意味があるんだよ」

いちご畑のお茶っこタイムは、ボランティアやスタッフにとっても貴重な時間なのであります。

お互いの「居場所」

場所をロッシーハウス(ロシナンテスの拠点)の畑に移しての後半戦。日差しが強まって行く中でもおばあちゃんたちは元気いっぱい。カブ、パクチョイ、大根、インゲンなどなど収獲&手入れを進めていく。

大きくなりかけたスイカが割れていたのを見つけたおばあちゃんたち、「畑の上にカラスよけのヒモを張っておかないと、割れたスイカに味をしめたカラスに全部やられちゃうよ」とアドバイスしてくれる。

「インゲンは葉っぱに紛れて見つけないうちに大きくなっちゃうから、ちゃんと見つけてね」

「もうこの大根、抜いてもいいんじゃないかな。(うんしょ)あーこれは固くて辛いかな。(うんしょ)これは良さそうだな」

ボランティアさんと初対面でも、農作業をいっしょにやって、いろいろ話して教えて、という時間を過ごすうち、あっという間に打ち解けて、孫ほど年が離れたボランティアのヤマグチさんもこの表情。

仮設住宅の中に閉じこもっているのではなくて、太陽の下、自分の得意な農業を通して若い人たちと仲良くなる。当たり前の関わりなのかもしれないけれど、ここにあるのは特別な時間。

収獲した野菜をみんなで一緒に食べる

農作業の後はみんなで食卓を囲む昼ご飯。収獲した野菜を使った料理と、おばあちゃんたちが持ってきてくれた料理がテーブルに花を咲かせる。

本日もメニューは野菜づくし。キュウリ、ゴーヤ、トマトなど夏の素材と、それぞれ異なる味付けが楽しめて最高!

大勢でテーブルを囲み、おしゃべりしながらの食事というのがまた最高。いちご畑は月曜日から金曜日までの平日5日間、曜日ごとにいつものメンバーで行われるので、週に一度はこんな楽しいランチを楽しめるというわけ。

いいな、と思ったのはこの場面。帰省した孫たちと一緒に台所に立つおばあちゃん、といった感じの一コマ。

さらに今日は特別なサプライズも。

ボランティアのミキさんによるギター演奏に引き続き、おばあちゃんのひとりの誕生日を祝う会。一瞬ほろっと涙ぐむおばあちゃん。さらに、明日の納涼祭で踊る亘理音頭の振り付けを誕生会主役のおばあちゃんに教えてもらったりと、盛りだくさんなランチタイムだった。

「おばあちゃん、ありがとう」

「また来るんだよ」

帰りのクルマの中、そんな言葉が交わされた8月8日の亘理いちご畑。特別な出会いの経験が、ここ亘理いちご畑では毎日の日常なのであります。

写真と文●井上良太